間違いだらけの'80年代

〜Miのアルバム・ジャケットにみる

 「Mi」(エムアイ)という3人組のガールズ・ユニットが居る。
 いちお、ロック・バンドということになっているが、ヴォーカルとベースとキーボードしか居ないので、ギターとドラムはスタジオ・ミュージシャンを使ってるんだろう。
「2003年春に、『21世紀を代表する女性ボーカルのバンドを作り出すこと』『日本中から最もきれいな声を探しだす』というテーマでプロジェクトが結成され出来たグループである」(出典:『Wikipedia』)ということなので、かなり「作られたバンド」の色彩が濃い。私の音楽趣味志向からすると接点が無さそうな彼女たちの存在を私が知ってしまったのは、アヴリル・ラヴィーン・トリビュート・アルバムで“My Happy Ending”を演ってるのを聴いたからである。それまでは私は彼女たちの存在すら全く知らなかったが、私が大好きな“My Happy Ending”のカヴァーを演ってる彼女たちに興味を持ち、彼女たちのオフィシャル・サイトを覗いた。そして、彼女たちが去年カヴァー・アルバム『'80's×Mi』をリリースしてることを知ってしまったんである。その結果、『2006年なんでもTOP10』に載せる「カヴァー曲TOP10(邦楽編)」のネタにするため、このアルバムを購入してしまった。
 『'80's×Mi』というカヴァー・アルバムはその名のとおり、1980年代の主に女性ヴォーカルのヒット曲を集めたもので、中村あゆみ、TOM☆CAT、石井明美、レベッカ、浜田麻里、エマニエル坊や(笑)、浅香 唯、森川由加里、山下久美子、BaBeの代表曲を演っている。このコーナーは音楽を扱う処では無いので、音楽の話はこれくらいにして、本題に入ろう。
 このアルバムのジャケットには、「Mi(もしくはその仕掛人たち)の目からみて、'80年代を思い起こさせるもの」が多数描かれている。が、このCDパッケージを手にして眺め、しばらくしてから、少しずつ私は違和感を感じるようになったのである。「こりゃあ、1980年代と違わないか?」

表ジャケット

インナー

 このジャケットに描かれている「グソコ森水事件」(笑)の『キツネ目の男』を報じる新聞や、エリマキトカゲ、ラジカセ、ゲームウォッチにファミリーコンピューター、聖徳太子の壱万円札、UFO、コカコーラの瓶は確かに'80年代を感じさせる。グリコ森永事件も、エリマキトカゲのCMがブームになったのも1984年だし、ラジカセが普及したのも1980年代前半だし、ゲームウォッチの発売は1980年、ファミコンの発売は1983年であり、これらは紛れもなく1980年代的なモノといえるだろう。が、一方で、聖徳太子の壱万円札は1958年に初めて登場したものであり、UFOがブームになってピンクレディーの曲が流行したのは1977年であり、コカコーラの王冠集めが流行ったのも1976年前後と記憶する。ジャケットには丸ポスト描かれてるが、この形態のポストは戦後間もなく執筆された江戸川乱歩の『怪奇四十面相』で怪人四十面相が変装したことでも判るとおり(笑)昭和20年代にはあったものだし、「たばこ」の琺瑯看板や、駄菓子屋の店先、赤電話などは昭和30年代や昭和40年代の色彩が濃い。これらは決して1980年代のモノではない!
 プロフィールによると、Miの3人は1983〜1988年の生まれであり、1980年代についての記憶が曖昧な可能性がある。彼女たちが思い浮べる1980年代と、11〜20歳までを実際に体験した私にとっての1980年代が違うのは致し方ないことなのかもしれないが、間違った1980年代を世間に広められてしまうのは困るのである。と、私がいくらここで吠えてみても、Miと同年代のファンたちはこのアルバム・ジャケットみて「1980年代は、駄菓子屋と丸ポストと聖徳太子の壱万円札とUFOと赤電話の時代だ」と誤解しちゃうんだろうなぁ、きっと...。
 最近、「良き時代」として1980年代がスポットライトを浴びることが多くなっているようだが、くれぐれも間違った1980年代を演出しないよう、お願いしたいものだ。
 

('07.4.4)

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