誰にでも、若かりし頃のヒーローが存在すると思うが、私にとって10代の頃のヒーローのひとりがブライアン・アダムス。大学受験で忙しかったハズの18歳の時、私の部屋にはブライアン・アダムスのポスターが貼られていた。ちょうどこの頃ブライアンはアルバム『イントゥ・ザ・ファイアー』を出したばかりで、その前のアルバム『レックレス』ともどもよく聴いていたもんである。ところがその『私にとってのヒーロー』に同調できなくなってきたのが、'91年にアルバム『ウェイキング・アップ・ザ・ネイバーズ』を出した頃から。昔からの曲作りの主要パートナー、ジム・ヴァランスと別れて選んだ相手が、AC/DCやカーズ、デフ・レパードのプロデューサーとして知られるロバート・ジョン“マット”ランジ。ブライアンほどのビッグ・ネームが何故“マット”ランジの手を借りるのか? そもそもの疑問はここから始まった。この後、映画のサントラがらみのヒット曲...それもバラードばっかりを連発。これらのサントラの仕事によって『rockin'
on』誌方面では、『必殺サントラ仕事人』と揶揄され始めた。他にも、最初日本のみの発売だったライヴ・アルバム『LIVE!
LIVE!
LIVE!』を、英国で日本盤が高値で取り引きされているのを見て放っとけないと思ったとの理由で全世界で発売にしたり、ベスト盤『ソー・ファー・ソー・グッド』の米盤に「豪華過ぎる歌詞カード作ったんで、CDに歌詞カード付けられなかった。歌詞カード欲しいひとは12ドル送ってくれ〜!」と書くなど、「コイツ、金儲け主義のイヤな奴か、いいひとだけどモノ凄いバカかのどちらかだ!!!」と思わずに居られなくなった私は、『18歳の時のヒーロー』が『金儲け主義のイヤな奴』なのか、それとも『いいひとだけどモノ凄いバカ』なのか確認するため『青春18きっぷ』を使い、日本武道館で行われるブライアン・アダムスの来日公演...その名も『18
til i die tour』に行ってきた。
5時8分、場内の灯りが消え、歓声渦巻くなか登場したブライアンとそのバック・バンド。オープニングは新作『18
TIL I DIE』からの大ヒット曲“The Only Thing That Looks Good On Me Is
You”(邦題は“君しか見えない”。以下(
)内は邦題)で、ギターを弾きながら熱唱するブライアンの前を、露出度の高いドレスをまとったオネーチャンたちがまるでファッション・ショウさながらに右に左にと往き交っていった。バンドの後ろには、最近武道館のライヴでよくあるという『お立ち台』が設けられていて、選ばれたファンのひとたちが50人くらい、ブライアンの後ろ姿を見ていた。果たして『お立ち台』に立つことはラッキーなことなのだろうか? 傍から見てるとこの『お立ち台』、マヌケだ...。
続く“Do To
You”では、ブルース・ハープ...ハーモニカ...を吹いたブライアンのいでたちはウグイス色のTシャツに黒の革のパンツ。3曲目はブライアンにとって初の全米TOP
10ヒットとなったバラード・ナンバー“Straight From The
Heart”で、サビの部分では場内大合唱となった。4曲目の“Heat Of The
Night”は10年前のアルバム『イントゥ・ザ・ファイアー』からのナンバー。懐かしさを感じる2曲を演った後、「コンバンワ、トキオ〜」とブライアンのMCを挟んで、新作から“I
Think About You”を披露した。
『イントゥ・ザ・ファイアー』からの“Hearts On
Fire”をワン・コーラスだけで歌うのを止めたため、みんなが「何で途中で止めちゃったんだろ?」と訝るなか、場内に響いてきたピアノのイントロ...これには武道館を埋めるファンはすぐに反応し、場内は歓声に包まれた。全米で1位を獲得、全英では16週連続1位に輝いた大ヒット曲で、映画『ロビンフッド』にも使われたバラード・ナンバー“(Everything
I Do) I Do It For
You”だ。観客の持つペン・ライトが右に左に揺れるなか、この出来過ぎのバラードを歌い切ったブライアン、観客の拍手が渦巻くなか、次のナンバーを紹介した。「18
Til I
Die~!」 新作のタイトルになってるロック・ナンバー。このようにバラードの後は必ずロック・ナンバーを持ってきて、静と動のメリハリをつけるようにしてライヴは進んでいった。
「ゲンキデスカァ〜?」というブライアンの日本語MCの後に始まった“Touch
The
Hands”。ブライアンの義理のお母さんは日本人だそうで、そのためブライアンは日本語を少し話せるらしい。準備に少し手間取り、モタモタしていたときも「チョット、マッテクダサイ」と日本語MCをしていた。そうして「チョット、マッ」た後、始まった曲が“Heaven”。'85年に全米No.1に輝いた懐かしいナンバーに、私の周りにいた20代後半から30代前半のネーチャンたちはあまりの懐かしさのあまり、ウルウル状態になっていた。次の'83年のナンバー“Cuts
Like A Knife”がそれに一層拍車をかけていた。
新作からのストレートなロック・ナンバー“Black
Pearl”、これまた全米No.1獲得のバラード“Have You Ever Really Loved A
Woman ?”、'84年のヒット曲“Run To
You”を演奏した後、ブライアンが観客からリクエストを募った。場内からは“This
Time”や“Take Me Back ”、“Summer Of
'69”(“想い出のサマー”)といった声が上がったが、場内の拍手の大きさから“Summer
Of '69”に決定した。これで“Summer Of
'69”が聴ける...と思っていたら、最初に“Summer Of
