2年前「俺は負け犬だ。なのにどうして殺さない?」と歌った“Loser”でシーンに大きな風穴を開け、一躍時代の寵児となったBECKの2回目の来日ツアーは追加公演が3日出るほどの大人気。私が観たのは今回のツアー最終日の11月3日に大阪はベイサイド・ジェニーで行われたライヴ(名古屋公演のチケット会社休む度胸がなくて、殺したんですぅぅぅ!)。ベイサイド・ジェニーは関空や淡路へのフェリーが発着する天保山のフェリー乗り場の隣にある複合施設・天保山ハーバー・ヴィレッジのなかにあるライヴ・ハウス。前回の来日時のBECKの怪演ぶりは伝説になっていて、あまりのスゴさに『Player』誌の読者人気投票の最悪新人部門のトップに輝くという名誉を手に入れたBECK、今回の来日では一体どんな怪演を披露してくれるのだろうかと期待に胸をふくらませたひとたちで開場1時間前から乗船場あたりは大にぎわい。(殺した名古屋のチケットは6番だったのに)今回のチケットの整理番号は843番。従って会場の後ろのほうに陣取り、私は怪演を待っていた。
7時10分過ぎに、いよいよBECK登場! BECKの格好はな、なんとスーツ姿! きちんとネクタイも締めて、御丁寧にチョッキまで着ている! スーツ姿のBECKちゃんはサングラスをしていて、モミアゲを伸ばしたせいか、マフィアかなにかの兄貴分といった雰囲気。BECKの両脇にいるギタリストとベーシストもBECKと同じくスーツ姿にグラサン、さらには山高帽までかぶっているせいもあり、余計のことBECKが、子分を2名従えたマフィアのメンバーかなにかに見えてしまう。そんなコワモテの雰囲気のBECKが演奏しだした曲は、世紀の怪盤『ステレオパセティック・ソウルマニュレ』に収録さている“Thunder
Peel”。いきなりヘンな曲で観客のド肝を抜くBECK。次の曲は新作『オディレイ』からの“Novacane”。この曲ではハーモニカを持ったBECK、マイクにハーモニカを押し付けて吹き、会場にハーモニカの音を大音響で鳴り響かせた。“Novacane”の後、BECKはワインか何かの酒瓶を掲げ、この中身の入ったグラスを乾杯! そしてBECKはここでグラサンを外した。するとマフィアのメンバーかなにかに見えたコワモテの人物はステージ上から消え去り、代わりに中学生が1名ステージ上にいた(笑)。グラサンを外すとBECKはいくらスーツ着てようと、中学生にしか見えない! 「サングラス外さなきゃいいのに」と思ってしまった。(BECKは25歳)
マフィアの一員から中学生に変身したところで“The New
Pollution”を披露。この曲では会場から合唱が起こった。ステージ上にはBECKのほかにギタリストとベーシスト、キーボーディストとドラマーがいて、BECKを含め総勢5名のバンド。勿論、BECKのアルバム『オディレイ』で聴かれるようなサンプリングしまくりのロー・ファイ・ヒップ・ホップをたった5人で再現するのは不可能で、かなりの部分をシークェンサーやテープを使っていた。BECKは曲に合わせて、ロボットやヒューマノイドのような動きの奇妙なダンスを踊ったり、エレキ・ギターのピック・アップを通して、歪んだ声を場内に響かせたりと、期待に違わぬ怪演を披露した。
“Hotwax”はクリスマス・ソングの“ジングルベル”のフレーズを曲に折り込んだ怪作。“ジングルベル”の部分を観客に何度も連呼させてこの曲の終わらせたBECK。CDで意図的に折り込んだギミックをライヴを盛り上げるのに上手〜く活用していた。この後カヴァー曲か新曲を披露し、“Derelict”を演奏した後、いよいよアコースティック・セットに突入。
BECK以外のメンバーはステージ上から姿を消し、アコースティック・ギター1本構えたBECKのみが残って、まずは「L.A.についての歌だ」と言ってカヴァー曲か新曲を披露。次に演奏した曲はデビュー作『メロウ・ゴールド』から“Truckdrivin
Neighbors
Downstairs”。BECKはこの後、会場からリクエストを募った。会場からは“Pay
No Mind”や“No Money No
Honey”といった声が上がったが、BECKが演奏した曲は謎の一発録りフォーク・アルバム『ワン・フット・イン・ザ・グレイヴ』からの“Hollow
