『メロコアの若頭』的存在のオフスプリングの2度目のジャパン・ツアーは'97年2月リリースの新作『イクスネイ・オン・ジ・オンブレ』に伴うものである。『メロコア』とは、「メロディック・ハードコア」の略。「ハードコア」とはパンクの急進的なスタイルを指す訳だが、『メロコア』は単に速くて過激なだけではなく、鑑賞に耐えるだけのメロディーも併せ持つ。オフスプリングにはどこか『もののあはれ』を感じさせる寂しげなメロディーを持つ曲が多く、実体はもの凄くポップだ。「俺たちには明日はない。だけどそれでも進んでいかなきゃいけない運命なのさ!」と叫びながら時速200
km
で疾走していくかのような爽快感あふれる彼らの音楽はホント、聴いていて小気味良い。
さて、今回のオフスプリングのジャパン・ツアー、何故か松本でもライヴが行われることになっており、当然、元・松本市民である私はオフスプリングを松本で観ることにした。松本という街は、地元の一部の音楽ファンの間だけで『パンクの街』と呼ばれている。そんな『自称・パンクの街』松本に『メロコアの若頭』的存在のオフスプリングが来ること自体はそんなにおかしなことじゃ無いのだが、恥ずかしくないくらいの客がちゃんと入るのか?と、つい心配してしまう元・松本市民の私。
私が会場の松本市社会文化会館に来るのは去年のセックス・ピストルズのライヴ以来。開場を待ちながら会場の入口あたりに貼られているポスターを見ると、名古屋公演と大阪公演にはサポート・アクトとして、セイヴ・フェリスも出演するとあるではないか!!! セイヴ・フェリスは『第2のノー・ダウト』という異名をとる新人バンドで、最近の私のお気に入り。「セイヴ・フェリスが観られるなら名古屋か大阪にしとくんだったあ〜!」と、この時、松本で観ることにしたのを後悔したが...結果からいうと松本で良かったのである。
やがて開場時間の6時になり、会場に足を踏み入れると...やはりと言うべきか...客の入りが悪く、フロアの半分くらいしか埋っていない! 東京の赤坂BLITZくらいの広さがあったこの会場を埋めるのはいくら『自称・パンクの街』の松本でも流石に荷が重かった。「もっと客が入った会場で観たかったよな」とこの時も松本で観ることにしたのを後悔した私だが...ライヴが終わった今から考えると、やっぱり、松本にして良かったのである。何故、松本で良かったかというと...それは最後のお楽しみ!!!
ところで今回のライヴ、オフスプリングの前に前座が2組演奏することになっていた。6時40分くらいに登場した1組目の
'69 Babys
は日本人3人組で、どうやら松本を本拠とするアマチュア・バンドらしい。彼らがホントに'69年生まれなら私と同じ歳だが、『'69』という年号は本来の意味以外で使われることが多いので、彼らがホントに'69年生まれなのかは疑問の余地がある。
'69 Babys
が6曲くらい演奏しステージを去り、7時10分くらいになると2組目のバンド・A.F.I.が登場。スウェードのブレット・アンダーソンを若干太めにしたようなヴォーカリストを擁するA.F.I.は(多分)アメリカのパンク・バンドで4人組。全部で11曲くらい演奏してA.F.I.はステージを去った。
ステージ上のセット・チェンジが終わり、オフスプリングの出番を待つばかりとなった7時50分頃、客電が消え、大歓声が沸く場内に、異星人による地球侵略か怪獣による都市破壊を思わせるSEが鳴り響く。暫くするとSEが大ヒット・アルバム『スマッシュ』のオープニングの“Time
To
Relax”に変わる。ステージ上は灯りが消えていたため何も見えなかったが、既にデクスター・ホランド以下、オフスプリングの面々はステージでスタンバっていたみたいで、“Time
To Relax”のSEが終わると場内にデクスターの歌が響き渡った。“Bad
Habit”だ。1コーラスはCDどおりデクスターの歌とベースの音だけだったが、ギターとドラムが加わりエンジン全開となると同時にステージの照明が灯き、観客もエンジン全開でモッシングの嵐。大暴れし始めた。最初はステージから3列目くらいに居た私だが、あまりにスゴいのですぐさま避難した。ヴォーカルのデクスターは水色のウィンド・ブレーカー姿だったが、2曲目の“Beheaded”の後、上着を脱いでグレーのTシャツ姿に。“Cool
To
Hate”の後、デクスターもギターを構えて演奏した“Genocide”では場内大合唱になった。勿論『人上水泳』する者が出たり、『おしくらまんじゅう』の度合の高さは相変わらず。ステージ前の柵のところには小錦が100
kg くらい減量したような(それでも体重150 kg
はあることになるが...)立派な体格をした黒人のスタッフ(警備員)がいて、『野獣ども』がステージに駈け上がるのを阻止すべく待ち構えていたが、みんな彼らの体格にビビることなく暴れ続け、常にステージ前のフロアはゴッタ煮状態だった。身の危険を感じた私は曲が進む度、位置をジリジリ後退させていた。
ステージにはヴォーカル兼ギターのデクスター・ホランド、ギターのヌードルス、ベースのグレッグ・K、そしてドラムのロン・ウェルティのオフスプリングの4人の他、曲によってはパーカッションや『掛け声』担当のサポート・メンバーが登場した。“I
Choose”ではパーカッションのひとが2人登場。うち1人はチョンマゲのカツラをつけていた(笑)。次の曲は“The
Meaning Of Life”。この曲を大いに気に入ってる私は「“The Meaning Of
