アラニス・モリセットのアルバム『ジャグド・リトル・ピル』が米国だけで14,000,000枚も売れたことで、今、ミュージック・シーンでは女性シンガーがある種ブームになっていて、去年は多くの女性シンガーが日本デビューを果たした。ちょっと考えただけでも、フィオナ・アップル、トレイシー・ボーナム、アマンダ・マーシャル、POE、パティ・ロスバーグ、ギリアン・ウェルチ...とまあ、ホントに多くの女性シンガーが日本でデビューしたわけだが、そのなかで変わりダネ中の変わりダネだったのが、アーニー・ディフランコ。他の女性シンガー達とアーニーとの最大の違いは、他の女性シンガー達が新人アーティストだったのに対し、アーニーは日本デビューとなったアルバム『ディレイト』が7枚目のアルバム(ベスト盤を含むと8枚目)となるくらい、キャリアがあることだ。
どうしてアーニーの日本デビューがこんなに遅れたのかというと、彼女が100%純粋なインディー・アーティストだからで、アーニーの所属レコード会社『Righteous
Babe』レーベルはアーニーが自分の歌を世に送り出すために創った自主制作レーベル。'90年のデビュー以来のアーニーの地道な活動が次第に評判を呼び始め、「アーニー・ディフランコという凄いシンガーがいる!!!」という評判が太平洋を渡って日本に届いた結果が去年の日本デビューなわけで、『do
it
yourself』のインディー・アーティストが7年という年月をかけながらもここまで浸透した例は少ないことを考えると、これが如何に凄いハナシかよく分かる。というわけで、歌いたいことがあったから曲を書き、曲が出来たからレコーディングし、レコード作ったからそれを売るためのレコード会社を創って地道な活動を続けてきた『自然体アーティスト』アーニー、自分の歌を聴きたいというひとがいるから日本に行く...ということなのだろう、初来日が決まったので、私も、観たいアーティストが来るから観に行く...という自然体で心斎橋ミューズ・ホールでの大阪公演を観に行って来た。
ライヴのあった2月22日は時折雪が激しく降る寒い一日で、「こんな天気で大阪まで行けるのかよお〜」という天気のなか朝5時に車で富山を出発。チケットを家に忘れて一度富山に戻る大ポカもあったりしたものの、何とか3時半に大阪に着いた。
開場直後は客の入りが悪く、そのため最前列に近い位置をゲット。時間もあったのでステージ上のセット・リストの中身を丸写しすることが出来た。開演の7時頃には恥ずかしくない程度の客が入っていた(7〜8分入り)のだが、来ている客の約半数が外国のかた。ノー・ダウトのライヴも外国のかたが多かった(1割)が、ノー・ダウトは日本でこそまだまだだけど、アメリカでは超人気者だからそれも解る。アーニーの場合は、日本でもアメリカでもまだまだこれからの存在。どうしてこんなに外国のかたが多かったのだろう? CNNかFENでアーニーのことが話題にのぼってたんだろうか? ま、それはさておき、開演予定時間の7時になりアーニーの登場が近くなると、私の興味はアーニーはどんな髪形かに移っていた。
開場前、カップルの客が「アーニー、どんな髪形かな」と言っているのを小耳に挟んだりもしたが、どうしてアーニーの髪形に興味が集まるのかというと、アーニーはアルバム出すごとにヘア・スタイルが変わっていて、デビュー当時はシンニード・オコナーばりのスキンヘッド。その後、モヒカンにしたり、金髪にしたり、そして最新作の『ディレイト』ではドレッド・ヘア姿を披露している。最近のプロモ写真を見ると、フツウになっていたが、もしかしたらトンデモないヘア・スタイルになってるのでは...と期待と畏れの入り混じった気持ちでアーニーの登場を待っていたら...7時10分、ついに姿を現したアーニーは案の定、髪形変わってました! 髪形はショートなんだけど、金髪にしていて、細かく髪を編んでいた。実際見たアーニーは凄く小柄でシークレット・ブーツを履いていた。身長150cm台じゃないかな。顔は安室奈美恵を若干ツリ目にした感じで凄くカワイらしい。谷間が見えるほど胸の切れ込みが深い皮のヴェストに、黄系統のズボンでヘソ出しルックのアーニーだったが、彼女が単なる可愛い女性でないことを胸の谷間の少し上に彫られた刺青が主張していた。「コンバンワ〜」と日本語で挨拶したアーニーがアコースティック・ギターを構えて演奏し始めた曲は5枚目のアルバムのオープニング曲“Buildings
And
Bridges”。ステージ上にはアーニーの他、ドラマーとベーシストがいる3人編成。アーニーは激しくギターを弾くためか、右手のすべての指に和琴の奏者がつけるような爪をつけていた。曲が終わると「ドモアリガト」と挨拶したアーニー、基本的に曲が終わるごとに英語で客に話しかけてコミュニケイトしようとしたんだけど、先に書いたようにこれだけ外国のかたが多いとどうしてもアーニーと外国のかたとの英語のやりとりが主になってしまい、英語を解さない者としては仲間に加われない疎外感を感じずにはいられなかった。
新曲や昔のアルバムの曲を続けて披露したため、ノリきれなかった客もいたようだが『ディレイト』からの“Napoleon”が演奏されるとさすがに沸く。「どいつもこいつもクソッタレのナポレオン」と安室顔のアーニーが歌詞の内容と反する真っすぐな声で歌うさまは観ていて気持ちいい。次の“Untouchable