Log”。次の曲も『ワン・フット〜』からの“Asshole”。BECKはここで「special
guest」と称し、ハーモニカ奏者をステージ上に招き入れ、2人で息の合ったハーモニカ・デュエットを披露。そして怪作『ステレオパセティック〜』収録の“One
Foot In The
Grave”を演った。BECKはここでもいちど会場からリクエストを募り、男性客の“Sleeping
Bag”のリクエストを無視して、女性客の“Pay No
Mind”のリクエストに応じた。
“Pay No
Mind”まで全部で6曲アコースティック・セットでプレイした後、バンド・メンバーが戻って来て、ホンワカとした曲“Jack-ass”を演奏。この曲ではBECKはスーツの上着を肩にひっさげ、左手を前方にかかげるなど芝居がかったポーズをとっていた。続いて、『オディレイ』からのシングル曲のため客にも馴染み深い2曲、“Where
It's At”と“Devils
Haircut”が演奏されると客の盛り上がりも最高潮に達した。こうして会場は輿奮のるつぼと化していたのだが、よく見るとBECKの『社会の窓』が開いている。客の女のコにそれを指摘され、BECKは「thank
you」と言ってジッパーを引き上げたのだが、私はウケ狙いのためワザと『窓』を開けてたのでは...とニラんでいる。“Load
Only
Knows”を披露した後、BECKは「サヨナラ」とこの日初めて日本語を喋り、ステージを去った。
BECKがステージ上から姿を消すと、場内からは当然アンコールを求める手拍子が起こった。5分くらいしてからBECKが戻って来たのだが、先程までのスーツ姿から、往年の沢田研二を思わせるド派手な衣装に着替えてる! BECKの両脇のギタリストもベーシストも別の服に着替えていて、金髪のカツラを被っている。アンコール1曲目は、ワケのワカらんパンキッシュなナンバーで、この曲の終わりにBECKは「アサハラショ〜コ〜!」と叫んだ(ように少なくとも私には聞こえた)。このセリフに場内は大いに盛り上がった。次の曲“High
5”の終わりでBECKは客と掛け合いを始め、「woo la la say
so!」と合唱するように客に要求。客があまり大きな声を出してくれないと見るや、何度も「woo
la la say
so!」と客を煽る。こんなやりとりを7、8回繰り返し、ようやく客の声量が満足いくまでに達したところで、BECKは「thank
you,Osaka!」と言って、ステージを後にした。
こうしてこの日のライヴは終わったのだが、特筆すべきはBECKの代表曲“Loser”を演らなかったことである。これは例えて言うなら、イーグルスが“Hotel
California”を演らないようなものだ。だけど場内からは「どうして“Loser”演らないんだよ!」というブーイングは全く起こらなかった。あまりのBECKのエンターテイナーぶりにみんな大いに満足し、“Loser”がなくても気にならなかったことの証しである。“Loser”の文脈で語るのが不可能なくらいのビッグ・アーティストにBECKは成長していたことを肌で感じ取った一夜であった。
【SET LIST】...'96.11.3
大阪ベイサイド・ジェニー
1. Thunder Peel
2. Novocane
3. The New Pollusion
4. Minus
5. Hotwax
6. ( ? )
7. Derelict
8. ( ? )
9. Truckdrivin Neighbors Downstairs (Yellow Sweat)
10. Hollow Log
11. Asshole
12. (harmonica duet)~One Foot In The Grave
13. Pay No Mind (Snoozer)
14. Jack-ass
15. Where It's At
16. Devils Haircut
17. Sissyneck
18. Load Only Knows
(encore)
1. ( ? )
2. High 5 (Rock The Catskills)