ヒロくんのLIVE REPORT '97 PART 3 ROCKET FROM THE CRYPT

 1月16日の木曜日、私宛てにこんなハガキが届いていた。『ルシャス・ジャクソンの1月18日の恵比寿ザ・ガーデン・ホールでのライヴに御招待します』...。私のようにライヴに頻繁に出かけてると、このようにタダでライヴ観せてあ・げ・る...という御招待を受ける...わけではなく、アンケートに律儀に答えていると御招待を受けるわけである。私、チケットの裏のアンケートに毎回答えていますからね。みなさんもチケットの裏や、会場で配られているアンケートには極力答えるようにしよう! てなわけで、グランド・ロイヤルの女のコ4人組・ルシャス・ジャクソンのライヴに招待された訳だが、この日1月18日は同じ恵比寿で、ロケット・フロム・ザ・クリプトのライヴを観る予定があった!
 ロケット・フロム・ザ・クリプトの'95年に出たメジャー・デビュー作『スクリーム・ドラキュラ・スクリーム!』は輸入盤が出廻ってるうちから話題になっていたが、実際に聴いてみて何故こんなに話題をさらっていたのかよく分かった。徹底して音がバカなのだ。疾走感あふれる暴走ギター・サウンドに、怒涛の男声コーラスが乗り、そこへサックスがからみつく知性皆無の音。「こんなバカな音を待ってたんだ〜!」 と大喜びした私、早速このアルバムをヘヴィー・ローテーションにした。バカなのは音だけではない。ロケット・フロム・ザ・クリプトの皆さんは“スピード”だの、“N.D.”だの、“ベティーX”だの、“アトム”だの、“アポロ9”だの、“J.C.2000”だの、とんでもない名前を名乗ってる。このバカさ加減にますます盛り上がる私。さらにコイツら、ヴィデオ・クリップでは、ガイコツ模様のついたもじもじくんの衣装を着てひたすら踊りまくるというバカな姿を披露しているという(この姿は『スクリーム〜』の内ジャケでも確認できる)。当初'96年の9月に出る筈だった『スクリーム〜』の日本盤の発売が12月にまで大幅延期になった理由がまた笑える。アルバムのマスター・テープを置いたままにしてきたレコーディング・スタジオがいつのまにやら倒産していて、そこの借金のカタにテープが差し押さえられてしまい、取り戻すのに時間がかかったせいだという...。なんかあまりのバカさ加減にこちらもトホホホ...の心境になってしまうが、そんな愛すべきバカども・ロケット・フロム・ザ・クリプトの皆さんが、実際にどれほどバカか確認するため、せっかくルシャス・ジャクソンのライヴをタダで観る機会だったのにこれを蹴り、彼らの2度目の来日ツアーを観に行ってきた(一体いつの間に初来日してたんだよ、コイツら!)。
 今まで私が行ったライヴの会場はみんな公営もしくは大資本傘下の会場だったが、今回の会場の恵比寿ギルティは個人経営のアンダーグラウンド臭漂う文字どおりのライヴ・ハウス。地下1Fにあること自体アングラ的だが、そんな恵比寿ギルティの前に開場時間前に行くと、前回のライヴを観たというひとが女のコ2人相手にウンチクたれていた。「前回のライヴの時、オレ、ロケット・フロム・ザ・クリプトの皆さんと友達になってさァ〜。ヴォーカルのスピードはさ、プレスリーに憧れてロックやってるひとで、オレ、そーゆー彼らのロックに対する真面目な態度が好きで彼らの音楽愛してるワケ〜」このひとを嫌なヤツと思ってはいけない。ロケット・フロム・ザ・クリプトのように絶対的に情報量の少ないアーティストの場合、こういうコアなファンの自慢話も貴重な情報源。このひとがロケット・フロム・ザ・クリプトの皆さんと友達になったというのはまんざら嘘ではなく、ちょうどそこを通りかかったドラマーのアトムはこのひとに気軽にサインしてやり、彼のウンチクをおとなしく聞いてた女のコ2人は彼の仲介により、アトムと記念撮影までさせてもらってた。
 恵比寿ギルティは名古屋クラブ・クアトロのフロア部分と同じくらいのスペース。床はコンクリートがむき出しになっていて、アングラ的。7時になるとまずは日本のバンド・けむりが登場。バンド4人にホーン隊3人の7人編成のスカ・バンドで、全部で7曲演奏。英詞で頑張っているのが好感持てた。次のバンドは日本人3人組ATOMIC FIREBALLで、私と同じ体型のギタリストがヘルメットのTシャツを着ていることから分かるとおり、ヘルメットのようなモダン・ヘヴィー・ロックを演るバンド。ギター、ベース、ドラムの3人が交代でヴォーカルをとるのだが、演奏がウルサ過ぎて歌がちっとも聴こえなかった。ここまでの日本のバンド2組の演奏が終わった時点で時間は8時半になっており、ルジャス・ジャクソン観てから来ても充分間に合ったよ! と思っても後の祭。次のバンドはフレンザル・ロムというオーストラリアのバンド。これもスカ・パンクを演奏する4人組で、全部で15曲を披露。堅実な演奏でノリがよく、彼らのCDを買ってみようかなと思わせられた。憶えたての日本語で「バカ〜」とメンバー同士で罵倒し合い、ミネラル・ウォーターの代わりに小便をつめたペット・ボトルをステージ上に持ち出すなど(さすがにかけ合ったりしなかったが)、ロケット・フロム・ザ・クリプトの前座にふさわしいバカぶりに大いに盛り上がった私。
