ヒロくんのLIVE REPORT '97 PART 19 MORPHINE

 以前ライヴ・リポートしたベン・フォールズ・ファイヴは、ギターが無い代わりに、ピアノを加えたトリオ編成のバンドだったが、今回のライヴ・リポートで取り上げるモーフィーンは、ギターが無い代わりに、サックスを加えたトリオ編成のバンドである。ところで、MORPHINEをローマ字読みしてみてくださいよ。「MO・R・PHI・NE...モ・ル・フィ・ネ...モルヒネ!!!」 そうです、モーフィーンとはズバリ『モルヒネ』という意味。'94年にその名も『キュアー・フォー・ペイン』というタイトルの2ndアルバムで日本デビューを果たした彼ら。「モルヒネ」と名乗るバンドの「傷の治療」という意味深なタイトルのアルバムは、バリトン・サックス、2弦ベース、ドラムスというバンド編成の斬新さ、ハードボイルド小説の世界をそのまま持ってきたような歌詞世界と、それをあくまでも忠実に体現するクールな演奏でここ日本でも絶賛をもって迎えられ、初来日も果たした。その後、3rdアルバム『イエス』をリリースした'95年に再来日を果たした彼ら、3回目になる今回の来日ツアーはこの3月にリリースされた4thアルバム『ライク・スイミング』に伴うものである。私が観たのは9月23日秋分の日、名古屋クラブ・クアトロでの名古屋公演。
 私が名古屋クラブ・クアトロに来たのは今回で10回目だが、今回ほど客が少なかったのは初めて。フロアの観客がステージ上に駆け上がるのを防ぐためにいつも設けられている柵も無いし...。開演前20分ぐらい前まで観客は200人も居なかった。こう書くと「モーフィーンてバンドは人気が無いんだな」と思われるかもしれないが、今回の来日ツアー、東京では追加公演が出るくらいの盛況ぶり。この客の薄さは『名古屋だから』じゃないの?
 とまあ、客の薄さに若干の居心地の悪さを感じながら開演を待っていると、観客の数も300人くらいに増え、何とか格好がついた(笑)。開演時間の7時を10分過ぎると、フロアの灯りが消える...といった前フリも何も無く、モーフィーンの3人がステージに登場。2弦ベース兼ヴォーカルのマーク・サンドマンが後ろのほうにいる客に、前のほうに出てこい!とばかりに手招きをする。こうして隙間が目立ったフロアがある程度まで客で埋まると、楽器を構えたモーフィーンの3人、ジャ〜ンと一度演奏すると、マーク・サンドマンが早速バンド紹介を始めた。「でいなサン、サクソフォン」とまずサックス奏者のデイナ・コーリーを紹介。次に「びりーサン、ドラムス」とドラマーのビリー・コンウェイを紹介。そして最後に「ワタシガ、スナオトコ(砂男)デス」と自己紹介したマーク・サンドマン(以下、『砂男』)、「ワタシタチガ、もーふぃーんデス。ぼすとんカラ、キマシタ...デス...」と日本語MC。こういうふうに『砂男』が日本語MCするのは、ジャパン・ツアーのお約束事になっているようだ。ファンを笑わせていい雰囲気になったところで演奏したオープニング曲は“Have A Lucky Day”。2曲目に“All Your Way”を演ると、『砂男』、「オレのラッキー・ナンバーは『3』なんだ。次の曲はラッキー・ナンバーの『3曲目』だ」と英語でMCし、“Thursday”を披露。演奏が終わると『砂男』は「good night」と言って、ステージを引き上げようとする。まだ3曲しか演ってないぞお〜。こらこら帰るな!...と必死に引き留めにかかる観客の声に、マイク・スタンドのところまで戻って来て「スゴ〜イ」と日本語で言う『砂男』。今年で43になる筈の『砂男』、トボケた親父である。
 「special poetry in Nagoya」と言って、詩の朗読を始めた『砂男』、いくらシリアスな口調で詩を朗読していようが、笑える内容になっていることと思うが、英語だったためどういう内容かは分からなかった。続いて披露した“Sharks”は、歌詞に名古屋の地名を特別に織り込んだ特別ヴァージョン。どこまでもサーヴィス満点の『砂男』である。
 「でいなサン、ダブル・サックス!!!」という『砂男』の紹介どおり、デイナがサックスを2本同時に演奏する見せ場のあった“Wishing Well”、アラビアン・テイストの感じられる新曲?(“Olympia”?)の後に演奏された“The Saddest Song”では、「でいなサン、トライアングル!!!」という『砂男』の紹介どおり、デイナがトライアングルを演奏した。
 観客からリクエストを募ったくせに、客の「“Buena”!」という声を無視し“Honey White”を披露したアマノジャクな『砂男』、どこまでもお茶目な親父だ。ビリーの短いドラム・ソロから始まった“You Speak My Language”の後、『砂男』が「今夜の最後の曲」と言って披露したのが“Cure For Pain”。演奏が終わると『砂男』、「one more song?(もう1曲聴きたい?)」と観客に問う。観客は当然歓声で「yes」を伝える。すると『砂男』、「two more songs?(もう2曲聴きたい?)」と観客に問う。こーゆーやりとりの末、『砂男』にとってのラッキー・ナンバー『3』と同じ、3曲演ってくれることに。この後『砂男』、「for ジョセイ(女性)」と言って『ライク・スイミング』のジャケット柄のキャミソールをフロアに投げ入れ、さらにモーフィーンのロゴ入りTシャツと無地のタオル(笑)を観客にプレゼント。そしていよいよ約束の「three more songs」の演奏に入った。
 “French Fries W/Pepper”ではサビの部分を観客に歌わせようとしたが、あまりにも観客のつきあいが悪いため、小さな声で「スゴイ、サイコウ」と言っていた『砂男』、続く“Eleven O'clock”では、2弦ベースを裏返しにして、弦の無いほうでベースを弾くマネをしたりして観客を沸かせた。この後、CDよりキーを上げて“Gone For Good”を演奏し、この日のライヴは終わった。(彼らはアンコールはやらないようだ)
 彼らの演奏のことよりも、『砂男』が何をしたかに重きを置いたリポートになったが、演奏はCDで聴けるとおりあくまでもクール。演奏どおりクールなたたずまいの『砂男』があの低い声で次々繰り出す日本語MCや英語のトークに、場内は爆笑の渦につつまれ、和気あいあいとしたとてもいい雰囲気だった。ステージとフロアの間にいつもある筈の柵が無かったのは観客が少ないためだと思っていたが、もしかしたら観客との良い雰囲気を醸し出す妨げにならないように『砂男』たちが仕切りの撤去を要求したのかも知れない。

【SET LIST】...'97.9.23 名古屋クラブ・クアトロ
. intro
1. Have A Lucky Day
2. All Your Way
3. Thursday
~poetry reading~
4. Sharks
5. Like Swimming
6. I Know You (Pt. 。)
7. Wishing Well
8. ? (新曲?)
9. The Saddest Song
10. The Other Side
11. Honey White
12. You Speak My Language
13. Cure For Pain
~present time~
14. French Fries W/Pepper
15. Eleven O'clock
16. Gone For Good

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