On my ship, the 'Rocinante'
Wheeling through the galaxies,
Headed for the heart of Cygnus
Headlong into mystery
(“Cygnus X-1 Book I : Voyage”より)

RUSH--A Farewell To Kings
RUSH『フェアウェル・トゥ・キングス』
(1977年、国内盤 : イーストウエスト AMCY-2293)
1. A Farewell To Kings 2. Xanadu
3. Closer To The Heart 4. Cinderella Man 5. Madrigal
6. Cygnus X-1 Book I : Voyage

produced by RUSH and Terry Brown

 スタジオ・アルバムとしての前作『2112』でブレイクを果たしたRUSHが、ライヴ・アルバム『ALL THE WORLD'S A STAGE』(邦題は『世界を翔けるロック』)を挟んで1977年にリリースした通算6作目の作品。『2112』、次作の『HEMISPHERES』(邦題は『神々の戦い』)と共に、(俗に)『プログレ3部作』と呼ばれるうちの2作目。アルバムのタイトルはアーネスト・ヘミングウェイの『A FAREWELL TO WEAPONS』(邦題は『武器よ、さらば』)のもじりと言われてます。
 このアルバムでRUSHが初めてやった試みが2つあります。まずはシンセサイザーの導入。今までのアルバムではシンセサイザーが使われてなかったけど(使われてても、効果音程度)、このアルバムからは、シンセサイザーがメロディ楽器として使用されています。シンセサイザーを弾いてるのは、ベース/ヴォーカルのゲディ・リーで、ライヴでの再現性を考慮して、このアルバムからベース・ペダル・シンセサイザーも登場。すなわち、ゲディがライヴでシンセを弾くためベースを手放した時には、ペダル・シンセサイザーを弾く(踏む?)ことでベースの音をカヴァーしてるワケ。
 もうひとつの試みとは、スタジオ・アルバム5作目にして、本国・カナダを離れ、英国でレコーディング。当時RUSHは、英国の音楽紙『Sounds』の記者、ジェフ・バートンの猛烈なプッシュにより英国でも人気が盛り上がりつつあり、英国をレコーディングの地に選んだ事情はそこらにもあるらしい。英国・ウェールズのロックフィールド・スタジオでのレコーディング。このアルバム収録曲の“
A Farewell To Kings”や“Xanadu”では、ロックフィールド・スタジオの外で鳴く鳥の声を録音して使ってる...という逸話は有名。
 と、いうようなエピソードは置いといて、アルバムの中身を説明すると、シンセサイザーの導入により楽曲の表情が豊かになる一方で、強引な変拍子が今まで以上に目立ってて「いかにも'70年代!」と言いたくなるような『いかがわしさ』も充満してます。とあるRUSHファンが「4拍子の曲しか聴いたことが無いひとには、危険なアルバム」って書いてたけど、言い得て妙だなァ〜(笑)。
 で、この『'70年代的いかがわしさ』にあふれるアルバムの収録曲を見て行きましょう。
 旧アナログのA面の1曲目はアルバム・タイトル曲の“
A Farewell To Kings”。アレックス・ライフソンのアコースティック・ギターのイントロの旋律が印象深い。古城をバックにしたこの曲のプロモ・ヴィデオは彼らの歴史のなかでも最も古い部類に入る貴重な映像。次の“Xanadu”は、コールリッジの有名な未完の長大詩『Kubla Khan』にインスパイアされた曲。11分超す長い曲です。『Kubla Khan』は東洋への憧れを詠んだ詩で、これにヒントを得た曲ゆえ、きっと詩の幻想的イメージを大切にしてるんでしょう、インスト部分が長い! イントロが5分もあるから(笑)。歌が入るのは5' 01''からです(笑)。英国のギターポップ・バンド、シルヴァー・サンはこの手のバンドにしては珍しく(笑)RUSHが大好き!!! そのシルヴァー・サンがこの“Xanadu”をカヴァーしてる(シングル“Too Much, Too Little, Too Late”のカップリング曲)んだけど、原曲が11分もあるいうのに、シルヴァー・サンのカヴァーは何故か4' 02''になってます(笑)。冗長なインスト部分をカットして、歌の部分だけだと4分で間に合うワケです(笑)。そのインスト部分のメインリフがコレ。


“Xanadu”のインスト部分のメイン・リフ

 こりゃあ、ギターやベースの練習スケールそのものじゃないですか!(笑) こーゆー練習スケールそのまんまのフレーズを曲に織り込んでも大丈夫だった'70年代って、いい時代でしたねぇ(笑)。
 旧アナログのB面に移って、“Closer To The Heart”。この曲はRUSHのライヴで必ず演奏される定番の曲。彼ら初のシングル・ヒット曲で、本人たちもファンも思い入れ大きいのがよ〜〜〜く分かるけど、しょーじき言って、もう聴き飽きました(笑)。次の“Cinderella Man”は、ゲディ・リーが『ミスター・ディーズ・ゴーズ・トゥ・タウン』なる映画をヒントに歌詞を書いた曲。書き忘れたけど、このアルバムでは歌詞はすでにニール・パートの独壇場になりつつあり、他のメンバーが歌詞を書くのはこの後、殆ど無くなります。次の“Madrigal”はシンセ(Mini Moog)の調べがメインの曲。タイトルどおりラヴソングです。ここまでストレートなラヴ・ソングの歌詞をニールが書くことは、この後ほとんど無くなります。この静かな幻想的ラヴ・ソングは隠れた名曲!!!
 そして、このアルバムの一番のクセモノ“Cygnus X-1 Book I : Voyage”(邦題は“シグナスX-1 : 第1巻「航海」”)。取り扱い要注意です(笑)。先に、このアルバムのことを
『'70年代的いかがわしさ』にあふれてる...って紹介したけど、ハッキリ言ってこの曲1曲のために、そーゆーレッテルを貼られてる印象が否めません(笑)。宇宙を航海する宇宙船『ロシナンテ』号が、白鳥座のブラックホールに吸い込まれるまでを10分も使って描いた『スペースオペラ』なんですけど、その場面を描写するために変拍子バンバンの異様な曲に仕上がってます(笑)。こんな曲がリリースされ、ウケた'70年代の懐の深さに感心します(笑)。ホント、'70年代ってイイ時代だったんですね(笑)。ちなみに、この曲の歌詞カードの末尾には「To Be Continued(つづく)」と書かれていて、この10分もする長い曲のつづきは、次の『HEMISPHERES』に持ち越されるのでした(笑)。

('01.7.29)

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