Where would you rather be?
Anywhere but here
Where will the time be right?
Anytime but now(“Double
Agent”より)
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RUSH--Counterparts produced by Peter Collins and RUSH |
1991年に前作『ROLL THE
BONES』をリリースした直後、ミュージック・シーンに大きな波が押し寄せます。グランジ/オルタナのムーヴメント勃発!!! その大きなうねりから2年後にリリースされたRUSHの通算18作目である本作『COUNTERPARTS』では、前作で時折見せた「枯れた味わい」や「老成」といった境地からはほど遠い、荒々しいサウンドを披露しています。これは勿論、グランジ/オルタナからの影響。粗めでザラついた感触さえあるギター・サウンド。時折現れるウネような感覚はサウンドガーデンあたりからの影響でしょうか。ここまで荒々しくロックしているRUSHは『EXIT...STAGE
LEFT』以来だ!...と、ルパート・ハインが手掛けた『PRESTO』と『ROLL THE
BONES』の大人びた洗練され過ぎのサウンドにもの足りなく感じてたファンは諸手を挙げて歓迎した一方で、
'80年代中期以降のポップでスマートなサウンドからいきなり方向転換したものだから、その手の音を好むようになっていたファンからは『衝撃作』呼ばわりされています。
このアルバムでRUSHがプロデューサーに迎えたのが、'80年代中期の名作『POWER
WINDOWS』や『HOLD YOUR
FIRE』を手掛けたピーター・コリンズ。『PRESTO』と『ROLL THE
BONES』を手掛けたルパート・ハインには特に不満はなかったようですが、またプロデューサーを替えて、新たな段階に踏み出す時が来たとメンバーみな感じていたようです。
さて、このアルバム『COUNTERPARTS』のタイトルの意味はというと...実はこのアルバムがリリースされた直後、ニール・パートが『BURRN!』
1994年1月号掲載のインタヴューで詳しい解説をしてます。その解説によると「大部分の曲が二重性、つまり一つのものとまた別のものとの対比のようなことを扱っていることに気付いたんだ。この“Counterparts”という言葉は、“Animate”の中の“My
counterpart-my foolish
heart”という一節に出てくるもので、この言葉をタイトルにするのはどうかと考えるようになった。実際に辞書で調べたら、“相対するもの”と、同じなのに違う“一双のもの”という両方の意味があったんだ。私には、これが“敵”という意味での“相対的なもの”に留まらず、“同じだけど違うもの”という、すごく特殊な言葉だと思えたんだよ。反対のものと揃いのもの、そのどちらも意味するという事を考えると、脳味噌が疼くよ」とのことです。
それでは収録曲についてみていきましょう。アルバムのオープニングを飾るドラマティックなナンバー“Animate”は「男性であっても女性であっても、すべての人の内側には異性の部分があるという考え」に基づいたもの。ニール自身、「自分の中に別の存在、女性的な面というのを確かに感じている」そうで、「自分が男性であれば男性的部分が優位を占めなければならないけれど、女性的部分も強くあるべきだ。一方、女性であれば女性的部分が支配的であるべきだけれど、男性的部分も強くあるべきで、そこが大事なところなんだ」とのことです。私自身はこの歌詞に強く賛意を感じています。というのは、私自身も自分のなかに『僕を演じる女優』の存在を感じてるから(笑)。個人的なハナシで申し訳ないけど、高校生の頃からRUSHファンやってて、ゲディ・リーのハイ・トーンに合わせてRUSHの曲ばかり歌ってた私は、お蔭様で歌声が高いです(笑)。男性ヴォーカルもの歌うよりも女性ヴォーカルものを歌うほうが音域的にはしっくりくる(笑)。『僕のなかには女性シンガー』が居る(笑)。
“Stick It
Out”はこのアルバムを代表する曲として、ラジオ局でもオンエアがプッシュされていました。確かに、この曲でのギター・サウンドがいちばんグランジからの影響受けてるかな。だけど、それゆえ私自身はこの曲があまり好きでなかったりします。ちょっとヘヴィー過ぎ。
次の“Cut To The
Chase”は、R&B由来のダンサブルなウネリが感じられる曲。サウンドガーデンふうのオルタナ系由来のウネリというひとも居ます(笑)。この曲は“野心”をテーマに取り上げてます。ニールが言うには「野心というのは文明人の最も崇高な衝動であり、西欧社会の原動力になっているとも言える。しかしあいにく、野心には暗黒面もあって、私はそれも引き合いに出さなければならなかった。この曲では、高速道路のドライバーの競争心というちょっとした隠喩を使ってみた。野心というのは科学や薬学や芸術においてもいい結果や偉大な発見を沢山生み出すけれど、それと同時に厄介で、他と張り合うという必要もない面も持ち併せているという事実を、私は描くことになったんだ。この、野心が攻撃的になるという面もまた“counterpart”と言えるだろうね」。歌詞に♪Pure
