ヒロくんのLIVE REPORT '97 PART 20 CAST

 今でも雑誌の『'90年代の名盤』企画に必ず選ばれる名盤『ラーズ』で'90年(日本では'91年)にデビューし、絶賛をもって迎えられた英国はリヴァプール出身の4人組・ラーズ。この作品について「あんなゴミみたいなモノ、いつでも作れる」とリーダーのリー・メイヴァースは当時豪語しており、私などは「頼もしいヤツが出てきた!!!」と思ったりしたものだ。あれから6年経った今、ラーズの2ndアルバムはいまだに出ていない。作品に対する異常なまでの完全主義が災いし、リー・メイヴァースは...最近の例で言うと、フォレスト・フォー・ザ・トゥリーズのカール・スティーヴンソンみたいになってしまったという...。ラーズが2ndアルバムを出せずにいるというのは'90年代の悲劇の1つである。そんなラーズの元・ベーシストという肩書きを持つ男が、ヴォーカリストおよびギタリストとしてキャストを率いるジョン・パワー。「元・ラーズのジョン・パワーが新しいバンド...キャストで戻って来た!!!」...私にとってこのニュースは'95年の音楽シーンにおいての1つのビッグ・ニュースだった。'95年発表の傑作デビュー・アルバムに続き、今年、2ndアルバム『マザー・ネイチャー・コールズ』を発表したキャスト、今回の2回目の来日ツアーが実現した。
 最初の発表では今回のキャストの来日ツアー、10月5・6・7日が東京、9日が名古屋、10日が大阪...と廻る予定になっており、当初私は10月5日日曜日の東京公演初日のチケットを押さえていた。ところが後になって、東京公演は10月7日のみとなり、私が観る予定だった10月5日、そして6日の公演は中止となってしまった...。観るつもりだったライヴが観られなくなった私は一時はキャストを観るのを諦めようかと思ったが、「生理的欲求の呼び声」に抗うことが出来ず、10月9日木曜日の名古屋公演を会社を休んで観に行った。「mother nature calls」を地でいったわけだ。「キャストが私を呼んでいるぅぅぅ〜!!!」
 会場の名古屋クラブ・クアトロに足を運ぶのは、この前のモーフィーンのライヴ以来で、半月振り。客の入りはモーフィーンの時と同じくらいの300人ほどで、かなり寂しさを感じさせられ、「これじゃあ東京公演が3回から1回に減らされる訳だよなぁ〜」とミョーに納得。観客は10代後半から20代前半の女のコが7割を占めていた。
 開演予定の7時を20分過ぎた頃、キャストの4人が登場。ステージ中央に立ち、アコースティック・ギターを構えたジョン・パワー、キャストで再デビューを果たした頃は髪の毛を短くしていたが、ラーズ時代と同じくらいまで今では髪を伸ばしていて、ブロンドの巻き毛の可愛らしい少年といった趣。オープニング・ナンバーは新作より“Mirror Me”。ドラムのキース・オニールがCDにないような派手なプレイをいきなり披露して存在をアピール。こういうのもライヴならでは...といったところだろう。2曲目は♪look out, look out, look out, look out, look in, look in, look in, look in ~という馴染み易いリフレインを持つ“On The Run”。ジョン・パワーの右側にはギターのリアム・タイソン、左にはベースのピーター・ウィルキンソンが居て、この2人はバック・コーラスも担当。ステージ奥でキースが真っ赤なドラム・セットでリズムを刻むのを観てこの“On The Run”という曲が3拍子(正確には4分の6拍子?)だと私は初めて気付いた。3曲目の“Sandstorm”はキャストの曲の中で一番ハードな曲で、観客大いに盛り上がるが、盛り上がるライヴに付き物の『人上水泳』やらダイヴやらする者は出なかった...というのは、客の入りが薄いため、そんなことしよーもんなら水のないプールに飛び込むのと同じことになっちゃうから(笑)。
 ジョン・パワーはたまに英語のMCがあったり、曲の終わりに「thank you」とか、日本語で「アリガト」とか御礼を言うだけで口数が少なかった。その代わりに『能弁』だったのが彼のアコースティック・ギター。ジョン・パワーはほぼ毎曲、ギターの指馴らしのためなのか、次に演奏する曲のイントロ部分をチョロ〜ッと演奏した。お蔭でファンの殆どは次にどの曲を演るのか判った筈で、口でいちいち曲紹介せずともジョン・パワーのギターがキチンと曲紹介をしていた。そのようなジョン・パワーの『ギターによる曲紹介』によって始まった“Live The Dream”。私事で恐縮だが、私はキャストの曲のなかでこの曲が一番好きだ。ジョン・パワーの声は聴けばすぐ彼と判るクセのある声で、決して良い声ではないのだが、彼の持つ性格の持つ優しさが滲み出てモノ凄く味がある。“Live The Dream”のようなノスタルジーを掻き立てるような曲こそ、彼の声の特性が生かされるような気がする。この曲を聴いていると、子守唄であやされているような懐かしい気分になるのは私だけだろうか? この次披露された“Walkaway”のイントロでは観客からこの日一番大きな歓声が上がった。次に“Finetime”、“Reflections”、そして2ndアルバムのオープニング曲“Free Me”を演奏し、客を盛り上げる。続く“History”はエフェクター類を多用したリアムのギター・プレイが光る曲。無精ヒゲで薄汚い風貌のリアムだったが、そんな彼のギター・プレイこそがキャスト・サウンドの鍵を握っていることが判った。演奏が終わるとジョン・パワーは挨拶1つなく、素っ気なくステージを後にした。
 アンコールの要求で戻ってきたキャストの4人、まず1stアルバム1曲目の“Alright”を演奏。次にカヴァー曲らしき曲を披露すると、ジョン・パワー、先程と打って変わってまるで少年のような微笑をたたえ、「thank you, good night~」と観客に別れを告げてからステージを去った。こうしてこの日のライヴは終わった。終盤、ピーターのベースにトラブルが起こっていたようで、これが無ければもっと演奏してくれたかもしれないが...。
 今回のライヴ、疑問に思ったのが演奏曲順。今回のキャストのライヴ、最初にアップ・テンポの曲ばかり、中盤はスローな曲ばかり、そして終盤にアップ・テンポの曲ばかりといった具合に、似たようなタイプの曲をまとめて演奏していた。10月とはいえ、観客の熱狂を予想して会場には冷房が入っているので、あまりにスローな曲が続いたため(ライヴの内容にではなく、室温に)サムイ思いをした客も少なくなかった筈だ。曲順を少し工夫すると、もっとライヴが盛り上がったと思うと、少し残念というか、勿体無かった。

【SET LIST】...'97.10.9 名古屋クラブ・クアトロ
1. Mirror Me
2. On The Run
3. Sandstorm
4. Promised Land
5. Guiding Star
6. She Sun Shines
7. Flying
8. Never Gonna Tell You What To Do (Revolution)
9. Live The Dream
10. Walkaway
11. I'm So Lonely
12. Finetime
13. Reflections
14. Free Me
15. History

(encore)
1. Alright
2. ( ? )

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