'69”との声を発した観客をブライアンがステージに上げているではないか!!!。ブライアンに『タカサン』と呼ばれることになったこの客、何とブライアンたちの演奏をバックに、“Summer
Of
'69”を歌うことになった! 最初は大いに戸惑いながらも、その『タカサン』は“Summer
Of
'69”をワン・コーラスちゃんと歌い切った!!! 流石、ブライアンに「“Summer
Of '69”is my favourite
song.」と言ってただけのことはある。『タカサン』にとってこの体験は一生忘れられないものとなるに違いない。あのブライアン・アダムスの演奏をバックに、日本武道館のステージで歌うってことは誰でも体験できるわけじゃないから。とてもイキな計らいだ。
『タカサン』がステージを降りた後、“There Will Never Be Another
Tonight”が披露され、一度ブライアンとそのバンドはステージから姿を消した。
観客のアンコールに応じ、アリーナ席の南側に設けたミニ・ステージに現われたブライアンとそのバンド。このミニ・ステージでは、カヴァー曲と自分の曲を交互に披露した。観客が一番沸いたのは、新作から“(I
Wanna Be) Your
Underwear”を披露した時。女性の下着売り場にある、胴体だけのマネキンの形をした巨大風船が2つ突然現われたものだから、観客は「一体いつの間に...」と面喰らっていた。そのマネキン形の風船はそれぞれ赤色のブラジャーとパンティー、青色のブラジャーとパンティーを着けていて、曲のリズムに合わせて点滅していた。この演出を見て、「流石、下ネタ好きのブライアンのことだけはある!!!」と思わずうなってしまった。
バンドのドラマーのミッキーとの掛け合いでインスト曲を2曲?演った後、女のコの客を多数、ミニ・ステージに上げ、彼女たちを踊らせながら演奏した“She's
Only Happy When She's
Dancin'”(“いかしたダンシン・ガール”)。女のコたちにモミクチャにされながらこの曲を演奏し切った後、ブライアンとそのバンドはミニ・ステージを去った。
観客のアンコールに再び応え、メイン・ステージに戻ってきたブライアンたち、今度は『タカサン』によるカラオケではなく、ブライアン自身の歌で“Summer
Of
'69”を演奏。バンド・メンバー...ギター、ベース、ドラム、パーカッション、キーボードの総勢5人...の紹介を挟んだ後“Let's
Make A Night To
Remember”を披露して、またステージを去った。だけど観客はこれでライヴが終わるのを許さず、熱心な手拍子の末、ブライアンたちを呼び戻した。新作からの“It
Ain't A Party...If You Can't Come
Around”を演奏し、バンド・メンバーはステージを去った。ブライアンだけがステージ上に残り、観客に「もう帰ってもいい?」と訊く。観客は当然「No!」 「じゃあもう1曲歌えばいいの?」という問いに歓声で応えた観客に、ブライアンはギター一本で“I'll
Always Be Right There”を披露した。曲が終わるとブライアンは「good
night」と手を振り、アリーナ席最前列の女性客が投げ込む花束をいくつもダイレクトにキャッチしてステージを去った。こうして2時間半に及ぶライヴが終わった。
観客を何人もステージに上げ、ファンとふれあう機会を多く持ったり、全部で31曲も演るなど、ファン・サービスに徹したステージングを展開したブライアンはとてもイイ奴だった。今週の結論...ブライアン・アダムスは『いいひとだけどモノ凄いバカ』だった!!!
【SET LIST】...'97.3.15 日本武道館
1. The Only Thing That Looks Good On Me Is You
2. Do To You
3. Straight From The Heart
4. Heat Of The Night
5. I Think About You
6. Kids Wanna Rock
7. Can't Stop This Thing We Started
8. Hearts On Fire ~ (Everything I Do) I Do It For You
9. 18 Til I Die
10. Touch The Hands
11. Heaven
12. Cuts Like A Knife
13. Black Pearl
14. Have You Ever Really Loved A Woman ?
15. Run To You
16. Summer Of '69 (『タカサン』に よるカラオケ)
17. There Will Never Be Another Tonight
(encore 1)
1. Come On Everybody (エディー・コクランのカヴァー)
2. We're Gonna Win
3. Seven Night Rock (カヴァー曲?)
4. (I Wanna Be) Your Underwear
5. Money (That's What I Want) (ビートルズのカヴァー)
6. Please Forgive Me
7. Tokyo Blues (スタンダード・ナンバーの替え歌?)
8. ? (インスト...スタンダード・ナンバー?)
9. ? (インスト...スタンダード・ナンバー?)
10. She's Only Happy When She's Dancin'
(encore 2)
1. Summer Of '69
2. Let's Make A Night To Remember
(encore 3)
1. It Ain't A Party...If You Can't Come 'Round
2. I'll Always Be Right There