パティ・スミスのライヴの後、渋谷のホテルで一夜を明かした翌1月12日、私は京王線に乗って、東府中駅で降りた。この日は府中の森芸術劇場でカーディガンズのライヴ〜!。
府中の森芸術劇場は名前は優雅だが、実は自衛隊の隣だったりする。多分、府中の森自体、自衛隊の施設の跡地の有効利用で造られた公園なのだろう。府中の森芸術劇場の建物にはふるさとホール、ウィーンホール、どりーむホールの3つのホールがあり、このうちどりーむホールが今回のライヴ会場だ。実は今まで私が観たライヴはすべてオール・スタンディングの会場だったが今回初めて座席指定の会場でライヴを観ることとなった。『どりーむホール』とは、20代後半で、独り身で、体重8x
kgの私にとっていかにも不釣りあいな会場名で、「私の席の両脇ともアツアツカップルだったらどうしよう」と恐る恐る会場に乗り込んだら、幸いにして私の席の片側は通路で、もう片方は男1人に女2人の「友達同士で来ました」的3人組だったので安心した(笑)。私の座席は15列目の45番。結構前の席だと思っていたが、名古屋クラブ・クアトロの一番後ろで観るのと同じくらいステージと距離があった。
そんな座席で開演を待っていると、6時10分を少し廻った頃、会場の灯りが消えた。が、なかなかカーディガンズのメンバーはステージ上に姿を現わさない。すると突然、会場の後方からカーディガンズのメンバーがステージへ向かって通路を駈けていくではないか! この演出に会場は大いに沸き、歓声が渦巻くなかステージ上に揃ったカーディガンズ、早速ニーナが観客に挨拶し、オープニング・ナンバーを紹介した。「I
am iron man〜」ブラック・サバスのカヴァー曲の“Iron
Man”だ。次の曲は新作『ファースト・バンド・オン・ザ・ムーン』の1曲目“Your
New
Cuckoo”。ここで気付いたのは、やたらヴォーカルの音量が多いミキシングが施されていたこと。去年のライヴについて「ニーナの声が小さい」と某誌でこきおろされていたことを思い出し、「ニーナたちもあれを読んだのかな」と苦笑した私。
ステージ上には、向かって左からギターのピーター、ヴォーカルのニーナ、ベースのマグナス、そしてキーボード兼ギターのラッセという順に位置しており、奥のほうでシンプルなセットでベングドがリズムを刻んでいた。ベースのマグナスはホントに大男で、台の上に立ってキーボードを弾いているラッセと同じ高さの背。さらにマグナスは横も結構あって、間近で見たら壁が歩いているように見えるに違いない。こんなウドの大木のようなマグナスがカーディガンズの曲の歌詞の半分以上を書いているのだから世の中分からない。
ニーナのいでたちは黒のタンクトップに黒い革のパンツ。1stアルバム『エマーデイル』の写真で見られるイモ臭さは完全に無くなり、洗練されていて、北欧美人らしく足がスラッとして長かった。そんなニーナ、“Fine”や“Been
It”といった曲では歌詞をド忘れしていた。英語が母国語じゃないというハンデがあるからこれは仕方ないか。
椅子に腰掛けたピーターが奏でるアコースティック・ギターの静かで、かつ、優雅な調べが印象的だった“Celia
Inside”、1stアルバムからの“Cloudy
Sky”の後、“Lovefool”のシングルのカップリング曲“Nasty Sunny
Beam”が披露された。この曲は途中でリズム・チェンジがあったりして彼らにしては凝った曲で、CDよりもハードに演奏されていた。
彼らのライヴを実際に観て初めて分かったのが、ニーナのヴォーカルは地声ではないということ。ニーナの地声はもっと低くて、歌う時にはあのウィスパー・ヴォイスを無理やり出しているみたいだった。それが証拠に、時が経つにつれニーナの声量が落ちてきた。曲が終わる度に殆ど毎回ニーナはステージの袖に引っ込んでいたが、あれはノドの調子を保つためうがいをしに行ってたんだと私は勝手に推測している。前日観たパティ・スミスはステージ上でうがいして平然と吐き出していたが、あいにくニーナはそんなキャラクターじゃないしね。
アップ・テンポの“Never
Recover”の後、大ヒット曲の“Lovefool”を披露し、「good
night!」と言ってニーナたちはステージを去った。もちろんこれでライヴが終わるのを観客が許す訳がなく、アンコールの手拍子が起こり暫くするとニーナたちが戻って来た。まずは新作から“Losers”を披露。場内に彼らの代表曲の“Carnival”のイントロが流れ、大いに盛り上がる会場。だいぶ前にニーナがステージの袖に消えていた時、手持ちぶさただったラッセが鉄琴の音で“Carnival”のイントロを弾いて客を喜ばせていたが、今度はきちんと完奏した。アンコールではデビュー作からの“Raise
&
Shine”まで、全部で6曲演り、5人はステージを去った。ドラムのベングドは帰りぎわにスティックを観客に投げ入れていった。
スタンディング会場の客はライヴ慣れしてて、アンコールの手拍子もお座なりのことが多いが、座席指定のこのホールの客はライヴ初心者が多いのかホントに熱心に手拍子してた。そのため、ニーナたちを再び呼び戻すことに成功。熱心な客に「thank
you」とニーナはお礼を言い、静かな曲“Great Divide”を披露した。「good
night!」と何度も手を振ってニーナたちはステージを去り、ベングドはまたもスティックを観客に投げ入れていった。こうしてこの日のライヴはホントに終わったのだが、ニーナが何度もステージの袖に引っ込むので、ライヴの流れが寸断され、興奮が冷めることが度々あったのを除けばいいライヴだった。
【SET LIST】...'97.1.12
府中の森芸術劇場どりーむホール
1. Iron Man
2. Your New Cuckoo
3. Sick & Tired
4. Step On Me
5. Plain Parade
6. Fine
7. Been It
8. Celia Inside
9. Cloudy Sky
10. Nasty Sunny Beam
11. Hey! Get Out Of My Way
12. Never Recover
13. Lovefool
(encore 1)
1. Losers
2. Carnival
3. Happy Meal
4. Daddy's Car
5. Over The Water
6. Raise & Shine
(encore 2)
1. Great Divide