ヒロくんのLIVE REPORT '97 PART 27 TEENAGE FANCLUB

 この7月に5枚目のアルバム『ソングス・フロム・ノーザン・ブリテン』をリリースしたティーンエンジ・ファンクラブ(以下、TFC)の3度目になる来日ツアーは、東京公演2日分のチケットが発売と同時に完売、追加公演が1日出るなど異様な人気ぶり。大阪公演もチケットがSOLD OUTとなったくらいで、私もTFCがこんなに人気のあるバンドだってことを今回初めて知った。が、流石に名古屋公演までSOLD OUTとはいかなかったようで、12月1日に会場の名古屋クラブ・クアトロに行くと入口では当日券が売られていたが、それでもほぼ満員なくらい観客が入っていた。
 7時10分頃、リーダーのノーマン・ブレイクを先頭にTFCの4人とサポートのキーボディストがステージに現われた。オープニング曲は最新作の頭を飾る“Start Again”。ステージ中央にヴォーカル兼ギターのノーマン・ブレイクが居て、その左にはヴォーカル兼ベースのジェラルド・ラヴ、右にはヴォーカル兼ギターのレイモンド・マッギンレイ。ステージ奥にはドラムのポール・クイン、その右にはサポート・キーボディストという位置関係。“Start Again”ではノーマンがリード・ヴォーカルをとり、ジェラルドがバック・ヴォーカルをとっていた。続く“Star Sign”はジェラルドがリード・ヴォーカルをとる曲。TFCのウリのひとつに挙げられるのが、ノーマン、ジェラルド、レイモンドの3人が交互にリード・ヴォーカルをとり、三者三様のヴォーカルが楽しめること(基本的に曲を書いたひとがその曲を歌う)。3曲目にプレイされた“I Don't Care”はレイモンドがリード・ヴォーカルを担当。次の“Everything Flows”ではまたノーマンがリード・ヴォーカル...といった具合に曲ごとにリード・ヴォーカルをとる者が交代していた。さて、4曲目に披露された“Everything Flows”...この曲はデビュー・アルバムからの曲で、サビの部分では合唱する者が大勢出て、『人上水泳』する者が出没するほどでこの日のライヴで観客が一番盛り上がったのだが、これはとても意外だった。というのはTFCはデビュー当時はギター・ノイズ系のラウドなバンドだったが、ここ数作はメロディとハーモニー重視のバンドに脱皮してしまっている。したがって会場のフロアを埋める多くのティーンエイジャーたちのような最近になってからのTFCのファンはこの曲に思い入れなんか無いだろうし、デビュー当時のTFCファンは最近の『全然ラウドじゃないTFC』に見切りをつけ、会場に居ないだろうと思っていた。が、この盛り上がり。一体何でだ? 次に盛り上がったのは、3rdアルバム『サーティーン』から“The Cabbage”(邦題は“キャベツ”)が披露された時。 といった具合に最新作よりも昔の曲のほうがウケいた。
 ライヴは3人がリード・ヴォーカルをほぼ3等分に分け合っていたが、ライヴを仕切っていたのはあくまでノーマン。ノーマンは曲が終わるごとに毎回次の曲を紹介し、誰がリード・ヴォーカルをとるかまでいちいち喋っていた。ギター交換の際にプラグの先を舐めて感電したフリをしたり、レイモンドがリード・ヴォーカルをとる“Your Love Is The Place Where I Come From”ではギターを脇に置き、5音しか音の種類が無いシンプルな鉄琴を叩いてみたり(モロに『ピ〜ン、ポ〜ン、パ〜ン、ポ〜ン、ポォ〜ン』だった...)、自らがリード・ヴォーカルをとる“Mellow Doubt”ではCDどおりの口笛を見事キメたりとお茶目なノーマンは、いつも口元に微笑を浮かべながら楽しそうに演奏していた。当然ながら、女のコたちから盛んな声援を集めてた。私はノーマンが微笑を浮かべていないところを(雑誌等の写真も含め)見たことないし、ノーマンの怒りの表情なんか想像もつかない。
 3人のうち、一番声が優しく甘いのはジェラルドで、ライヴでもCDどおりのスウィートな歌声を聴かせてくれた。逆に影が薄かったのはレイモンドで、彼が一番注目を集めたのは、観客からの「“Heavy Metal”演って~!」の声に応え、ギターでイントロをチョロッと弾いた時だろうか。CDで聴かれるようにTFCの曲は(最近では)ヴォーカル・ハーモニーが『ウリ』になっている。3人もリード・ヴォーカリストが居るのだから、『3色のハーモニー』をライヴでは期待したくなるが、レイモンドは自分がリード・ヴォーカルをとる曲以外では殆どヴォーカルで参加していなかった。これはちょっと勿体無かった。(従って、ノーマンがリード・ヴォーカルの時はジェラルドがバック・ヴォーカル、ジェラルドがリード・ヴォーカルの時はノーマンがバック・ヴォーカルというパターンが多かった)
 今回のライヴ、一番特徴的だったのは異様に観客から自分の聴きたい曲名をコールすることが多かったこと。“Radio”やら“What Do You To Me”やら“Alcoholiday”やら次々とリクエストの声がかかったが、TFCがこのようなリクエストの声に応えたことは残念ながら皆無だった。こういうふうに聴きたい曲のリクエストをすることは自分のエゴむき出しの醜い行為だし、アーティストにも失礼なので、アーティスト側から要求が特に無い限りホントはやっちゃイケナイのだが...。でも、それを目のあたりにしても不快な印象は皆無。何故なら会場はバンドとオーディエンスが一体となって醸し出した優しい雰囲気に覆われており、『何をやっても許す空気』が充満してたからである。