ヒロくんのLIVE REPORT '98 PART 1 RADIOHEAD

 3rdアルバム『OKコンピューター』が世界各国の音楽雑誌で軒並み『1997年ベスト・アルバム』に選出され、バンド自身も『1997年ベスト・バンド』に選ばれた、まさに『'97年の顔』だったレディオヘッド。そのレディオヘッドの3度目の来日ツアーは東京公演が即日SOLD OUTで追加公演が計3公演出る当然の人気ぶり。これらの追加公演のチケットもモチ、完売。名古屋・大阪・福岡の各公演もチケットがSOLD OUTで、チケットが売れ残ってたのは仙台・新潟、そして信州・松本の各公演だけだった。『'97年のライヴ観納め』をオフスプリング松本公演にした元・松本市民の私は、『'98年のライヴ初め』をこのレディオヘッドの松本公演にするつもりだったのだが...。ライヴ開催日の1月15日というと、御存知のとおり関東甲信地方に大雪が降った日。東京では16 cm の積雪で大騒ぎになってたが、松本では観測史上最深積雪記録にあと10 cm と迫る69 cm を記録。私は雪を想定してライヴ開始の8時間前に車で松本入りしたが、松本の街は白い悪魔に魅入られた修羅場と化していた...。信州の交通の要というべきJR松本駅では東京方面、名古屋方面、白馬方面の全ての列車が上下線ともストップし、長野方面の列車のみが大幅に遅れながらも何とか動いてるという状態。鉄道では松本から出ることも松本に入ることも叶わぬ、まさに『陸の孤島』状態。私が松本市民だった7年間でも体験したことのない大雪に不安になり、午後1時頃、ライヴの主催者側に「こんな天気ですけど、ライヴありますか?」と電話で問い合わせたところ「演る方向で準備しています」との答えにひとまず安心して人影もまばらな松本の中心商店街で時間を潰して、おなじみの松本社会文化会館に向かった。
 会場の前では、係員が「大雪のため、整理番号順の入場はムリと判断し、並ばれた順に入場して頂きます」(←つまり、来た者順)と申し訳なさそうに説明を繰り返す。「そんなァ〜!!!」とガックリする女のコが発した「レディオヘッドのメンバーはちゃんと会場に来てますか?」との質問に答えた時のみ係員の声は元気になった。「ハイ、来てますヨ!!!」レディオヘッドのメンバーは前の公演地・新潟から何とか松本にたどり着いてたようだ。
 開演時間になってもフロアは半分しか埋っていない。それも道理、今回のレディオヘッド松本公演は、東京・名古屋・大阪の各公演のチケットを取り損ねたファンが「それなら松本で!!!」と各地から大挙押し寄せて来る筈だった。会場には長野新幹線とタクシーを使い東京から長野経由で松本入りしたツワ者の女性も居たが、彼らの殆どは雪のため『陸の孤島』と化した松本に到達出来ず『討ち死に』したに違いない。チケットを取り損ね、レディオヘッドのライヴ観るのを一旦諦めたが「そうだ、松本公演がある!!!」と一度は喜んだであろう彼らをこんな運命が待ち受けていたとは...。彼らの無念を思うと心が痛む...。
 7時15分頃、トム・e・ヨークをはじめとするレディオヘッドのメンバー5人が登場。オープニング曲は新作『OKコンピューター』の頭を飾る“Airbag”。曲が終わると「アリガトゴザイマス。ドモ、ハジメマシテ」と恥ずかしげに日本語で挨拶したトム。“Karma Police”の次に披露されたのは、映画『ロミオ+ジュリエット』のサントラ盤から“Talk Show Host”。照明の効果で楽曲・演奏の美しさがより増幅された“Planet Telex”を挟んで再び映画『ロミオ〜』より、エンディング・テーマ“Exit Music (For A Film)”が披露され、トムの奏でるアコースティック・ギターの旋律と悲しげなヴォーカルに、客は皆、映画の悲劇的結末を思い出したのだろうか、シーンと静まり返ってトムの歌に聴き入っていた。CDを聴いていると、世のなかの全ての青少年の苦悩を一人で背負い込んでるかの如くトムのヴォーカルは重く、寂しげで、悲痛に満ちていて、まるで「君たちの苦悩は全てボクが引き受けるからさ、どうか悩まないでおくれ」と聴く者を説き伏せているかのように聴こえて実に痛々しいので、私など「自分の悩みは自分でカタをつけるからさ、そんなに思いつめるなよ」とトムの肩をポンポン叩いて励ましてあげたくなってしまうが、ライヴでのトムのヴォーカルはCDでの虚弱児ぶりとはうって変わって、力強さを感じられるモノだった。「オマエらの苦悩はオレが全て引き受けてやるから、悩むな! 生きろ!!!」と強烈な生へのメッセージが込められ、きっぷのいい兄貴肌・親分肌を感じさせられた。
 曲によってギターをエレキとアコギに使い分けるトムの他に、レディオヘッドにはギター専任のエド・オブライエン、キーボード兼任のジョン・グリーンウッド...と、2人のギタリストが居て、最大ギターが3本あることになるが、その威力が如何なく発揮されたのが“My Iron Lung”。この曲のリフレインでのギター・フレーズは悲痛さに満ちており、ナマで聴くと特にトムのギターからのそれは殺傷能力充分で、背筋が寒いモノが駈け抜けていき、頭の中が真っ白になる興奮を体験した私。“My Iron Lung”はホントに名曲だ。
