11月16日土曜日、私の運転する車は国道41号線を南下していた。この日は名古屋で『ニューヨークの天然ダイアリー娘』パティ・ロスバーグのライヴがある日。多治見市内に車を停めてJRと地下鉄を乗り継ぎ、会場のクラブ・クアトロの入っている名古屋パルコに着く。パルコの入ロにある掲示板を見て、私はショックのあまり唖然としてしまった...。
信じられない一心でクラブ・クアトロのある8Fにいくと、やはリ「アーティスト本人の急病のため、公演中止」との貼り紙があり、その下にはチケットの払い戻し方法などが事細かに書かれていた...。ライヴのドタキャンを喰らうのは5月21日のマリア・マッキーの時以来、2回目。1年に2度もドタキャン喰らう私っていったい...。(←『ちびまる子ちやん』風)
「パティ・ロスバーグ観たかったよお〜」と失意のうちに名古屋パルコを去った私は多治見市内に戻り、車に乗って国道19号線をひたすら北上したのだった。国道19号線の行く先で私を待っていたものとは...。
てなわけで、仕切り直しだぁ〜い!
多治見から国道19号線に乗った私の車はやがて信州に入り、木曽郡日義村の『道の駅』に停まった。ここで一夜を明かした私は翌11月17日の朝、再び国道19号線を移動、塩尻市内に車を停めて、あるアーティストのCDを浴びるように聴いていた。この日は、ここ信州は松本においてセックス・ピストルズのライヴがあるのだ!!!
'96年のミュージック・シーンの大事件のひとつがパンクの代名詞的存在であるセックス・ピストルズの再結成。さらにはパンク黄金時代に果たせなかった来日公演までしちゃったことである。今年は多くのバンドが再結成したが、このピストルズの再結成ほど賛否両論に沸いた再結成はない。「再結成なんてパンクの名折れだ」と怒る者、「金のための再結成だなんて、さすがピストルズ!」と喝采を叫ぶ者、さらには「40過ぎたオヤジがパンク演れるのかい?」とあざ笑う者と様々。私の立場もこれと似たようなもんで「あのピストルズが金のために再結成だなんて、こりゃ最高のギャグだ」と冷やかす者となるだろうか。ま、彼らの再結成とそれに伴う言動(インタヴュー等)で大いに笑わせてもらった私だが、これだけなら私は今回の初来日ツアーは観に行かなかっただろう。私がピストルズを観に行く気になったのは、彼らがよりによって松本でライヴを行うからである。
松本といえば私・ヒロくんが7年間の大学生生活を送った『第2の故郷』である。そんな因縁の地であのピストルズがライヴを演ることほど私にとって笑えることはない!!! 「ピストルズほどの大物がなんで松本なんかで?」と思うかも知れないが、松本という地はパンクの人気が高いらしく、あのラモーンズが解散ツアーでライヴを演ったり、前日(11月16日)にはバッド・レリジョンがライヴを演ったりとその筋のアーティストの公演が年に1度はある所なのだ。『ロカビリーの街・富山』に対し『パンクの街・松本』だと思っていただければ結構だ。
午前10時に松本市内のレコード屋に行く。松本では珍しい『外タレ』の公演が、それもバッド・レリジョンそしてピストルズと2日連続であるせいでレコード屋の店内は盆と正月が一緒に来た...というより革命記念日と戦勝記念日が一緒に来たという感じのお祭りムード。当然店内にはピストルズのライヴのポスターがディスプレイされていたのだが、よく見るとこのライヴにはフラフィーという女のコ4人組の新人パンク・バンドがオープニング・アクトにつくと書いてある。せっかくだからこのフラフィーの輪入盤CDを買い、ライヴ前まで『予習』することにした。
12時頃、ライヴ会場の前を車で通り過ぎる。すでに開場を待つ列が出来ていた。そりゃ、「革命記念日と戦勝記念日が一緒に来た」わけだから12時に並ぶ者がいてもおかしくないよなあ。盛り上がってるぞ、松本! 私がこの列についたのは5時30分頃だが、6時30分の開場の頃にはこの列、収拾のつかないほど長くなっていた。客入れが始まったら始まったで、入口ではかつて経験したことがないほど厳しいボディー・チェックが行われ、テレコやカメラだけでなく録音機能のないCDプレイヤーまで『お預かり』になるなど、客のほうはともかく主催者側はピリピリ・ムード。CDプレイヤーまで取り上げたのは、ステージに投げ込まれるのを防ぐためだと思うが、いくら何でもそこまでするヤツはいないだろう...と思って会場に足を踏み入れたら、「出て来〜い! 詐欺師〜!」と叫び、ピストルズに対しケンカ腰の客がいたりする。これじゃ確かに投げ入れられたら困るような物、一切合切取り上げたくなるよなあ〜。さらに場内アナウンスでしつこいくらいに「ステージ上に物を投げ込んだ場合、アーティストと主催者の意向によりコンサートを中止する」という警告が繰り返された。こんな警告がアナウンスされたライヴも私は初めて。このピリピリムード、さすがあのピストルズのライヴといったところだろうか。
時計が7時半を刻むとオープニング・アクトのフラフィーが登場、演奏を開始した。
フラフィーはイギリス出身の女のコ4人組のパンク・バンド。来年の1月29日、日本でのデビューも決まっている注目のバンドだ。ヴォーカル兼ギターのアマンダ・ルーツが「Matsumoto、コンニチワ〜」と挨拶して演奏し始めた曲はアルバムのなかで一番キャッチーな“I
Wanna Be Your