このライヴでも『人上水泳者』が出たが、普通のライヴなら『泳ぐ者』と『その下敷きになる者』との間に険悪な空気が漂う(なにしろバタつく足が顔面に入ったりするんだから)のだが、今回のライヴではそういう空気は感じられなかった。「TFCの歌が聴けて幸せェ〜!」という感動の高まりの結果、我を忘れて『泳いだ』ひとが多かったようで、他のアーティストのライヴでよく見掛ける『暴れられればそれでいい』的なひとは少なかったようだ。それだからこそ会場の空気も『泳ぎ』について寛容だったのだろう。会場には若干『暴れられればそれでいい』的なひとも紛れ込んでいたようで、私のすぐ傍で「(『人上水泳』を)やろうと思ったんだけど、みんなあまりにも大合唱しているものだから、申し訳なくて出来なくなっちゃったよ」とボヤいているひとが居た(笑)。「場内に居る観客は全員TFCのファンだからみんな仲間だ」という暗黙の了解が成立していたあまりにも優し過ぎる雰囲気に誘われて会社帰りのサラリーマン!が上着とネクタイを外しただけの姿!!!で『人上水泳』をして転がっていく姿を見て、場内にこのような雰囲気を造ってしまうTFCの音楽のマジックと『ティーンエイジ・ファンクラブ』というあまりにも素敵な、そしてこのバンドにマッチし過ぎている名前の魔力に気付いた。
 レイモンドが観客からの声にヘヴィーなギター・フレーズで応えた後、新作からの1stシングルとなった“Ain't That Enough”、同じく新作から“Planets”、そして前作『グランプリ』から“Sparky's Dream”を披露し、TFCの4人(+1人)は一度ステージを去った。が、ここまで盛り上がっている客がこれでライヴの終演を許すわけが無く、当然アンコール要求の手拍子が起こった。アンコールの要求にすぐにステージに戻ってきたTFCの4人(+1人)。ステージ中央に立ったノーマンに最前列に陣取っていた女のコがリクエスト曲を書いた紙をノーマンに手渡した。例の笑顔でこの紙を受け取ったノーマンだがやはり、リクエストに応えることは無く、披露したのは新作より“Mount Everest”。要するにセット・リストがガチガチに決まっているので、急に「アレ演れ!コレ演れ!」と言われても対応できないのだろう。この後ノーマンがキーボード、サポート・キーボディストがギター...というふうに担当楽器を交代し“Can't Feel My Soul”を演った。ノーマンの代わりにステージ中央に立ったサポート・キーボディストには、観客から「川口ィ〜!」と声が飛んでいた。何故なら、川口能活の日本代表ユニホーム柄の緑のTシャツを着ていたから(笑)。ノーマンがギターに戻り、人気ナンバーの“The Concept”で大いに盛り上がった後、再びTFCの4人(+1人)はステージを去った。だけど、熱心なTFCのファンたちはまたもやTFCを呼び戻すのに成功! 2度目のアンコールでは“Take The Long Way Round”とカヴァー曲?の2曲を披露して、ファンを大いに満足させたTFCの4人(+1人)がステージを去ると、すぐにライヴの終了を告げる客電が灯いた。これは「これ以上アンコールさせてたまるか!」という会場の意思だろうか?(笑)
 というふうにTFCの4人(+1人)と観客が一体となって凄くいい雰囲気になったライヴだった。この雰囲気を「気持ち悪い」とか「軟弱」とか「仲良しクラブやってんじゃねェよ!!!」とか言う外野の声もあるだろう。だけどTFCおよびそのファンはそんな声、一切気にしないことだろう。“Ain't That Enough”の歌詞の一節に♪Here is a sunrise, ain't that enough? Truth as clear sky, ain't that enough?~(日が昇る、それで充分じゃないのか? 澄んだ空の様な真実、それで充分じゃないのか?)というくだりがあるが、「素晴しいバンドに素晴しいファン、それで充分じゃないのか?」ってなもんである。『ティーンエンジ・ファンクラブ』とは、ノーマン、ジェラルド、レイモンド、そしてポールのバンド・メンバー4人だけではなく、TFCのファン全員をひっくるめたコミュニティーを指すんだなと思った。みなさんも『ティーンエンジ・ファンクラブ』の会員になってみませんか?

【SET LIST】...'97.12.1 名古屋クラブ・クアトロ
1. Start Again
2. Star Sign
3. I Don't Care
4. Everything Flows
5. Don't Look Back
6. The Cabbage
7. About You
8. Speed Of Light
9. Your Love Is The Place Where I Come From
10. Mellow Doubt
11. Verisimilitude
12. Ain't That Enough
13. Planets
14. Sparky's Dream

(encore 1)
1. Mount Everest
2. Can't Feel My Soul
3. The Concept

(encore 2)
1. Take The Long Way Round
2. He'd Be A Diamond (?:カヴァー曲?)

 終演後の会場前で、女のコたちが見事にゲットしたセット・リストの見せ合いをしていたのを横から盗み見た(←私もミーハーだな:笑)ところによると、最後にプレイされたカヴァー曲?のタイトルは“He'd Be A Diamond”というらしい。誰の曲なのかは調査中。

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