ヒロくんのLIVE REPORT '96 PART 15 CYNDI LAUPER

 ここ数年、すっかり恒例になってしまったシンディ・ローパーの年末来日ツアー。東京・名古屋・大阪だけでなく、普段外タレがコンサートを開かないような地方都市も廻ることが慣例となっていて、今年も秋田や岡山でもコンサートを演ったシンディ、これを日本のファンを愛するがゆえのファン・サーヴィスと捉えられればいいのだが、私のように高校時代のクラスの芸大会でシンディの曲“Girls Just Want To Have Fun”(邦題は“ハイスクールはダンステリア”)を歌い、大学の新歓コンパで芸を強要されたとき“Change Of Heart”を歌ったような『オールド・ファン』にとっては「グラミーの新人賞取って、全米1位になったこともあるシンディがドサ廻りするなんて悲しィィィ〜い( 財津一郎)」と思えてならなかったのも事実。私が松本で大学生をやってた'93年と'94年と2年連続で松本公演を演った時、「何で、シンディが松本なんかでライヴやるんだよ!」と悲しみのあまり、自分のアパートから歩いて10分程のところでライヴを演るにもかかわらず、観に行かなかった。このように我々『オールド・ファン』はここ数年のシンディの活動を複雑な思いで見てきたわけだが、『オールド・ファン』にとっての『魔のドサ廻りツアー』も今年で4回目ともなると、もうシンディは好きでドサ廻りやってるわけで、それをいつまでもネガティヴに捉えるのもどうだろうかと、ようやく思い直した私。そんな時、1000人くらいしか入らないライヴ・ハウスでの公演が決まり、躊躇せずにチケット取りました。シンディのようなビッグ・ネームを狭い小屋で観られるなんて、こんな贅沢ないよ! てなわけで、12月15日行ってきました、名古屋クラブ・クアトロ。
 クアトロみたいな狭い小屋でシンディを観られるなんて!!!と思ったのは私だけでなかったようで、今回のチケットは名古屋では珍しい即日完売。開演前からファンでギュウギュウ詰めの会場の客層は10代から30代まで幅広く、かつてのシンディのコスプレ風ギャルもチラホラ見受けられた。7時10分頃、ステージ上にバンド・メンバー6人が現れ、興奮状態になったファンのシンディ・コールに応じるかの如くシンディ登場。オープニング曲は新作『シスターズ・オブ・アヴァロン』より“Searching”。この静かだけど芯の強さも感じさせるナンバーをスティック・ベースを弾きながら熱唱したシンディ、次の“Sisters Of Avalon”ではギターを弾いた。この曲ではサビの部分、場内大合唱。3曲目の後、コートを脱いだシンディはライト・ブルーのチャイナ・ドレス姿。髪の毛はブロンドで、かつてのようなレインボー・へアではなかった。4曲目は“I Drove All Night”(邦題は“涙のオールナイト・ドライヴ”)。この日最初のクラシックス・ナンバーに場内大合唱。ここでシンディは一息いれて、観客とコミュニケイションを計った。場内から「シンディ、味噌煮込み食べた?」といかにも名古屋らしい声援がとんだりしていた。
 新作から“Fall Into Your Dreams”、“Say A Prayer”と静かな曲を2曲披露して客の汗をひかせた後、4枚目のアルバム『ハット・フル・オブ・スターズ』から“That's What I Think”。この曲ではシンディはアルト・リコーダー(たて笛)を吹き、さらにCDではサックスで演奏されている部分をピアニカ(鍵盤ハーモニカ)で演奏して、さながら小学校の音楽会状態。バンド・メンバーは黒人の巨漠ベーシスト、黒人の男性ドラマー、白人の男性ギタリスト、白人の女性ヴァイオリスト、黒人の女性キーボーディスト、そして新作『シスターズ〜』の殆どの曲をシンディと共作している白人の女性キーボディスト、ジャン・パルスフォード...といった具合に男性女性とも3人ずつ、白人黒人も3人ずつという性別と人種のバランスのとれたバンド・メンバー。これは意図的なものか、それとも自然にそうなったのかは分からないが、シンディらしい話ではある。
 8曲目の後、シンディは自分の着てるチャイナ・ドレスのファスナーが壊れて10cmくらい開いているのに気づく。「着替えてこようかなァ」というシンディに場内から「don't mind!」との声。ここでシンディはわざわざ通訳まで呼んできて、観客にメッセージを贈った。「この曲を初めて日本で披露したとき、日本のみんなが最初から最後まで曲をずっと歌ってくれたことがいまだに忘れられません。今日もこの曲に素晴らしいハーモニーを加えてください」そう言って演奏された曲は“True Colors”。会場のみんなはシンディの要望に応えて合唱したのだが、♪true colors are beautiful, like a rainbow〜の「like a rainbow」を「like you〜」と置き換えて大きな声で歌い、シンディを苦笑させていたお調子者がいた。
 『ハット〜』からの“Dear John”、新作からの“Love To Hate”の後、演奏されたのは新作からの1stシングル“You Don't Know”で、ライヴも佳境に入ってきたことを知る。次の曲は“Hey Now”。過去の大ヒット曲“Girls Just Want To Have Fun”を焼き直した、『オールド・ファン』にとっては複雑な思いのするこの曲を演奏するとシンディたちはステージを去った。