 “Subterranean Homesick Alien”ではトムがキーボードを担当するなど、ステージ上のメンバーは担当楽器をしばしば変えていた。曲ごとにギターにキーボードと目まぐるしく担当楽器を変え、楽曲に彩りを添えるジョンは“No Surprises”では鉄琴をプレイし、“Pearly”ではエドがドラムのフィル・セルウェイの脇でフロア・タムを叩いたり、エドやベースのコリン・グリーンウッドがパーカッション類を持ち出すなど、必要以上にシリアスに受け止められがちなこのバンドにもユーモラスな側面があるところを見せていた。
 トムは2曲ばかりヴォーカルに専念したが、そのうちの1曲“Bishop's Robes”(←多分)では、少し『オネエサマ』が入ったようなナヨナヨとした手つきで手拍子しながら、例の『こわれもの』みたいな繊細なヴォーカルを披露していた。
 レディオヘッドのライヴを観て印象的だったのが、スキンヘッドのドラマーのフィル・セルウェイ。彼のプレイは激しい連打させても、リム・ショットさせても全て的確。ギター・ノイズ撒き散らし系から、ガラス細工のような繊細さを持つ曲まで幅広い音楽性を誇るレディオヘッドだが、その音楽性を持てるのもリズムがしっかりしているからだろう。フィルはレディオヘッドというバンドの中では、トム、ジョンに次ぐキー・パーソンだ。
 ライヴのほうは、新作からの複雑怪奇な展開を見せる曲“Paranoid Android”で一度幕を閉じた。勿論この後、アンコールの手拍子でレディオヘッドの5人はステージ上に呼び戻された。1曲目は新作から“Let Down”。実はここまで18曲披露されていたが、デビュー・アルバム『パブロ・ハニー』からは1曲もナシだった。が、曲が終わるとトムは英語で「次の曲は1stアルバムからの曲だ」と紹介。このトムのMCに観客は大いに沸き、誰もがあの曲を期待していた。レディオヘッドの大出世曲“Creep”。ところがトムが紹介した曲は“Lurgee”。これに対し最前列にいた女のコたちが「“Creep”演ってェ〜!」とトムにおねだりしたが、トムは微笑を浮かべながら「No ! “Lurgee”」と軽くあしらっていた。“Creep”はBECKの“Loser”同様、アーティストが意図した以上の意味を勝手に見い出され、『負け犬』のアンセムとされてしまった曲。客がこの曲を求めること自体今のレディオヘッドには迷惑なのだろうが...。続いて“Bones”を披露し終わるとトムは英語で「雪がこんなにパラパラと降るなか、来てくれてどうも有難う」と挨拶。ただし『パラパラ』だけは日本語だった(笑)。挨拶が終わるとトムがアコギで弾き出したイントロは“Street Spirit (Fade Out)”。この曲も彼らの名曲の1つだ。レディオヘッドの音楽を説明するのに先程から『悲しげ』とか『苦悩』とか『重く、寂しげ』とか『悲痛に満ちている』とか『痛々しい』とか『ガラス細工のように繊細』とかポジティヴさのカケラもない言葉で説明してきた。「何でそんなミジメな音楽を聴くんだ」と言われそうだが、オアシスの音楽が『若いということは何も怖いものなしに好きなことを出来る特権がある』ことを主張しているとすれば、レディオヘッドの音楽は『若いということは少しのことでも傷ついただの傷つけられただのと過敏に反応する一生のうちで一番繊細で純真な心を持っている特別な時期である』ということを主張していて、この両バンドとも『若いということは特権である』ということを主張している点で共通している。『若さ』という特権を急速に失いつつある私には彼らが音楽を通じて訴えかけていることがよく解る。「オアシスもレディオヘッドもどこが良いのかサッパリ解らない」というひとはきっと『野心』にも『苦悩』にも無縁な『無菌状態』の平和な10代を過ごしていたんだろうなァ。オメデトウ(パチパチ←拍手)。そんなレディオヘッドの音楽の典型例の“Street Spirit (Fade Out)”が終わると、静かにレディオヘッドの5人はステージを去り、ライヴは終わった。
 会場から出ると、外は相変わらず雪が...トムが言うように『パラパラ』とではなく...ドカドカと降り続いてた。『少しあるくらいなら風情があっていいが、そればかりになると困る』という点において、雪とレディオヘッドの音楽は似ていると思った。が、私にはこの雪のなか、車で富山に帰るという『地獄のドライヴ』が待っていた。来るときに使った安房トンネル道路はこの雪じゃ通行不能と判断し(事実、この判断は正しく、通行止めだったようだ)、糸魚川廻りで4時間半かけて何とか富山に戻った。ああ、酷い目に遭った。

【SET LIST】...'98.1.15 松本市社会文化会館
1. Airbag
2. Karma Police
3. Talk Show Host
4. Planet Telex
5. Exit Music (For A Film)
6. My Iron Lung
7. Climbing Up The Walls
8. Subterranean Homesick Alien
9. Lucky
10. No Surprises
11. Fake Plastic Trees
12. Pearly
13. Bullet Proof..I Wish I Was
14. The Bends
15. Bishop's Robes
16. Just (You Do It To Yourself)
17. Paranoid Android

(encore)
1. Let Down
2. Lurgee
3. Bones
4. Street Spirit (Fade Out)

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