as a lover's desire/Evil as a murderer's
dream...っていうくだりがあるけど、これこそ野心のもつ両面性を的確に表した表現でしょう。あと、この曲の歌詞には「炎を燃え上がらすのは炎自身、エンジンを動かすのはエンジン自身、ロケットを打ち上げるのはロケット自身、では人間を動かすのは?」といった禅問答のような表現がちりばめられております。
アレックス・ライフソンの奏でるアコースティックなギターの調べで始まる“Nobody's
Hero”は、「ヒーローとは、ヒーロー的な立派な行為そのものをさすもので、そういう立派な行為をしたひとそのものを指すんじゃない」という内容を持つ曲。だから「誰もヒーローじゃない」っつうタイトルになるんだろうけど。この曲もこのアルバムを代表する曲と看做されてますが、長いワリには面白くない曲だと個人的には思ってます(苦笑)。
“Between Sun And Moon”の歌詞は、ニール・パートと元・MAX WEBSTER
の専属作詞家、パイ・デュボワとの共作。『MOVING PICTURES』の“Tom
Sawyer”、『HOLD YOUR FIRE』の“Force
Ten”以来、久しぶりのパイ・デュボワの登場(笑)。ニールがインタヴューで語ったところによると、この曲の歌詞のインスピレーションは'84年の来日公演した際に訪れた名古屋で得たものらしいね(笑)。曲じたいのことを言えば、♪ahh
yes to yes to ahh ahh to
yes〜のリフレインが色っぽい(笑)。ゲディじゃなくって誰か女性シンガーに歌わせてみたい(笑)。
「CD時代に入ってアルバムの曲数が増えると捨て曲が多くなった」と言われるRUSHですが(苦笑)、“Alien
Shore”と次の“The Speed Of Love”はモロにその典型ですね(笑)。“Alien
Shore”は特にコメントすることもないような曲(苦笑)。“The Speed Of
Love”は、ラヴソングを書かないことで知られるRUSHが曲のタイトルに“love”っていう言葉を使った!」ことのみが話題になっただけかな(苦笑)。
“Double
Agent”こそ、「ここまで荒々しくロックしているRUSHは『EXIT...STAGE
LEFT』以来だ!」とオールド・ファンを喜ばせるキッカケになった曲でしょう(笑)。'70年代にRUSHが演ってた『大風呂敷広げ路線』がここで復活してます(笑)。ここまでハッタリをカマしたRUSHっつうのが久々だったもので、私もこの曲気に入ってます(笑)。
前作『ROLL THE BONES』で久しぶりにインストゥルメンタル曲の“Where's
My Thing?”を演ったところ、グラミー賞のロック・インストゥルメンタル・パフォーマンス部門にノミネートされ、それに気をよくしたのか否かは解りませんが(笑)、本作においてもインスト曲“Leave
That Thing Alone!”を演ってます(次の『TEST FOR
ECHO』でも...笑)。この曲ではゲディのベースとニールのドラム...リズムのからみが面白いかな。
1組の架空の男女の会話がテーマになってる“Cold
Fire”は歌詞の内容も面白いけど、曲じたいもポップなロック・チューンで好きです。ニール曰く。「“Cold
Fire”では“何がそれ(註・たぶん『愛』のことだと思う...by
ヒロくん)を変えてしまうのか”の例を挙げている。“Cold
Fire”は一組の男女の会話で、男は愛の感傷的で俗受けする面に対する現実の面をよく判っていない。女はこの鈍い男にそこのところを説明しているんだ(笑)。彼女は『私の愛はとどまるところを知らないけれど、あなたがあんまり私をガッカリさせたり、ひどい扱いをしたりしたら、いなくなる』と説明している。言っておくけど、この会話は全部架空で、人物も私が生み出したもので、私自身に起こったことではないよ(笑)。男の方は、例えば彼女がなぜラヴ・ソングが好きなのかも判らなくて、女はそれに対して『ラヴ・ソングはただのラヴ・ソング。だけどこれはラヴ・ソングでもファンタジーでもなくて、私達の関係なの。あなたが自分でも言うように、私があなたらしいと思うように振る舞う限りは、私の愛は強くなる』と説明する。もし相手の目から見て、自分らしくない振る舞いをし始めているように見えたら、もう愛されなくなるものなんだよ」...ウ〜ン...深い...(苦笑)。
アルバムの最後に収められた“Everyday
Glory”は、やれ「グランジにハマった」だの「オルタナにカブれた」だの、ダークなイメージを持たれがちなこのアルバムの中にあって、希望にあふれる明るい曲になっています(笑)。この曲がラストにあることでかなりアルバムの印象が変わってくると思うけど、如何?
次作『TEST FOR
ECHO』も、グランジ的緊張感持ったギター・サウンドを用いた作品になりますけど、ここまで(グランジ/オルタナの文脈において)ダークなRUSHっつうのは、今のところ、この作品が最初で最後です(笑)。
('01.11.1/11.2)