海外でもレコードを出している日本人アーティストは数多くいるが、アチラで高い評価を受けている日本人アーティストはごく少数。そんなごく少数の日本人アーティストの1つが日本人女性2人組のチボ・マット。ニューヨーク在住の本田ゆかと羽鳥美保の2人からなるこのヒップ・ホップ・ユニットはいきなりバリバリのメジャー・レーベルの『Warner
Bros.』からデビュー。ミッチェル・フルーム(スザンヌ・ヴェガの旦那)とチャド・ブレイクのプロデュースによるデビュー・アルバム『Viva!
La
Woman』はCMJチャート(全米のカレッジ・チャート)で日本人初の1位を獲得。さらには米『スピン』誌選定の'96年のベスト・アルバム10に選ばれ、あのブッチ・ヴィグ先生(ニルヴァーナの『ネヴァーマインド』のプロデューサー。現・ガービッジのドラマー)が選んだ'96年の10枚に入るなどクロウト筋から高い評価を受けている。そんなチボ・マットの2人が、ジョン・スペンサー・ブルース・エクスプロージョン(以下、ジョン・スペ)の爆裂ドラマーのラッセル・シミンズと組んだお遊び的プロジェクトがBUTTER
O8(バター・オーエイト)。この1月のジョン・スペの来日に合わせる形で、チボ・マットの2人も凱旋帰国し、BUTTER
O8として来日ツアーをすることになった。チボ・マットの2人...ゆかサンと美保サンを表敬訪問しておきたかった私は、まだ風邪が治っていない体をおして2月1日、渋谷クラブ・クアトロに行ってきた。
普段、6時開場・7時開演のパターンが多いクアトロだが、この日のライヴは5時開場・6時開演のため客の集まりが悪く、整理番号が223番だったにもかかわらず、30席しかないカウンター席をゲット! 風邪ひきの体にはスタンディングは辛いだけにラッキーだった。6時ちょうどに前座の日本のバンド、バッファロー・ドーターが登場。バッファロー・ドーターはギター兼ヴォーカルの女性、ベース兼サンプラー兼ヴォーカルの女性、ドラムの男性、そして『皿回し』の男性の4人組。『皿回し』専任のメンバーを置いてることからして特異だが、音楽的にはヴォーカルが女性2人のギター・バンドということからLUSHを思わせる部分もあり、LUSHにヒップ・ホップを掛け合わせたと表現すればいいのだろうか。そんなバッファロー・ドーターの皆さんは全部で6曲?演奏してステージを去った。
この後、セット・チェンジが始まったのだが、ローディーたちが慌ただしく器材のセットをしている最中、ラッセル・シミンズ御自身がステージ上に出てきてドラムのセッティングを手伝ってる。観客はこれに気付き「ラッセル〜!」と声援を送っていたが、よくよく見ると、ベースのマイク・ミルズ(R.E.M.のベースのマイク・ミルズとは同名異人)と『替え歌』の金谷ヒデユキに似ているギターのリック・リーもステージ上でセッティングをしている。ただしこの2人はラッセル・シミンズほどの知名度がないため、彼らには一つも声援がなかった。みんなこの2人をローディーだと思っていたらしい(笑)。メンバー5人のうち、3人が早々とステージ上に出ていたため、ライヴが始まる前の「早くバンド・メンバーに逢いたい!」的期待感が希薄になってしまった...。
器材セッティング終了後、ステージ上から人影が無くなった7:15、いよいよBUTTER
O8の5人が登場。ラッセル・シミンズはサンタクロースみたいな赤いガウンを羽織り、いきなり雄叫びを上げる! ゆかサンは金髪姿で、美保サンはつばの広い帽子をかぶり、首にレイをかけて登場。オープニング・ナンバーは“Butterfucker”。客の声が小さいと見るやいきなり「声が小さいわよ!!!」と日本語で叱る美保サン。この曲ではラッセル・シミンズもギターを弾き、曲の終わりでラッセルは雄叫びを上げながら、ギターを振り回し、赤いガウンを放り投げてからドラム・セットに着いた。そんなラッセルのドラム・セット、なんとバスドラ、スネア、フロア、シンバル、ハイハットの5点セットで、今どきドラムの初心者でももっと立派なセット揃えるぜ!と言いたくなるほどのシンプルなセット。次の曲“9MM”は、サビの部分で「アボガド食べてる、待ちましょ!」という『そらみみ』が聴ける曲。会場の客はみんな「I
got more than 9 milimeters, It's much much
Yo」と合唱してたが、私は「アボガド食べてる、待ちましょ!」と歌っていた(笑)。
BUTTER
O8は美保サンとラッセル・シミンズがリード・ヴォーカルを分け合っていて、“Shut
Up”ではラッセルは「お前のほうこそ黙れ!」と言いたくなるほど、雄叫びを上げながらドラムを叩いていた。4曲目の“Degobrah”は「He's
yoda~」という歌詞が連呼される曲で、曲の内容に合わせてか、『BUTTER
O8の6人目のメンバー』と呼ばれるヨーダのマスクをかぶった人物が登場、ステージ上を縦横無尽に走りまくっていった...。
“Dick
Serious”の後、新曲が披露され、美保サンの「高校生のひと、居る?」という謎のMCで始まった“It's
The
Rage”では、今度は往年のプロレスラーのザ・デストロイヤーのようなマスクをかぶった人物がステージに登場。ゆかサンの代わりにキーボードを弾くも、サンプラーのスウィッチの使い方が判らず、ゆかサンに手ほどきを受けていた。
続く“Mono
Lisa”では、爆裂ドラマーぶりを見せつけたラッセル・シミンズ。ドラムセットの数が少ない方が自由に暴れられるようで、ドラマーにとってセットの数が多けりゃいいってもんでもないことが彼のプレイを見ているとよく分かった。
「今日は観に来てくれてどうもありがとう。ここで夏の想い出の曲を1つ...」と美保サンが言って始まったのが“Butter
Of 69”。何故“Butter Of
69”が『夏の想い出の曲』になるのかよく判らんが、この曲が終わるとBUTTER
O8の5人はステージを去った。
アンコールの求めに応じて戻ってきたBUTTER
O8の皆さん、ラッセルと美保サンの2人がイスに腰掛け、お互い瞳を見つめ合うウイウイしい姿でデュエットしたのが“How
Do I
Relax”。この曲ではラッセルの代わりにリックがドラムを叩いてた。ラッセルがドラムに戻った次の曲は新曲?で「Can't
believe
it」というリフレインが印象的な曲。この曲ではヨーダのマスクをかぶった人物が2匹現われ、ステージ上で暴れていった。1匹はすぐにステージから消えたのだが、曲の最後まで残ってたヨーダはラッセル・シミンズとマイク・ミルズに両脇を押さえられ、抵抗虚しくステージ上から客がひしめきあうフロアに投げ込まれた。哀れ、ヨーダは観客にモミクチャにされ、この日のライヴは終わった。
BUTTER
O8としての持ち歌が少ない分、チボ・マットやジョン・スペの曲を演るのでは...と思っていたが、あくまでBUTTER
O8の曲だけにこだわった彼らに潔さを感じた。
【SET LIST】...'97.2.1
渋谷クラブ・クアトロ
1. Butterfucker
2. 9MM
3. Shut Up
4. Degobrah
5. Sex Symbol
6. Dick Serious
7. ? (新曲)
8. It's The Rage
9. Mono Lisa
10. Butter Of 69
(encore)
1. How Do I Relax
2. ? (新曲?...“Can't Believe It”?)