 会場からアンコールの手拍子が起こり暫くすると、ファスナーの壊れたチャイナ・ドレスから黒のイヴニング・ドレスに着替えたシンディがひとり戻ってきて、アカペラで“Fearless”を披露。次にヴァイオリストとギタリスト、黒人女性キーボディストを加えてアコースティック・セットで“Hot Gets A Little Cold”を演った。残りのメンバーを呼び戻して、ひとりひとりバンド・メンバーの紹介をしたシンディ、ここで満員の観客に改めてお礼を言う。特に印象的だったのは「日本のみんなのサポートのお蔭で『シスターズ〜』のアルバム、どうにか日本でのみリリースできたけど...」と語ったこと。実をいうとシンディの日本以外での状況は厳しく、特に本国・アメリカでの状況は最悪で、日本では100万枚売れたベスト盤『グレイテスト・ヒッツ』はアメリカでは丸1年遅れてようやく陽の目をみたほど。よく外タレが「日本は最高だ!」と言ったりするが、シンディの場合、シャレではなく心の底から日本に感謝している。彼女の気持ちが痛いほど伝わってきた。
 ここで披露された曲は“Time After Time”。彼女にとっての初の全米No.1ソングとなったこの曲は、大幅にアレンジが変更されたアコースティック・ヴァージョンで演奏された。何しろヴァイオリン入りだからな。でもオリジナル・ヴァージョンよりこちらのアレンジのほうが今のシンディにしっくりくる。この曲の後、エレクトリック・セットに戻り、ヴァイオリストが吹くマウス・ハープ(ハーモニカ)が印象的だった“Broken Glass”、新作より“Mother”の順に演奏。ここでシンディは「もうすぐクリスマスよね」とMC。そうして披露された曲は新作『シスターズ〜』に日本盤のみのボーナス・トラックとして収録されてる“Early Christmas Morning”。この曲絶対演ると思ってた! このお祭りムード満載のクリスマス・ソングを披露して、シンディたちはステージ上を去った。
 ホントはクリスマス・ソングでライヴを締められればいいんだけど、客の再度のアンコールを求める手拍子を無視できない、人の良いシンディ、ステージにひとり戻ってきてアコギを構える。「シンディのギターの弾き語りが聴ける!」と思っていると、「アハハ、やっぱり私ひとりじゃムリね。私のお手伝いしてェ〜」とキーボディストのジャン・パルスフォードを呼び出して、シンディのアコギとジャンのピアノ(但しシンセ)で演奏したのは、な、なんと“She Bop”! レインボー・へアにド派手な衣装を着て『パーなネェチャン』を演じてた頃を良くも悪くも象徴するエレポップ・ダンス・ナンバーをアコギとピアノで演奏するとは...。勿論、今のシンディがかつてのアレンジのまんま“She Bop”を演ることはミュージシャンとしてのスタンスが激変してしまった以上、不可能。でも観客は昔のナンバーも求めるわけで、「今となっては歌えない曲を演る」ための苦肉の策がこの大幅アレンジ変更だろう。“Girls Just Want To Have Fun”のリメイク“Hey Now”をレコーディングしたのも、同じ理由からか。次の曲もデビュー作から“Money Changes Everything”。但しこの曲はアルバムどおりのアレンジ。このロック・ナンバーではシンディは依然衰えを知らぬハイ・トーン・ヴォイスを披露し、激しいアクションで観客を煽る。あまりの動きの激しさにドレスの肩ヒモがズれ、オッパイポロリの危機に!!! 「うわああ〜、シンディのは見たくない〜!」と思っていると、シンディがズレに気付き、『最悪の事態』は回避された。『ヘザー・ノヴァのワキ毛と、ガービッジのシャーリィ・マンソンのパンティは見たくても、シンディのオッパイは御免蒙る』というのが私の人生哲学である。
 こうして130分のライヴは終わったのだが、全部で21曲演ったうち、新作から12曲。今の彼女に昔の曲を多く望むのはムリなのは承知していたから、これも当然か。シンディはまだ現在進行形のアーティストですよ。
 観客の伸ばす手に次々と握手に応じたシンディ、狭い小屋ならではの観客との交流、そして観る側と演る側双方が一体となって醸し出していた会場の雰囲気...すべてが前向きで、ポジティヴで、肯定的で、「シンディがクアトロ・クラスの狭い小屋で演るなんて落ち目になったもんだ」と涙ぐんでた『オールド・ファン』はひとりも居なかったんじゃない? 仮に居たとしても、会場の雰囲気に飲まれて「うあああ、ネガティヴなこと考えてゴメンなさい」と改心していることだろう。私も「松本公演観に行かなくてゴメンなさい」状態になっていたから...。クアトロで観ちゃった以上、もう武道館なんかじゃ観られませんね。来年以降も是非ともクアトロで演ってね・ シンディ。(富山にも来てね・)

【SET LIST】...'96.12.15 名古屋クラブ・クアトロ
1. Searching
2. Sisters Of Avalon
3. Ballad Of Cleo + Joe
4. I Drove All Night
5. Fall Into Your Dreams
6. Say A Prayer
7. That's What I Think
8. Brimstone And Fire
9. True Colors
10. Dear John
11. Love To Hate
12. You Don't Know
13. Hey Now (Girls Just Want To Have Fun)

(encore 1)
1. Fearless
2. Hot Gets A Little Cold
3. Time After Time
4. Broken Glass
5. Mother
6. Early Christmas Morning

(encore 2)
1. She Bop
2. Money Changes Everything

INDEX