ヒロくんのLIVE REPORT '97 PART 6 SUEDE

 ♪here they come, the beautiful ones~ 華麗なヤツらがやって来た。スウェード、4回目の来日~!(単独では3回目の来日ツアー) 私が観たのは3月2日の日曜、東京は赤坂BLITZでのライヴ。赤坂BLITZといえば『あの話題の...と言っては良くないのかもしれませんが...TBSサンがこの3月('96年3月)の下旬に華々しくオープンさせる筈だったにもかかわらず、様々な問題が出てきてしまったために、ま、一応東京地区ではよく知られてはいるんですけれども、あんまりハデに言えなくなってしまった1500人収容のスタンディング中心のオシャレなライヴ・スポット』(←××氏・談)。そんな赤坂BLITZの前には女のコが大勢集まっていた。そりゃそうだよなぁ〜、スウェードは男前5人組のバンドだから。
 スウェードといえば、'93年のアルバム・デビュー時、期待の新人4人組として大騒ぎになったイギリスのバンド。同性愛や変態性欲を題材にしたキワドい歌詞、それを歌うブレット・アンダーソンの時折ひっくり返る気持ち悪い爬虫類ヴォーカルなど、当時(といっても4年前だが)のシーンに大きな衝撃を与えた。'94年、2ndアルバムのレコーディング中にバンドの主要人物、ギタリストのバーナード・バトラーの脱退というアクシデントがあったものの、後任ギタリストとして当時弱冠17歳のリチャード・オークスが加入、その後新たにキーボーディスト、ニール・コドリングも加えて5人組となった新生スウェードが去年発表したのが新作『カミング・アップ』。今回の来日はこの新作に伴うツアーである。
 会場内では女のコの姿が目立ってたが、決して女性ばかりではなく、4割は男性だった。メンバーが伊達男5人だったり、セックスを題材にした耽美的歌詞世界など、スウェードというバンドには女性受けする要素が多いのだが、会場に男性の姿も多いことはそういう女性受けの要素を抜きにした音楽そのものに魅力があることを示している。
 スウェードの音楽は非常にポップでとてもオイシいんだけど、彼らの音楽の甘美さを味わうためには大きな関門がある...ヴォーカルのブレット・アンダーソンの気持ち悪い声が生理的に合うか合わないか...。雑誌『rockin' on』の'92年8月号で児島由紀子サンがブレットの声を「聴けば聴くほど気持ち悪い声」と評していたが、そんな児島サン、今ではスウェードの日本盤の殆どの対訳を手がけるほどスウェードの音楽に入れ込んでるワケで、ブレットの声が気持ち悪くても、我慢して聴いていればあまりにも甘美なスウェード・ワールドにハマらずにはいられなくなる...そういう意味で私はスウェードのことを“耳で聴く初体験”と呼んでいる。「最初は誰でも痛いんだよ。でも、じきによくなるさ。グフフフフ...」
 6時10分過ぎだろうか、それまでセックス・ピストルズの『勝手にしやがれ!!』がかかってた場内に突然、新作『カミング・アップ』収録の“She”のイントロが鳴り響いた。ステージ上に人影が全くないことからすると、これはシークェンサーによるものだろう。“She”のイントロで女のコたちの歓声が渦巻く中、ドラムのサイモンがドラムセットに着き、リフを叩き出す。そしてベースのマット、キーボードのニール、ギターのリチャードも現われ、演奏し出した曲は勿論“She”。ヴォーカルのブレットの姿が見えないと思っていたら、ステージ上に「ケヴィン・コスナーみたいな髪形にしたつもり」と言って髪を切った頃の明石屋さんまみたいな髪形の男がいて、奇妙な踊りを踊っている。この『明石屋さんまみたいな髪形の男』こそ、スウェードのヴォーカルのブレット・アンダーソンその人だった...。ブレットといえば『巨人の星』の花形みたいに前髪を垂らしたヘアスタイルがトレード・マークだったが、どうやら最近髪を切ったらしい。そんなブレット、ライヴでは『発情期になったサルのように尻を振る気持ち悪い踊り』を踊りながら、例の気持ち悪い声で歌うことで有名である。実際にブレットの『気持ち悪い踊り』を観て、「これが噂の気持ち悪い踊りかぁ〜」といたく感動してしまった。だってホントに気持ち悪い踊りなんだもん。といっても生理的嫌悪感は全く無く、『ひたすらおかしい』という感じで、私はブレットの踊りを見て、笑っていた。ブレットの使うマイクスタンドは腰を曲げないと歌えない高さにワザと調節されていて、何が何でも腰を振るぞ!!!というブレットの強い意思がそこからも伺えた。さらにブレットはツンツルテンの黒いTシャツを着てて、動く度にヘソがチラチラ見え隠れしてたが、これにもヘソをチラチラ見せてやる!!!というブレットの強い意思を読み取っていた私。曲の終わりでマイクスタンドを放り投げたブレット、続く“Trash”ではマイクのコードを持ってマイクをブンブン振り回していた。
