地獄の急行『きたぐに』
 ゴールデン・ウィーク期間中のJRの新幹線・特急・急行列車は混雑するのがアタリマエで、混んでいることについて文句を言おうものなら「アホとちゃうか?」と言われそうだが、ちょっと腹立たしいことがあったのでそのハナシをしよう。
 ゴールデン・ウィーク後半の5連休、私は四国へ出掛けて来たのだが、この四国に向かう時、新潟と大阪の間を毎夜1往復結んでる急行『きたぐに』を利用した。
 5月1日、深夜2時2分に富山駅の2番ホームに滑り込んだ急行『きたぐに』はすでに満員の状態だった。満員の状態にもいろいろあると思うが、通路やデッキにもひとが『立ちん棒』状態であふれ返り、通路やデッキの床にべたぁ〜っと座る余裕すらないほどの混み具合。富山駅で結構降りた客が居たものの、私も含め、それよりも多く客が乗ったので、急行『きたぐに』の混み具合、ますます酷くなった。私はデッキより少し進んだところの洗面台の前に(登山の)ザックを降ろし、そこに陣取った。通路を挟んだ目の前は便所が2部屋ある位置だ。
 私がゴールデン・ウィーク期間中に上りの急行『きたぐに』を以前に使ったことがあり、この時期の上り・急行『きたぐに』はメチャクチャ混むことは知っていた。だから混んでいることは百も承知、覚悟の上での乗車だったわけだ。ただ、前に乗った'95年の時はここまで混んではおらず、通路やデッキの地べたに座るくらいのスペースはあった。今回はあまりの混みように『立ちん棒』でいる以外の選択の余地が一切無い。この列車の性質上、途中の停車駅で乗客が大勢降りるとは考えにくく、このままの状態が(少なくとも)京都に着く6時14分まで4時間も延々と続くのは明らかだった。列車は次の停車駅・高岡に着く。高岡でも客が乗り込んできて、混雑状態もっと悪化...。とうとう年輩の客がプッツンし、ひとり関西弁でまくし立て始めた。「こんな列車、もう乗ってられへんわ、ホンマ。通勤列車よりひどいで、こりゃ。通勤列車、1時間我慢したら済むけど、何時間我慢したら済むん? みんな、こんな列車に急行料金払うことあらへんで。みんな払い戻してもらえばええんや! 金沢で降りるわ! そして朝一番の『サンダーバード』乗りゃええんや! 大阪着くの2時間ほど遅なるだけや!」...と、長い長い捨てゼリフを残して、その年輩客は金沢で下車していったが、代わりにもっと多くの客が乗り込んで来たことは言うまでもない。
 この年輩客の言いたいことはよく解る。が、この客とみんなとの違いは、この客が『大阪着くの2時間ほど遅な』ってもいいくらい余裕があるのに対し、私を含め他の『立ちん棒』の客はみんな『この列車じゃないと以後の予定が狂う』ってことにあるんだと思う。私が伊予西条駅前発10時20分のバスに間に合うためにはこの列車しか無いのと同じように、みんなこの列車じゃ無いと乗り継ぎその他の予定が狂うんだろう。そうでなきゃ、誰が好きこのんでこんな列車乗るものか! 私も『大阪着くの2時間ほど遅な』ってもええんやったら、オッサンと一緒に金沢で下車してるで!!!
 金沢、小松、福井...と客が増えていく一方なので、それらの客に押し出される形で、いつしか私は洗面台の上に腰掛ける状態になった。ほんとにずっと立ちっぱなしの客には申し訳ないけど、ひとり洗面台に腰掛け幾分かは快適に乗車できていた私。いつしか目の前の2つのトイレのうち片方が『使用中』の表示のまんま、ひとの出入りが無くなった。たぶん、立つのに疲れたひとが中で座るなり、寝るなりしてるんだろう...トイレのなかで寝る...理性が働いている人間ならまずやらないことが現実に起きている...この日の急行『きたぐに』のなかがいかに極限状態にあったか、よくお解りいただけるだろう...。
 敦賀を過ぎると、次の停車駅・長浜からは大阪方面の新快速が出ているから、好きこのんでこんな列車に乗るヤツは居ない。やがて、米原に停まる。米原で名古屋方面に用のある客がいくらか降りるかと思ってたら殆ど降りない...。彦根を過ぎ、次の停車駅・大津が近付くと夜行列車のため今まで控えられていた車内放送が始まった。「間もなく大津に着きます。大津を出ますと次は京都に停まります。なお。本日、自由席混み合いまして誠に申し訳ございません」...このアナウンスを聴いて私はムカツいた!!!
 「座席を充分確保したつもりでしたが、想像以上のお客さまが御乗車になったため混雑して申し訳ございません」...という場合なら、このお詫びは有効だ。でも今回の急行『きたぐに』の場合、それと違うだろ? 毎年混雑するのが分かっているのに、車両の増結、臨時夜行列車の運転など一切やらないJR西日本に「自由席混み合いまして誠に申し訳ございません」などとアナウンスされても、「座席の確保もしませんでしたし、例年通りの大勢の客が乗ったため思ったとおり混雑しましたネ。ハッハッハ〜」と言われているようにしか聞こえんわ!!! 誤解の無いように言っておくと、私が怒ってるのは死ぬほど込んだ列車に乗せられたからじゃない。毎年乗客をすし詰めにしておきながらそれを改善する姿勢が無い上に平然と「混み合いまして誠に申し訳ございません」などとアナウンスする無神経な態度に怒ってるんだからね!!! ホントに今回の乗客に心から申し訳ないと思うのであれば、来年からこの時期、臨時夜行列車出せや! JR西日本!!!
 ...とここで吠えても、来年以降もJR西日本は臨時夜行列車出さないだろうし(苦笑)、替わる列車が無い以上、また同じ時期に上り・急行『きたぐに』に乗ってしまうんだろうな...(虚無笑)。 

 予想通り、京都で半分降りた。でも、まだ全員が座れるほどの余裕は無く、私は相変わらず洗面台に座ってた。やがて新大阪に停車。私はここでようやく急行『きたぐに』を降り、『自由の身』になった...と思ったつかの間、乗り換えた先の新幹線も満員。岡山までまた『立ちん棒』。私がようやく『座席』に座れたのは岡山から松山ゆきの特急に乗り換えてからである...。

(00.5.22)

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