 新宿発10時の列車で帰る予定だったが、前座3組の演奏が終わった時点で9時半になっており、「ロケット・フロム・ザ・クリプトを観ずに帰れるか!」と帰りの列車がなくなるのを覚悟し居残った。ロケット・フロム・ザ・クリプトの皆さんが現れたのは9時45分。オープニングは、アルバム『スクリーム〜』の日本盤のみのボーナス曲でインスト曲“Pushed”。メンバー6人全員お揃いのキラキラつきの黒のシャツを着ていた。ヴォーカル兼ギターのスピードは写真で見るよりず~っと立派な体格で、晩年のプレスリーそっくり。スピードがプレスリーに憧れてるというのは本当のようだ。“Pushed”の後、アルバム『スクリーム〜』の1曲目“Middle”を演奏。ステージ上にメンバーは6人と思ってたら、演奏が始まる前までギターのチューニングを合わせたりしていたローディーのひとも同じ衣装を着てステージ上にいて、踊りとバック・コーラスを担当していた。この『7人目のメンバー』の名前は何ていうんだろうか(笑)? 曲の後、スピードが「Born in '69〜!」と叫んでそのまま“Born In '69”に突入。この曲のタイトルどおり彼らが'69年生まれなら、私と全くの同世代だが、あいにくと「'69」という年号、ブライアン・アダムスの曲に例があるように、本来の意味以外に使われることが多く、安心できない! 特にコイツらバカだし...。次の曲は“On A Rope”で、アルバム『スクリーム〜』の最もオイシイ部分である最初の3曲をアルバムの流れ通りに披露したため、フロアの真ん中に陣取る『あばれにきたぜェ〜』的連中は大騒ぎ。ダイヴを試みる者は勿論のこと、ステージ上に駈け上がり、『7人目のメンバー』のローディーくんといっしょにマイクに向かってバック・コーラスをとるツワモノまでいた。私もこの熱気と一体となって興奮してたかというと...残念ながらそうではない...。
 前座のバンドが演奏している時から気になっていたんだが、ここ恵比寿ギルティでは、やたらベースとドラムの音が前面に出るようなミキシングが施され、お蔭でヴォーカルが殆ど聴こえないのだ。『7人目のメンバー』のローディーくんがとるバック・コーラスは何とか聴こえていたが、スピードの声はアンプを通してではなく、ステージ上で熱唱する彼のナマの声が大音響にかき消されたうえで弱々しく響いてくるだけだった。アポロ9とJ.C.2000のホーン隊2人が演奏するサックスとトランペットの音すら蚊の鳴くような音でしか聴こえないんだから...。フロアの真ん中に陣取る『あばれにきたぜェ〜』的連中を満足させるためにはリズムを強調させとけば勝手にノリまくって、暴れて、満足して帰ってくだろうが、私のように『音楽を聴きに来た』者にとっては、このシチュエイションはあまりにもつらいものがあり、会場の客の約7割を占める『ナマのロケット・フロム・ザ・クリプトがどれだけバカか確認しに来た』客は私も含め殆ど引いていた...。会場に自分のヴォーカルが聴こえてないのはスピード自身も把握していたようで、「キッチリ歌ってもどうせ聴こえてないんだから」と歌も投げヤリになり、アクションに専念するようになった。
 『スクリーム〜』からの3曲の後、新曲や昔の曲を次々と演奏。だけどあまりにも音が悪く、どこまでが1曲かすら判別つかないくらいなのだ。バカはバカでも音楽バカのロケット・フロム・ザ・クリプトの皆さん、肝心の音楽という武器が使いものにならないため、フロアの中央を占拠する『ただただ暴れたいだけのバカ』の勢いに押され、萎縮しているとさえ見受けられた。スピードが「do you like a party?」と呼びかけても、完全に引いてしまって腕組みまでしている7割がたの客(残り3割は、暴れてる客)をどうにかするのはもはや不可能だった...。私は数多くのライヴを体験しているけれど、ここまで観客の間に温度差ができたライヴは初めてだ。でもこうなったのはロケット・フロム・ザ・クリプトの皆さんのせいではなく、ミキサーのせいだ! ドラマーのアトムは最初オールバックだった髪がバラバラになるまで激しく演奏してたし、他のメンバーも出せるものはすべて出し切った筈なのにそれらの努力が一切観客に伝わらなかったこの日のライヴ、プレスリーになるのが夢というスピードは悔しくて悔しくて仕方なかったに違いない! もしも悔しくないのなら、スピード、アンタ、プレスリーにはなれないぜ!
 10時40分、2ndからの“Giazed”がアンコールで演奏されてライヴが終わり、どーしようもないライヴを観せられた怒りよりも、とにかくロケット・フロム・ザ・クリプトの皆さんがあまりに気の毒で気の毒で仕方ないブルーな気分で恵比寿駅へ。ライヴ観て何でこんな気分にならなきゃいけないんだァ〜。新宿から何とか甲府まで電車があったが、甲府から先の電車は朝イチまで無く、寒空の下、甲府駅周辺をうろつくこと4時間。この『甲府の4時間』が大いに効き、この後私は見事風邪を引き、2日半会社を休むハメとなった...。
 今週のひとこと『こんなことになるならルシャス・ジャクソンも観とくんだった...。』

【SET LIST】...'97.1.18 恵比寿ギルティ
1. Burned
2. Middle
3. Born In '69
4. On A Rope
5. ? (新曲)
6. ?
7. ?
8. ?
9. ?
10. Suite City
11. ?
12. My Arrow's Aim
13. ?
14. ? (←もしかしたら“Dollar”だったかも知れない)
15. Come See, Come Saw

(encore)
1. Giazed

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