ヒロくんのLIVE REPORT '96 PART 11 WEEZER

 富山にいると東京、名古屋、大阪の3大都市圏で流行っているものに疎くなるもので、富山で全然人気がないものだから、そのアーティストが大都市圏でも人気がないと決めつけると痛い目に遭ったりする。今回のウィーザーの初来日公演のなんかはその典型だった。大阪公演のチケットは即日完売。東京公演も2日分が即日完売し、追加公演が出たもののこれも瞬く間に売り切れ、再追加公演が出るなどのモノ凄い人気ぶり。『ロック不毛の地』とバカにされる名古屋でさえ、前売りが完売するほどの人気。ウィーザーがこんなに人気があったとは...。私はウィーザーの人気を完全にヨミ違え、当初予定していた10月19日土曜日の大阪公演のチケットを取り損ねてしまい、仕方なく10月21日月曜日に新宿・歌舞伎町のド真ン中にあるリキッド・ルームで行われる東京公演初日を観に行ってきた。 7時10分過ぎ、ウィーザーのメンバー4人が登場。おもむろに演奏し始めた曲は新作『ピンカートン』のオープニング曲“Tired Of Sex”。次の曲は“Getchoo”でこの時点でもう客はノリまくっていて、ダイヴをする者続出。ベースのマット・シャープが早速、過熱気味の客にミネラル・ウォーターのプレぜント。まだ2曲しかやってないのにもう「水入リ」である。4曲目は好きになった女のコが同性愛者だと判り、失意に陥る歌“Pink Triangle”。会場ではこの曲、大合唱になったのだが、千人を超す客がサビの部分で「レズビアン」という言棄を合唱したのはちょっと異様だった。
 ステージ上には向かって左からギターのブライアン・ベル、リード・ヴォーカル兼ギターのリヴァース・クオモ、ベースのマット・シャープの順に並んでいて、ステージ奥でドラムのパット・ウィルソンがリズムを刻んでいた。ベースのマットが必要以上に激しいアクションで客を煽り、目立っていたのと対照的に、リヴァースとブライアンは動きらしい動きも見せず、ギターを弾き、歌を歌っていた。曲の合間合間に「thank you」と言うのも、曲紹介をするのも、このバンドのリーダーで全ての曲を書いているヴォーカルのリヴァースではなくて、ベースのマット。たまにマットじゃない声が曲紹介してると思って見渡せば、ドラムのパットだったりして、ライヴを仕切っているのはベースの奴とドラムの奴で、ヴォーカルは歌以外一切声を出さないという異様な状況でライヴは進んでいった。 でもリヴァース・クオモというひとが昔楽マスコミから戴いてる『超ナイーヴ男』、『ウルトラセンシティヴ男』、『赤面モジモジ君』、『自閉症野部』、『取材拒否常習犯』という評判を考えれば、彼が観客と一切コミュニケイトを計ろうとしなくても驚くに値しない訳で、こうした予備知識がある私は、もしかしたらリヴァースは歌を歌ってギターを弾くだけ弾いて時間が来たら客に何の挨拶もしないままステージを去るんじゃないかとさえ思っていたぐらいだった。ところが...。5曲目の“No One Else”終了後、ノドの渇きを潤すため、水入りの紙コップを手にしたリヴァース、つかつかとマイクに歩み寄ると「カンパイ〜!」と日本語でMC。「あのリヴァースが日本語を喋ったあああ!!!」と大いに沸く観客にマットがミネラル・ウォーター攻撃第2弾を喰らわせた。
 “No Other One”、“Why Bother?”、“In The Garage”と曲が進んだ後、リヴァースはまたしても日本語MC。「ドウモアリガトウゴザイマス」。リヴァース・クオモというひとは『自閉症野郎』といわれてるが、好んで自分の殻に閉じこもるのではなく、他人とコミュニケイトしたいんだけどやり方が野暮なので、結果として『自閉症野郎』に見えるだけで、ほんとは他人とコミュニケイトしたくてしたくてたまらないひとだとよ〜く判った。
 映画のサントラに提供した“You Gave Your Love To Me Softly”、新作から“Falling For You”を演った後、リヴァースは「ボクハ、ノビ太デス」とMCし、場内の笑いを誘っていた。リヴァースが『のび太』なら、やりたい放題やってるマットは『ジャイアン』、ドラムのパットは『ドラえもん』で、おとなしくギターを弾いているブライアンは『出来杉』か。
 そのブライアン、リヴァース以上におとなしいのだが、ブライアンにも何か喋らせようと思ったのか『ジャイアン』ことマット・シャープが突如「ブライアン! ブライアン! ブライアン!」と連呼し始め、これにつられ、場内「ブライアン! ブライアン! ブライアン!」と合唱。これにもブライアンは手を振って応えるのみだった。マットがリヴァースの歌以上の声量でワケのワカらん即興ラップを披露した“Undone-The Sweater Song”で本編の部分が終わり、一度メンバー全員袖に引っ込んだ。
 アンコールの手拍子が起こり暫くすると、リヴァースひとりが戻って来て、アコースティック・ギターを抱えて“Butterfly”を弾き語りをした。場内からはリヴァースに「のび太〜」の声援がとんだ。この後残りの3人が現れ、日本からのファン・レターをテーマにした曲“Across The Sea”、マットの奇声で始まった“El Scorcho”の順で演奏。そしてまたしてもマットが曲を紹介。ウィーザーの代表曲“Buddy Holly”だ。この曲では場内大合唱になった。“Surf Wax America”を演奏した後、リヴァースは「ソレデハ、マタ、ノチホド」と日本語MCをして、ウィーザーの4人はステージを後にした。「それではまたのちほど」と言うからには、2回目のアンコールも当然やってくれるものと思っていたら、そのまま客電が灯いてライヴは終わってしまった。日本語の使い方間違ってるよ、リヴァース。
 結局、デビュー作『ウィーザー』から7曲、新作『ピンカートン』から10曲全部、サントラに提供した曲1曲と合計全18曲演ってくれたわけだが、彼らの場合、1曲1曲が短いので時間にして70分のライヴでした。

【SET LIST】...'96.10.21 新宿リキッド・ルーム
1. Tired Of Sex
2. Getchoo
3. My Name Is Jonas
4. Pink Triangle
5. No One Else
6. No Other One
7. Why Bother?
8. In The Garage
9. You Gave Your Love To Me Softly
10. Falling For You
11. Say It Ain't So
12. The Good Life
13. Undone-The Sweater Song

(encore)
1. Butterfly
2. Across The Sea
3. El Scorcho
4. Buddy Holly
5. Surf Wax America

INDEX