ヒロくんのLIVE REPORT '97 PART 10 SHERYL CROW

 アルバム2枚にして『グラミー賞』の常連になったシンガー、シェリル・クロウの2度目の来日ツアーは流石に前回のようなクアトロという訳にはいかず、ホール中心に日程が組まれた。が、名古屋だけはクラブ・ギグで、私はこの名古屋公演のチケットを狙ったのだが...見事、取り損ねました...。仕方なく、5月23日の大阪・厚生年金会館に行ってきた。
 7時10分過ぎ、まずバンド・メンバーが姿を現し、1テンポ遅れていよいよシェリル・クロウ御本人が登場、観客の拍手に迎えられたシェリル、おもむろにアコースティック・ギター(以下、アコギ)を構え、演奏しだした曲は“If It Makes You Happy”!!! 最新アルバムからの1stシングルで、大ヒットを記録したこの曲がライヴのオープニング曲だった。勿論、大ヒット曲だから浸透度が高かったこの曲に、観客は大喜びで、サビの部分では場内大合唱だったのだが、何も1発目からこれを持ってこなくても...と思ってしまった。さらには2曲目は“Hard To Make A Stand”で、3曲目が“Leaving Las Vegas”(邦題は“さらばラス・ヴェガス”)...。シェリルの曲のなかでも特に『オイシい曲』...いわゆる代表曲...をいきなり3連発でブチかましたものだから、「勿体無い!!!」と思ってしまった。 ここまでの3曲はアコギを弾いたシェリル、ここでギターをエレキに替え、一発「ジャ〜ン」とブチかましてから“Can't Cry Anymore”、続いて“Sweet Rosalyn”を披露。バック・バンドは男性ばかりで5人。ギター2本にベース、ドラムス、そしてもうひとり...キーボードにパーカッションにギター...と曲によって目まぐるしく担当楽器が変わる『便利屋』的なひとが居た。その彼の手拍子に煽られる形で場内に手拍子が起こり、ギターをアコギに持ち替えたシェリルが歌を乗せた“A Change”の後、楽器を手放し、歌うことに専念したシェリルが素晴しい歌を披露した“Run, Baby, Run”では、曲中、シェリルが「Osaka! Osaka!」と何度も叫ぶものだから、大阪のファンは大いに沸いていたが、関西人ではない私は他の観客と一緒に喜んでいいものやら、考え込んでしまった(笑)。
 目まぐるしく担当楽器が変わるのは、バック・バンドの彼だけではなく、シェリルも担当楽器が目まぐるしく変わっていた。“Redemption Day”(邦題は“救いの日”)ではアコギ、“Everyday Is A Winding Road”ではエレキ、“Love Is A Good Thing”ではキーボード...といった具合に、ライヴも後半に入るとシェリルは曲ごとに楽器を取り替えていた。“Love Is A Good Thing”からそのままカヴァー曲?になだれ込み、曲が終わるとキーボードから離れ、アコギを構えたシェリルが披露したのは“All I Wanna Do”。続く“The Na-Na Song”ではシェリルの担当楽器はマラカスとタンバリンで、曲のコーラスの部分で、この2つを持った腕を高く掲げ、左右に揺らすのを見て、観客もこの動作をマネて両腕を掲げて左右に揺らした。いったい何百本の腕が場内で揺らいだのだろうか? 
 この“The Na-Na Song”の歌詞の最後の1行はとても意味深。「Maybe if I'd let him, I'd've had a hit song」...これは一般には「もし私が彼の望みどおり彼と寝れば、たちまちヒット曲が出るわ」というふうに訳されていて、有名音楽プロデューサーに言い寄られ、セクハラを受けた体験を歌っていると解釈されている。「まだ2ndアルバムなのにベテランの風格があるのは彼女がクロウ(苦労)しているからでしょうか?」と××さんがどーしよーもないシャレを言っていたが、まさに長い下積みの末、花開き、『彼』に身を委ねなくとも「had a hit song」どころか「have many many hit songs」しているシェリル・クロウにとって、“The Na-Na Song”はもはや歌う必然性の無い曲だが、敢えてこの曲を演ったところに今現在・勝者となったシェリルの『過去を笑いとばす余裕』が感じられた。
 楽器を何も持たず歌に専念した“I Shall Believe”で、素晴しいヴォーカルを披露したシェリル、歌が終わると深々とオーディエンスにおじぎして、ステージを去った。
 場内のアンコールの求めに応じ、戻ってきたシェリルとその仲間たち。アコーディオンを構えたシェリルの姿を見て観客が大いに沸くなか、シェリルがアコーディオンで奏で始めたのは“Strong Enough”。アコーディオン奏者からキーボード奏者に変身したシェリル、“Ordinary Morning”を熱唱した。シェリルは歌の上手さもさることながら、「マイク不要ないんじゃないの?」と思えるくらい声が大きく、それだけに歌に迫力があった。
 歌が終わるとシェリルはバンド・メンバーと横一列になり肩を組んで、6人一緒におじぎして、最後にはライン・ダンスまでキメてからステージを去っていった。男性陣と並んだことで、彼女の背の高さは推定 170 cm ということが判った(笑)。足もとても長いし。
 ライン・ダンスまでキメられちゃあ、もうライヴは終わりかと思いきや、流石は関西、観客の熱い拍手に呼び戻されたシェリルたち。2nd アンコールはカヴァー曲大会のようで、楽器無しで1曲歌ったシェリル、次はハーモニカ奏者になり、ビートルズの“Money (That's What I Want)”を演って、今度こそこれがホントの聴き納めとなった。
 シェリルは、アコギ、エレキ、キーボード、タンバリン&マラカス、アコーディオン、そしてハーモニカと、目まぐるしく何度も楽器を替えていて、性格の悪いひとなら「たくさん楽器が出来るの見せたかったんだろ?」と言うだろうが、そーゆーいやらしさは微塵も感じられず、ライヴのノリに身を任せてたら結果的にそうなっちゃった...と思えるくらい自然だった。勿論、曲順は予め決められており、楽器を替えるのも予定どおりのことなのだろう。だけどとてもライヴの進行が自然に感じられたのは、下積みが長いシェリル、場末のクラブなどで何千回もギグを演ってきて、liveな『ライヴ』のやり方がすっかり身についてしまったせいだろう。バンドとの息もとてもあっていて、和気あいあいで、広いホールで、どこか場末のクラブ歌手のギグを観てるような錯覚を覚えた。グラミー・ウィナーとなった今も、シェリルは不遇な下積み時代と変わらぬ気持ちでライヴを演っているに違いない! だからこそ大阪のホールじゃなく、名古屋のクラブで観たかったんだよ!!!

【SET LIST】...'97.5.23 大阪・厚生年金会館大ホール
1. If It Makes You Happy
2. Hard To Make A Stand
3. Leaving Las Vegas
4. Can't Cry Anymore
5. Sweet Rosalyn
6. A Change
7. Run, Baby, Run
8. Redemption Day
9. Everyday Is A Winding Road
10. Love Is A Good Thing ~ ? (カヴァー曲?)
11. All I Wanna Do
12. The Na-Na Song
13. I Shall Believe

(encore 1)
1. Strong Enough
2. Ordinary Morning

(encore 2)
1. ? (カヴァー曲?)
2. Money (That's What I Want) (ビートルズのカヴァー)

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