Life”では、何があろうと最前列まで行って暴れる」と予め決めていたので、威勢のいいキッズたちの渦に飛び込み、「oh
yeah〜, oh
yeah~」とガナリながら最前列まで突撃し、暴れてきた。が、私の勢いが続いたのもここまで。次の“Mota”では観客は皆、ステージ上の『掛け声』担当のサポート・メンバーが「mota~!」と掛ける声に合わせて「mota~!」と合唱したのだが、息があがっていた私は声を出すことも出来ず、キッズ中心の渦の中から退散した。ライヴの煽動役の『掛け声』担当のサポート・メンバーは次の“Come
Out And Play ”でも「keep'm
separated!」と『掛け声』を掛け、大暴れの観客に水を振りかけ、カラになったペット・ボトルの容器をほうり投げた。すると空ペットは会場の高さ10
m
はあろうかという天井にスコォ〜ン!!!と当たり、フロアの後ろのほうの観客の間に落ちた。これ、当てようと思ってもなかなか当たるもんじゃあないよ。
ヴォーカルのデクスターは、大学院卒という経歴が物語るように、知的な雰囲気を漂わせていた。観客の盛り上がりに呑まれいたずらに『暴発』することなく、観客が大合唱してくれると判ると自分のヴォーカル・パートをかなり端折ったりするなど、観客の熱気に冷静に対峙するようなどこか醒めたところのあるクールな佇いなひとだった。ただし、観客に「アリガト!」と声をかけるときの満面の笑顔は紛れもなく『ロック兄ちゃん』のそれだったが...。でも、デクスターは間違い無くパンクスだ。パンクスとは髪の毛をモヒカンにしてオッ立てたり、入れ墨入れたりすることを指すんじゃなくて、ひとが羨むような学歴を持ちながら敢えてそれを捨ててこーゆー音楽を演ることを指すんだよ!!!
“Me & My Old
Lady”と“Smash”の後、アルバム『イクスネイ・オン・ジ・オンブレ』のように“Intermission”があり、『Intermission』と書かれたネオンを持った青い髪した女装の男がステージをウロウロするなか、オフスプリングのメンバーは長イスに座りドリンクをガブガブ。『掛け声』担当のサポート・メンバーは「テメエらも休め!」とばかりに観客に缶飲料を差し入れしてた。1分程の“Intermission”の後、“All
I Want”、“Don't Pick It
Up”...と曲が続き、最後はあまりにもナサケない内容の歌詞の“Self
Esteem”を披露し、デクスターは「アリガト」と言ってギターを脇に置き、ステージ袖に引っ込んだ。てっきりギターの交換に行ったのかと思ってたら、デクスターはそのまま戻って来ず、一旦ライヴは終わってしまった...。だけどフロアの多くの『野獣ども』はアンコール要求の手拍子を続け、デクスターたちを呼び戻した。ステージに戻ってきたデクスターは「オマエらも休めよ」と2個ばかり缶飲料を観客に差し入れしてから、ギターを構え、まず“Gone
Away”を披露。次に披露した曲は、何と、ニルヴァーナのアルバム『ネヴァーマインド』に入っている“Territorial
Pissings”。ギターのヌードルスは先ほどパッカションのひとが装けていたチョンマゲ・ヅラを被り、楽しそうにプレイしていた。ここでギターを置いたデクスターがヴォーカルに専念して披露したのは“Session”。曲が終わるとデクスターたちは「アリガト!」と言ってステージを去り、『掛け声』担当のサポート・メンバーらが客席にCDをバラ撒き、この日のライヴは終わった。デクスターたちは全部で19曲演ったが、時間にして1時間にも満たないライヴ(1曲当たり3分無い!)だった。が、異様に密度の濃いライヴで「もう終わり?」とは全然感じなかった。あまりにも観客が大暴れしまくるライヴのためみんな汗ダクで、あと20分くらい時間が長かったら急性心不全で死人が出ていたかも知れない。もし、今回のライヴについて「何か物足りなかった」と感想を漏らす者が居たとしたら、そいつはあの会場に居た殆どの客(私を含む)からこう御叱りを受けることだろう。「オマエは運動量が足りない!!!」
でも、観るのを松本にしといてホントによかったよ。会場満杯に客が入っていなかったので、避難するスペースが十分にあったから助かったけど、前売りがSOLD
OUTになった東京、名古屋、大阪で観ようものなら満員でフロアに逃げ場が無く、もっとヒドい目に遭ってたな、絶対に...。松本、バンザ〜イ!!!
【SET LIST】...'97.12.13
松本市社会文化会館
~intro...Time To Relax~
1. Bad Habit
2. Beheaded
3. Cool To Hate
4. Genocide
5. I Choose
6. The Meaning Of Life
7. Mota
8. Come Out And Play (Keep'm Separated)
9. Me & My Old Lady
10. Smash
~Intermission~
11. All I Want
12. Don't Pick It Up
13. Gotta Get Away
14. So Alone
15. What Happened To You?
16. Self Esteem
(encore)
1. Gone Away
2. Territorial Pissings (ニルヴァーナのカヴァー)
3. Session