My spirits are low, in depth of despair
My lifeblood
Spills over...
(“2112 VI. Soliloquy”より)

RUSH--2112
RUSH『西暦2112年』
(1976年、国内盤 : イーストウエスト AMCY-2292)
1. "2112" I. Overture II. The Temples Of Syrinx
III. Discovery IV. Presentation V. Oracle : The Dream
VI. Soliloquy VII. Grand Finale
2. A Passage To Bangkok 3. The Twilight Zone
4. Lessons 5. Tears 6. Somthing For Nothing

produced by RUSH and Terry Brown

 RUSHが全世界でブレイクするキッカケをつかんだ1976年リリースの大傑作アルバム。『西暦2112年』という邦題が示すとおりこのタイトルは年号なので、英語では勿論「twenty-one twelve」と読む(笑)。ひとによってはこの作品をRUSHの最高傑作に挙げるほどで、ファンの間では『聖典』扱いされている。また一般には、RUSHはここで一介のヘヴィー・メタル/ハードロック・バンドから脱皮したと看做される。
 1st『RUSH』が全米アルバムチャート最高位108位、2nd『FLY BY NIGHT』が最高位113位、3rd『CARESS OF STEEL』が最高148位...とアルバムをリリースする度にチャート上での成績はジリ貧。レコード会社からからる圧力のなか、RUSHが放った起死回生作! 全米アルバムチャート最高位こそ61位だけど、ロング・セラーを記録し、200万枚の売り上げを達成。
 アナログのA面全部を使った壮大な組曲“2112”では、ロシア生まれのアメリカの女流哲学者/SF作家、アイン・ランド(Ayn Rand)の小説『Anthem』をヒントにしたストーリーが展開されている。
...旧世代人類が滅んだ後の地球には、人民のすべてをコンピューターで管理するシリンクスの寺院に支配された世界のみが残っていた。ある日『私』は古代の遺跡で、現体制に滅ぼされた旧世代人類が使ってた楽器(ギター...笑...西暦2112年にはギターは存在していないのだ)を発見する。楽器を発見したことによって、現体制に滅ぼされた旧世代人類の生活様式を知った『私』は、シリンクスの寺院のコンピューターがすべてを管理する現状に疑問を抱き、現体制を打倒すべく蜂起する...。起承転結のメリハリがついたロック・オペラ。20分35秒にキッチリとまとめ上げられてる。今の時代なら78分の冗長な作品になってたことだろう(笑)。この“2112”の“Overture”はラジオ日本の『伊藤政則のロック・トゥデイ』のオープニング・テーマとして使われていたので耳に馴染んでるかたもいらっしゃるのでは。この大作はこの『2112』リリース時のツアーでも完全再現は行われなかったんだけど、1996年から始まった『T4E』ツアーで突然完全再現され、ファンのド肝を抜くことになる。'98年リリースのライヴ盤『DIFFERENT STAGES・LIVE』で確認できるけど、スタジオ盤ではヒステリカルなヴォーカルを披露してるゲディ・リーもヴォーカルの衰えを隠せず、それに合わせキィが下げられてるので、このスタジオ盤『2112』に聴き慣れてるとかなり違和感アリ。でも、ヴォーカルの衰えたとはいえ、ゲディ頑張ってます(笑)。
 アナログでいうところのB面には、5曲収録。1曲目の“A Passage To Bangkok”は、南米・コロンビアのボゴタを起点としてタイのバンコクまでの道のりを紹介する『鉄道唱歌』(笑)。そういう曲であるからエスニックな味付けが施されてる。映画に題材を求めたであろう“The Twilight Zone”に続く“Lessons”は、RUSHにおいてアレックス・ライフソンが単独で歌詞を書いた(今のところ)最後の曲。イントロのアコースティックなギターの調べが涼し気だけど、曲が進むとゼップふうに展開してく(笑)。ゲディ・リー作詞の“Tears”...これはもう隠れた名曲!!! この後の作品では歌詞は殆どニール・パートの独壇場になり、ニールは感情を露わにする歌詞書かないから、RUSHにおいてウェットな感覚が味わえる最後のラヴ・バラード?か。“Something For Nothing”はRUSH最後のメタル・ソングですね(笑)。
 この『2112』はファンの間で最高傑作呼ばわりされるだけあって、このアルバムから影響を受けたと公言するミュージシャンは多い。その代表例はニルヴァーナ〜フー・ファイターズのデイヴ・グロールだろう。「これぞ生涯最初のロック体験だ!って瞬間を教えてください」という質問に対し、デイヴはこう語ってる。「初めてRUSHの『2112』を聴いた時。歌が始まる前に15分くらいインストゥルメンタルが続くんだけど、ドラムが本当に凄いんだよ。ヴォーカルが入ってくる直前に、全てを一掃するドラム・ロールが入ってさあ、僕にとっちゃそれが、ドラムこそこの世で一番カッコいい楽器だと思うようになったきっかけだったんだ」(雑誌『CROSSBEAT』1998年3月号より)。お〜い! デイヴ〜!!! “2112”の“Overture”(“序曲”)は4分半だゾォ〜!!! 15分も続かないって!(笑) でも、デイヴの言いたいこと、そして気持ち、解るなあ(笑)。この“2112”に衝撃を受け、デイヴ・グロールはドラムを始め、後のニルヴァーナ参加とフー・ファイターズ結成につながったのだ! 『2112』偉大なり!(笑)

('01.4.18)

←インデックスにもどる