Face”も「fxxk
you」という歌詞が何回も出てくるシットリしたバラードで、アーニーが「fxxk
you」と歌う度、外国のかたが大いに喜ぶので、アーニーは歌いにくそうだった。“Untouchable~”の演奏中、足元のセット・リストをのぞき込んだアーニー、そのまま凍りついてセット・リストを凝視していた。調子に乗って曲を披露しまくっているうちに、誤って予定の曲を1曲とばしてしまったのに気付いたらしい...。ここでギターを替えたアーニー。このギターの交換の時、しっかり見てしまいました、彼女がワキ毛を剃ってないのを...。アーニーのワキ毛を見て、スキン・ヘッドにしたり、モヒカンにしたりするひとはさすがに違うとミョーな感心をしてしまった。
「new song」とのアーニーの紹介で始まった“Independence
Day”の後、例によって英語で話を始めたアーニー、宿泊してるホテルの部屋にかかってきた電話を取ったら日本語の電話だったんで、「I
can't understand
Japanese~」と言った...というようなハナシを身振り手ぶりを交えてしたあと、アルバム『ナット・ア・プリティ・ガール』から“Cradle
And All”を披露。曲が終わるとアーニーは次の曲を紹介した。「Not A
Pretty Girl」 そして続けてアーニーはこう言った「just I
am」...。すると場内の外国人の客からこんな声がかかった。「ウソバッカリ〜」 これには日本人外国人分け隔てなく場内大爆笑!!! 日本語が理解らずキョトンとしていたアーニーに件の客が「just
a
lie!」と英語で説明するとアーニーも笑っていた。(何が起こったか一応説明すると、アーニーが「可愛い少女じゃないっていうのは、まさに私のことね」とボケたのに対し、外国人客が「自分のことブスだっていうのは、アンタ、ウソだろ?」とツッコんだ訳である) こういういきさつゆえ、笑いを噛み殺すようにして“Not
A Pretty
Girl”を歌い始めたアーニー。笑っているときはそれこそ安室顔で16歳の少女のように可愛いのだが、一旦歌い始めると36歳の女性のような年輪を感じさせる。そこら辺が彼女が只者でない由縁。(アーニーは'70年生まれ) “Not
A Pretty Girl”の後、外国人客から「I love
you~」、「アイシテル〜」とアーニーに声がかかった。この後“Shy”、先ほどとばされてしまった“Worthy”とアルバム『ナット・ア・プリティ・ガール』からのナンバーを演奏。『ディレイト』からの“Shameless”、『ナット・ア・プリティ・ガール』からの“32
Flavors”
を披露するとバンド・メンバー2人の紹介。ドラムのアンディは大リーグ行きでモメてる伊良部に似てて、ベースのジェイソンはシーナ&ロケッツの鮎川誠に似ていた。メンバー紹介からなだれ込んだ“The
Diner” が終わると3人はステージから姿を消した。
アンコールの求めに応じ、一人戻って来たアーニー、新曲?の“Do Ray
Mi”を披露。この曲はアメリカの州の名前がたくさん折り込まれてて、自分の出身地の州の名が歌われると外国のかたたちは歓声をあげ喜んでいた。続く“Overlap”は3人での演奏。アルバム『アウト・オブ・レンジ』収録のシットリとしたバラードでこの日のライヴは終わった。
デビュー作から1曲、2nd『ナット・ソー・ソフト』から1曲、3rd『インパーフェクトリー』から1曲、4th『パドル・ダイヴ』から0曲、5th『アウト・オブ〜』から3曲、6th『ナット・ア〜』から5曲、最新アルバム『ディレイト』から3曲、そして新曲が4曲...と合計18曲演ってくれたわけだが、個人的には選曲が興味深かった。アーニーのアルバムをすべて聴いて『ナット・ア〜』の曲が一番ライヴ映えすると思っていた私にとって、この曲配分は妥当と思えたし、アーニー自身が自分の作品を私と同じように捉えているのが判ったことも収穫だった。ライヴ自体の感想はというと、アーニーがアメリカのクラブやライヴハウスで演ってるライヴもきっとこんな感じだろうな...と思わせる、非常にアット・ホームで良い雰囲気のライヴでした。これでもっと日本人の客が多ければよかったのに...。
【SET LIST】...'97.2.22
心斎橋ミューズ・ホール
1. Buildings And Bridges
2. Fire Door
3. Glass House (新曲?)
4. Gravel (新曲?)
5. Napoleon
6. Untouchable Face
7. In Or Out
8. Anticipate
9. Independence Day (新曲)
10. Cradle And All
11. Not A Pretty Girl
12. Shy
13. Worthy
14. Shameless
15. 32 Flavors
16. The Diner
(encore)
1. Do Ray Mi (新曲?)
2. Overlap