 ステージの向かって左側の前のほうでまるで学級委員長みたいに背筋を伸ばして椅子に腰掛け、キーボードを弾きながら驚異的ハイトーン・ヴォイスでバック・コーラスをとっていた新メンバーのニール・コドリング。私は彼のことを好意的に見ていたのだが、この学級委員長サンはとんでもないヤツだった!!! 4曲目に披露されたのは1stからの“Animal Nitrate”。この曲はニール君がスウェードに加入する前の曲なので当然キーボード・パートが無い。するとニール君はキーボードのところで『気をつけ』したまま曲が終わるまでじ〜っとしていた...。さらに6曲目には同じくデビュー作から“So Young”が演奏されたのだが、この時ニール君は自分の出番がないので、他のメンバー4人の熱演をよそに、ひとりステージの袖に引っ込んでしまった...。この他、ニール君は自分の出番が無いときは客に背を向け後ろ向きになったり、ひとりペットボトルの水を飲んだりしていた...。ニール君、非常に御行儀の悪い学級委員長サンですね...。
 ライヴは新作『カミング・アップ』からの曲を中心にポンポンと早いテンポで進んでいった。『カミング・アップ』の日本盤のみのボーナス曲“Young Men”も演奏されたがこれは日本向けの選曲か。ブレットの「last song~!」のMC、そして女のコたちの「エエ〜ッ」というブーイングとともに始まった“Beautiful Ones”ではブレットはマラカスを振って気持ち悪い踊りを踊りながら歌い、曲が終わるとブレットはマラカスを、ドラムのサイモンはスティックを観客に投げ入れて、スウェードの5人は一度ステージを去った。
 アンコールの要求に応じて戻ってきたスウェードの5人、まずは新作から“Filmstar”を演った。続く“The 2 Of Us”は2ndアルバム『ドッグ・マン・スター』からの美しいナンバー。この曲ではギターのリチャードがキーボードを弾いて、4人で演奏された。哀れニール君は自分の席をリチャードに奪われ、ステージの袖に引っ込んでいた。そしてこの曲でこの日のライヴが終わったのだが、観客へ別れを惜しむべく手を振っていたのは4人だけ。スウェードは5人編成のバンドなんだけど...。このようにキーボードのニール君は曲によっては仕事が用意されていないばかりか、観客に別れの挨拶する機会すら与えられていないなど、さんざんな扱いを受けていて、いくら新加入のメンバーとはいえ、これはないんじゃないの? ニール君がステージ上であんな態度をとりたくなる気持ちも解るよ。バンドのなかの不満分子...前のギタリスト、バーナード・バトラーがいなくなってバンドの雰囲気が良くなったハズなのに、バンドのなかに不満分子を新しく作るようなマネはよしたほうがいいよ。キーボードのニール君をないがしろにしているといつかシッペ返しを受けそう...スウェードというバンドのなかに火ダネがくすぶっているのを垣間見た気がした。
 ライヴは全15曲、1時間ほどで終わったが、アルバムを3枚も出しているバンドにしては早く終わり過ぎの感じがした。もっと曲を聴きたかったのに...。そして、もっとブレットの気持ち悪い踊りを観たかったのに...。それにしてもブレットの踊り、ホントに面白くて、もしもこのブレットの動きを完全にマスターしたならば、それは最強の宴会芸として通用する。ブレットのモノマネに勝つ宴会芸はそれこそ江頭2:50の『デンデン太鼓』くらいしかないのでは。ウケる宴会芸を捜しているひとは是非ともスウェードのヴィデオを買ってブレットの動きをマスターすべきだ!!! 観るひとに強烈なインパクトと笑いを与えるブレットの踊り。こんなに笑ったライヴは私は初めてだ!!! 
 ライヴ終了後、地下鉄赤坂駅のホームで列車を待っていると、女のコたちが笑いながらさっそくブレットのモノマネにチャレンジしていた...。

【SET LIST】...'97.3.2 赤坂BLITZ
1. She
2. Trash
3. Lazy
4. Animal Nitrate
5. By The Sea
6. So Young
7. The Wild Ones
8. Saturday Night
9. Starcrazy
10. New Generation
11. Picnic By The Motorway
12. Young Men
13. Beautiful Ones

(encore)
1. Filmstar
2. The 2 Of Us

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