'98年の今現在「すでに21世紀の音楽を演ってる」とか「10年先の音楽を演っている」と絶賛する声の絶えないバンド...『立体音響研究所』こと、ステレオラブ(『ラブ』とは“laboratory”=“実験室”の略。『立体音響の恋』ではない)。故・寺山修司が監督したアングラ映画(今で言うところの『インディ・フィルム』)のタイトルを採った'96年リリースのアルバム『エンペラー・トマト・ケチャップ』で一気に評価、知名度、人気を爆発させた『立体音響研究所』の皆さんが、2年振りに来日し『公開デモンストレーション』を演るというので、1月31日、大阪会場の心斎橋クラブ・クアトロへ『見学に』行ってきた。
話題の『立体音響研究所』の『公開実験』とあって、会場は超満員。新作『ドッツ・アンド・ループス』が“くつろぎ”を重視したかのような作風だったため、『見学者』はイージー・リスニングを聴きに来る感覚のハイティーンの女のコが多そうだった。さて今回のライヴ、オープニング・アクト・D.J.として、キッド・ロコなるフランスの新人アーティストが登場することになっていた。「オープニング・アクト・D.J.とはいったい何をするのか?」と思ってたら、6時30分突然客電が消え、場内に大音響でクラブ・ミュージックが流れ始めた。が、D.J.ブースがあるわけでもなく、ステージ上でD.J.が皿廻ししてるわけでもない。キッド・ロコは姿を見せず、「オープニング・アクト・D.J.っていいつつも単にキッド・ロコのCDを流しているだけじゃないの?」と思っていたら、ちょうどCD1枚分完奏し終わる頃合いの7時半過ぎに『立体音響研究所』の皆さんがステージ上に登場した。
'94年リリースのアルバム・タイトルが『マーズ・オーディアック・クインテット』であるから『立体音響研究所』のメンバーは5人かと思ってたら、現在は『研究員』は6名のようで、ステージの前のほうに向かって右から、リード・ヴォーカル兼Moogシンセのレティシア、2ndヴォーカル兼ギター兼タンバリンのメアリー、オルガン奏者のモーガン...と女性3人が並んでいて、ステージの奥のほうに向かって右から、ベースのリチャード、ドラムのアンディ、そして『立体音響研究所所長』のギターのティム...と男性陣3人が位置していた。勢揃いした『立体音響研究所』の皆さんが演奏し始めた曲は新作『ドッツ・アンド・ループス』より“Contronatura”。ただし、頭からきちんと演奏した訳ではなく、曲の後半部分(CDで言えば5分過ぎたあたりの♪this
is the future ~
から)のみの演奏だった。続いては新作からの仏語詞の曲“Miss
Modular”。ステレオラブの曲の歌詞を書いているリード・ヴォーカルのレティシア・サディエールはフランス人なので、彼女たちの曲の半分は仏語詞だ。レティシアはもともと声のトーンが低く、英語の曲でも仏語的発音で歌うので、歌の輪郭が不明瞭だった。レティシアが最もハッキリした発音をしたのは日本語で「アリガト!」と挨拶した時だったくらい(←これ、ホント!)。半袖シャツ姿のレティシアは身長170
cm 以上ある大女で、ウェストより下が異様に太かった(ムチムチ)。
3曲目にアルバム『騒音的美学の終焉』から“Crest”を『実演』した後、いよいよ名作『エンペラー・トマト・ケチャップ』から“Spark
Plug”を披露した。寺山修司・監督の映画『トマトケチャップ皇帝』なんて、フツウの日本人ですら知らないのに、『立体音響研究所』の皆さんはいったいどこでこの日本映画の情報を仕入れたのでしょう?
