虚ろな『命の恩人との再会』

 『富山の回覧板』こと、地元紙『北日本新聞』にこんな記事が載ってました。

『34年ぶり命の恩人と再会』

 昭和四十三年八月に石川県羽咋市の千里浜海岸でおぼれてひん死の状態だった女子中学生を助けた××××さん(七二)=大沢野町△△=と、救助された○○○○○さん(四七)=婦中町**町=が九日、三十四年ぶりの再会を果たした。二人はお互いの近況を報告して喜び合った。
 ××さんは当時、海に沈んでいた○○さんを偶然発見し、救助した。呼吸はすでに止まっており、××さんが人工呼吸をして息を吹き返した。
 ××さんが最近、救命救急の講習会に参加した際、救助経験が友人間で話題になった。当時の女子中学生が元気で暮らしているか気になり、○○さんに連絡を取ることにした。○○さんが当時通っていた中学校や旧姓を手がかりに苦労して捜したという。おぼれた○○さんが意識を取り戻したのは救急車の中で、誰荷助けられたのかは分からないまま。今回連絡があって初めて××さんに救助されたことを知り、驚いたという。
 この日、婦中町速星の飲食店で再会した二人は、当時を振り返り思い出話に花を咲かせた。××さんは「元気で幸せそうに暮らしているということを聞いてうれしい」と話し、○○さんは「誰に助けてもらったのかいつも気になってました。お礼を言うことができて感無量です」と話した。

(北日本新聞・2002年3月10日付35面より)

 最初、この記事をチラッと見た時、「浦島太郎もビックリ! 『女子中学生』を助けた筈だったのに、御礼を言いに来たのは『中年のデブったババア』(←記事添付の写真で判断...笑)か。助けたほうとすりゃあ、せめて5年後くらいまでに御礼を言いに来て欲しかったよな(笑)」と思いましたけど(笑)、よくよく読んでみるとこの記事に書かれてる話が本当だとしたら、こりゃかなり気持ち悪い話ですよ。34年ぶりの再会は、「助けられたほうが恩人を捜した」んじゃなくて、「救助したほうが溺れてた女のコ(当時)を捜した」ことによって実現したことになるんですけど、何故34年も経った今頃になって捜しますかね? この手の「救った」「救われた」の話の場合、「救った」ほうが「救われた」ほうのところに押し掛けたら、まるで感謝の強制してるみたいでイヤラシイじゃない!(笑) なのに、この34年前に人命救助したこのおじいさんは「苦労して捜したという」じゃないですか。エラい執念ですね。このおじいさんがですね、不治の病にも罹って、冥土の土産にでも助けたあの女のコに一度逢っておきたい...って考えたのなら話は別ですが。それにしても、彼女が通ってた中学校調べたり、34年前もの昔のことよく調べたなとビックリします。これがホントにこのおじいさんが全部調べたんならね...。
 そもそも、こういう『恩人との再会』って新聞記事に取り上げてもらうような話でしょうか? そこから考えると、イロイロ見えてくるよねぇ...。
 考えてた結果、浮かんできたものとは...このおじいさんが「救命救急の講習会に参加した際、救助経験が友人間で話題になった」ところに...新聞記者もしくは関係者が居ただろ?(笑) そして「34年前に救った女のコと劇的な再会...これは記事になる! その当時中学生だった女のコの所在はこちらで調べますから、再会するときは是非ウチの記事にするために取材させてください」って、申し出たんじゃないかな。だって、そうじゃないと不自然だし、気持ち悪いよ、この記事(笑)。で、「34年ぶりの再会、これは読者の感動を呼ぶぞ!」とほくそ笑んだのかは分かりませんけど、記事にしてみたら気持ち悪いものが出来上がった...という(苦笑)。これが、「救われた」ほうが恩人を捜したって話なら間違いなく「美談」に聞こえるんだけどねえ...。
 救助された当時中学生だった○○さんは、これまで自分を助けてくれたひとの名前を知らなかったというから、勿論(意識ある状態で)逢ったこともなければ喋ったこともない。いくら命の恩人が相手とはいえそんなひとと、いったい何を喋ったんでしょうか? ひととおりの御礼と近況を一遍とおり喋ってしまえば話す話題もない。実質初対面だから、「君のファスト・キッスの相手はボクだよ(笑)」とか「人工呼吸するために胸を押さえた時には洗濯板みたいだったのに、今じゃあ、こんなに豊満になって(笑)」などという下ネタも放てるワケもないし、そういうシチュエイションでもない。「当時を振り返り思い出話に花を咲かせた」っていう記述は絶対ウソだ。花を咲かせたいような思い出じゃないじゃん。婦中町速星の飲食店内に漂った白い空気を思うと...背筋が凍る...。一番盛り上がってたのは、新聞記者とカメラマンじゃないの?(苦笑)
 新聞記事のためだけに仕組まれたようにしか見えない「虚ろな『命の恩人との再会劇』」。もし、ホントに××さんが「苦労して捜し」て実現した再会劇なら、新聞記者の取材なんか受けて、再会を安っぽいものに堕する必要はなかったんじゃないかな。

 『富山の回覧板』も、記事かき集めんの、大変だね...。

('02.3.11)

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