Lush”。アマンダは写真で見るよりず〜っと可愛く、CDで聴くよりも可愛い声で歌っていた。CDでもアマンダの声は高くてキュートなのだが、ライヴでは殆んど仔描の鳴き声のような可愛さ。ハッキリ言ってパンク・サウンドに乗る彼女の声は完全に浮いていて、だからバンド名が「Fluffy」(フワフワした)なのかと思ったが、このミスマッチが逆にいい味出しているように感じた。6曲目の“Crawl”の後、アマンダは「カンパーイ」と言って缶ジュースを飲み、“Technicolour
Yawn”を演奏。観客はこの時点でダイヴの嵐になっていて、曲が終わった後アマンダが「Matsumoto~,
you are
crazy~」とアキレるくらい盛り上がっていた。私はダイヴの嵐のなか、前から3列目の位置を堅持していた。10曲目の“Scream”はアルバムのなかで私が一番気に入っている曲。この曲は少し考えた楽曲展開になっていて彼女たちの才能を感じる。彼女たちがパンク・バンドという『こだわり』を捨てたとき、モノ凄い『大化け』をする可能性大(もっとぶっちゃけた話をすると、フラフィーというバンドが無くなったとき、アマンダはソロ活動で成功するだろう)。11曲目でアマンダはギターを置いて、ヴォーカルに専念。パンクのスタンダード・ナンバーを演った後、何故か「コンバンワ〜」と挨拶してフラフィーの4人はステージを去った。セット・チェンジのあといよいよピストルズの出番だ。
8時にフラフィーの演奏が終わり、セット・チェンジが済んでもなかなかピストルズのメンバーは出て来ない。待ち切れなくなった客たちが散発的に「出て来い〜!」と叫ぶうちに時計の針は8時半を差していた。そんな時、突然ステージにバック・ドロップ(後幕)が降りて来て、タンをかむ音や咳き込む音がスピーカーを通して場内に流れた。やがてその昔は「グ、フ、フ、フ」という不気味な声に変わった。どう聴いてもこれはジョニー・ロットンことジョン・ライドンの声だ。ジョニーの不気味声が「グレンさ〜ん」と言うとベースのグレン・マトロックがステージ上に現れた。ジョニーの不気味声の「ポールさ〜ん」「スティーヴさ〜ん」に合わせ、ポール・クックとスティーヴ・ジョーンズも現れ、最後にジョニー本人も登場。あの4人がステージ上にと揃っ(ちゃっ)た。この4人が揃って披露したオープニング曲は“Bodies”...てな具合にいちいち詳しくリポートしたいところだが、演奏曲順は8月28日に出たライヴ・アルバム『勝手に来やがれ!!』と殆んど一緒。唯一違うのは“Holidays
In The
Sun”(邦題“さらばベルリンの陽”)と“Submission”の順番が入れ替わっているだけ。演奏の模様を知りたいひとはライヴ・アルバム『勝手に来やがれ!!』を買って聴いてくれ!!と投げやりになってしまいそうだが、ライヴ・アルバムでは分からない特別な出来ことだけリポートしとく。3曲目の“New
York”の前にジョニーは観客に「実はノドの調子が悪い」と説明。「ドーモ、スミマセン」と日本語で謝り、観客に頭を下げた。ノドの調子が悪いせいかジョニーは「カンパ〜イ」と言ってドリンクを飲んでガラガラとうがい。そしてステージの床に「ペーッ」と吐き出していた。そのジョニー、とても機嫌がよく、客に投げキッスを連発していた。
観客は10代から、今すぐアートネーチャーに連絡したほうがよさそうなくらい額が拡張したオヤジまで多岐に亙っていた。当然客の盛り上がりはモノ凄く、フラフィーの時の3倍ぐらいといった感じ。ダイヴの嵐の凄まじさに私は前から3列目の位置を放棄し、10列目くらいに避難した。
ステージの右裾の照明室では、フラフィーのメンバーたちが寝そべりながらピストルズのステージを楽しそうに見ていた。オヤジどもの演奏よりこっちのほうに気を取られていた私...。
“God Save The Queen”や“Anachy In The
U.K.”などの有名曲では会場に大合唱が渦巻いた。アンコール最後の曲“Problems”(邦題“怒りの日”)の後、スティーヴはミネラル・ウォーターを口に含み、それを過熱した観客に『シャワー』として口から直接プレゼント。アンコール終了後客電が灯いて、客が帰りかけた頃、ジョニーがステージに戻って来て挨拶。自分のワキの下のニオイを嗅ぐマネをしたり、客に尻を向け屁をコくマネをしたり、最後の最後まで愛想を振りまいていった。
以上のように、ロック界の伝説の人・ジョニー・ロットンは過激なパンクスどころか、単なる人の良いおやぢだった...。(ここまでのBGM、セックス・ピストルズの19年前のデビュー作『勝手にしやがれ!!』より“ゴッド・セイヴ・ザ・クィーン”〜)
【SET LIST】...'96.11.17
松本・社会文化会館
〜FLUFFY〜
1. I Wanna Be Your Lush
2. ( ? )
3. Husband
4. Too Famous
5. Cosmetic Dog
6. Crawl
7. Technicolour Yawn
8. Hypersonic
9. Nothing
10. Scream
11. ( ? ...カヴァー曲)
〜SEX PISTOLS〜
1. Bodies
2. Seventeen
3. New York
4. No Feelings
5. Did You No Wrong
6. God Save The Queen
7. Liar !
8. Satellite
9. (I'm Not Your) Steppin' Stone
10. Submission
11. Holidays In The Sun
12. Pretty Vacant
13. EMI
(encore)
1. Anaechy In The U.K.
2. Problems