ヒロくんのLIVE REPORT '97 PART 16 THE CHARLATANS

 全英No.1に輝いたアルバム『テリング・ストーリーズ』を引っ提げて4度目の来日を果たした『イカサマ師たち』ことザ・シャーラタンズ。私が観たのは9月7日の大阪公演で、会場の梅田ヒート・ビートはJR大阪駅から地下道を8分歩いたところにある、定員1000人ちょうどのオープン間もない真新しいライヴ・スポットだ。
 ザ・シャーラタンズといえば、去年の7月に起こった悲劇が思い起こされる。キーボード・プレイヤーのロブ・コリンズの交通事故による“自爆死”...。5人の『イカサマ師たち』から1人減って、4人の『イカサマ師たち』になった彼らが再起を賭けた新作『テリング~』は御承知のとおり、全英1位に輝くほど大きな支持をもって迎えられた。ここ日本でもチケットがあっという間にSOLD OUTになり、急遽9月8日にも追加公演が決まるくらいの支持を集めている。今回のツアーは、4人の『イカサマ師たち』にサポート・メンバーのキーボード・プレイヤー(トニー・ロジャース)を加えた『新生シャーラタンズ』の日本のファンへの御披露目でもある。
 開演予定時間を25分も過ぎた6時25分にステージ上に現われた『イカサマ師たち』。オープニング曲は新作の1曲目の“With No Shoes”。ヴォーカルのティム・バージェスは髪の毛を短くし、前髪を切り揃えていて眉毛も太いので、オアシスのノエル・ギャラガーみたいだった。ティムのヴォーカル・スタイルはオアシスのリアム・ギャラガーみたいだし...。勿論、シャーラタンズはオアシスの倍のキャリアを持つバンドだから「シャーラタンズがオアシスに似ている」のではなく、「オアシスがシャーラタンズに似ている」と言うべきなのは解ってはいるが...。2曲目は“North Country Boy”で、3曲目が“Tellin' Stories”と、ここまで、新作『テリング~』と同じ曲順でライヴが進行していった。
 シャーラタンズはどちらかというと『横ノリ』の曲が多いので、ライヴの盛り上がりの割には、ダイヴなどの過激な行為に及ぶものは居らず、曲に合わせて体を横にスウィングさせている客が多かった。ステージ上でもティムは派手なアクションもぜず、マイク・スタンドのところで体を左右に揺らすだけの(ある意味では情けない)動作を見せていた。
 今回のライヴ、一番心配だったのが、ロブ・コリンズの抜けた穴をきちんと埋められるかどうか。シャーラタンズ・サウンドを他のバンドのそれと一線を画す存在にしているのはロブの奏でるハモンド・オルガンだと思っていた私には、ロブの奏でたフレーズがキチンと再現されるか...これが一番気掛かりだった。だけどトニーは“North Country Boy”や“Toothache”といった曲で、アルバムでロブが弾いていたフレーズを完璧に弾きこなしていたので、ひと安心。
 6曲目に披露された“You're A Big Girl Now”は、ギターのマーク・コリンズがアコースティック・ギターを奏で、ヴォーカルのティムもハーモニカを持ち出すフォーキーな曲。一方、9曲目の“One To Another”はCDではプログラミング・ループなどを取り入れたテクノな隠し味のある曲で、ライヴでもテープ?を使ってこれを再現。フォークからテクノまで...シャーラタンズが持つ音楽の幅を、ライヴでもきちんと主張していた。
 ところで、このライヴ会場に足を運んだファンは、いったいシャーラタンズのどこに魅力を感じているのだろうか? ポップな歌メロにだろうか? それともいつまで経っても『18歳のガキ』ティムのキャラクターに引かれるのだろうか? 私にとってのシャーラタンズの魅力は、ティムのヴォーカルや歌メロではなく、ハモンド・オルガンを主体に印象的なリフやフレーズを繰り出すバックの演奏である。10曲目に演奏された“Thank You”は、曲のアタマでティムが「thank you~」と歌うだけの実質インストゥルメンタルの曲で、コワイ顔したベースのマーティン・ブラント、トボケた顔したドラムのジョン・ブルックス、小さな顔したギターのマーク・コリンズ、そしてサポート・メンバーのキーボードのトニー・ロジャースがダイナミックな演奏を聴かせてくれた。普通、演奏のダイナミズムというと、演奏技術の上手さに圧倒されたり、低音が効いている時に感じたりするが、今回の場合は4人の演奏のアンサンブルにダイナミズムを感じた。ひとり一人の演奏技術は大したことが無くても、みんなの息が合うとモノ凄いものが出来上がるのを見せつけられた私は、“Thank You”の演奏が終わったときホントに自然に拍手が出た。4人が熱の入った演奏を披露していた頃、やることがなく手持ちぶさたなティムはステージの袖でヤンキー座りをしてローディーにタバコに火をつけてもらっていた...。『イカサマ師たち』を名乗りつつも、「charlatanism」を実際に体現しているのは、曲の合間合間にホントに嬉しそうに観客と握手したりしてどう見ても実年齢より10歳は若く見え、特別ウマくもない歌を力技で押し切り観客を湧かせていたティムだけ。ザ・シャーラタンズは『4人のイカサマ師(と1人のイカサマ師見習い)』と言うよりも、『1人のイカサマ師と4人のマジメな勤労者』という印象を受けた。
 今回のライヴは全英No.1に輝いた2枚のアルバム...4th『ザ・シャーラタンズ』と5th『テリング~』からの曲が中心だった。が、観客の歓声が一番大きくなったのは...2ndアルバム『ビトゥイーン・10TH・アンド・11TH』から“Weirdo”が披露された時。この曲のイントロのハモンド・オルガンのフレーズ...♪チャッチャラ〜...は今でもインパクト大だ。続いて3rdから“Can't Get Out Of Bed”、4thより“Crashin' In”を演奏し『イカサマ師たち』はステージを去った。
 アンコールでは、アルバム『テリング~』からの3rdシングル(日本では2ndシングル)の“How High”と、今から7年に出したデビュー・アルバムから“Sproston Green”を披露してライヴは終わったのだが、結局、デビュー・アルバムにして全英No.1に輝いた『サム・フレンドリー』からはこの曲1曲のみ。全英No.1に輝いた記念すべきデビュー作からの曲を1曲しか披露しないところに最新作の充実と、彼らの最新作への自信を感じた。

【SET LIST】...'97.9.7 梅田ヒート・ビート
1. With No Shoes
2. North Country Boy
3. Tellin' Stories
4. Just When You're Thinkin' Things Over
5. Toothache
6. You're A Big Girl Now
7. Get On It
8. Just Lookin'
9. One To Another
10. Thank You
11. Here Comes A Soul Saver
12. Weirdo
13. Can't Get Out Of Bed
14. Crashin' In

(encore)
1. How High
2. Sproston Green

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