さて、ステレオラブといえば、2ndヴォーカルのメアリー・ハンセンのバック・コーラスの『ヘンさ』が何かと話題になってて、新作の日本盤の解説で嶺川貴子サン...というよりも、今や世界を股にかけて活躍するアーティスト『Takako
Minekawa』と呼ぶべきかも知れんが...が「この人のコーラスって、ホントにヘン。人物もヘンそう?」と書いてたが実際にナマで聴くと...ホントに変だァァァ~! 「うっららららっら〜、うっららららっら〜」とか「うらら、うらら、うらら」とか「ちゃっきーだ、ちゃっきーだ、ちゃっきーだ」とかもともとヘンなコーラスなうえ、CDでの聴かれるモノを『中学1年生の声』とするなら、ライヴでは『小学1年生の声』と形容したくなるくらいメアリーの声自体も幼い。リード・ヴォーカルのレティシアが不明瞭な歌を聴かせるので、いっそうメアリーのハキハキしたバック・コーラスが目立つ。観客に「みんなもっとロックしようよ!」とか「今夜が私たちの日本最後の夜なのよ」などと英語で話しかけたり、盛んに観客とコミュニケイトしていた『30女の顔と7歳の幼女の声』を併せ持つメアリーは、ついでに言うと身長も170
cm
以上。彼女がつけていたヘアピンは10代の女のコが使うような『お花』のワンポイント仕様。アンタ、いったい何者なんだ??? そんな不思議なメアリーの右横ではBECKが女になったような小柄なモーガン・ロートが黙々とオルガンを弾いていた。“Metronomic
Underground”ではモーガンの弾くオルガンがとても強烈だった。単に和音を弾いてるだけなのに何かとてつもないことが起こりそうな不安に駆り立てられるくらい。勿論、メアリーのバック・コーラス「かいじん、ふたり、あと、2とん(crazy
study a
torpedo)」もインパクト大だった(笑)。今回のライヴは前作『エンペラー・トマト・ケチャップ』とニュー・アルバム『ドッツ・アンド・ループス』の2枚のアルバムからの曲中心だったが、アルバム『エンペラー・トマト・ケチャップ』からの曲のほうがライヴならではの「+α」がより多く感じられた。やはりアルバム『エンペラー・トマト・ケチャップ』は音楽史上に残る傑作だ。
ドラムのアンドリュー・ラムジーは「雑誌の取材にも写真撮影にも応じない主義」なので、グループ・ショットにさえ写っていない。「ステレオラブは5人組」と勘違いしてしまう要因はここにもあるのだが、実際に見たアンドリューのルックスは安部譲二みたいで、彼が「雑誌の取材にも写真撮影にも応じない主義」なのも、納得(笑)。ベースのリチャード・ハリソンは私の居た場所からは死角の位置に居て、姿を確認出来なかった。『立体音響研究所所長』のティム・ゲインは体を左右に揺らしながらギターを奏でていた。
ロック・ファンやプログレ・ファン、テクノ・ファンにイージー・リスニング・ファン、そして『ラウンジ』やら『モンド』、『ドラムン・ベース』といったクラブ・ミュージックのファンなどさまざまな音楽のファンを取り込んでいるステレオラブ。が、逆に言えばファン層が多彩ゆえ、ライヴでは観客の間に連帯感が形成されにくいきらいがある。したがって会場にはおとなしく観ている観客が多く、ステージに声援を送る者は勿論のこと、曲に合わせて体を揺らす者さえ殆ど居らず、ふだん観客のアクティヴィティーの高いライヴばかり観ている私には違和感さえ感じる雰囲気で『立体音響研究所』の『実演』は進んでいった。
ステレオラブのライヴでは曲が完奏されないことが多く、10曲目の“Reflections
In The Plastic
Pulse”もCDでは17分もある曲の中盤のインスト部分だけの演奏。この後“Cybele's
Reverie”(邦題は“キベレーの幻想”)、“Rainbo
Conversation”と曲がプレイされた後に披露されたのは“I'm Going Out Of
My Way”か“The Seeming And The
Meaning”のような曲だったが、レティシアのヴォーカルが例によって不明瞭だったため私にはどちらの曲なのか、それともまた別の曲なのか判断つきかねた。これで『立体音響研究所』の『公開デモンストレーション』はいちど終了した。
フツウのライヴならここでファンのアンコール要求の熱の入った手拍子が起こるのだが、弱々しい手拍子しか起こらなかった。前述のとおり、ライヴ中も観客のノリが悪かったし...。それでもステージに戻って来た『立体音響研究所』の面々。まず、先ほど曲の中間部分だけ演った“Reflections
In The Plastic
Pulse”をアタマから1/3ほどプレイ。ここでステージにスペシャル・ゲストが招き入れられた。そのスペシャル・ゲストとは...オープニング・アクト・D.J.でありながら先ほど一度も姿を見せなかったキッド・ロコがギターを携えて登場。アンタ、居たのだったらもっと早くから姿見せときゃ良かったのに...。キッド・ロコを加えて『実演』した曲はデビュー・アルバム『ペン!』より“Stomach
Worm”だったが、『立体音響研究所』の皆さん、ここで観客の度肝を抜く『大実験』にうって出た!!! “Stomach
Worm”からそのままわけのわからんノイズ垂れ流しに突入。鼓膜が破れそうなくらいの大音響のノイズをギター2本、Moogシンセ、オルガンなどでもって10分以上も垂れ流した。カーディガンズが突然ソニック・ユースになったかのようなの変身に、新作『ドッツ・アンド・ループス』で聴かれるような“くつろぎ”を求めにきた“夢見る少女”たちは悶絶したに違いない!!! 私もあまりの凄まじさに「もう、ヤメてくれェェェ〜!」と思ったくらいだから。拷問のような10数分の後、レティシアとメアリーは笑顔をみせながら「good
night~!」と手を振ってステージを去り、『立体音響研究所』の『実演会』は幕を閉じたのだが...最後のノイズ垂れ流しは多くの観客の興奮に火を点けたようで、先ほどまであれだけ醒めた感じでただステージを眺めてるだけだった観客から、アンコール要求の熱心な手拍子が延々と続き、ライヴ終了を示す客電が灯いても観客は帰ろうとしない。お蔭で、係員が「ライヴはもう終わったから、頼むから帰ってくれ~!」とお願いし説得する事態となった。「ノリの悪い客を大興奮に陥れる実験」の実演をまんまと大成功させた『立体音響研究所』恐るべし!!! アルバム『エンペラー・トマト・ケチャップ』からの曲はCDよりも起伏が強調されていたものの、アルバム『ドッツ・アンド・ループス』からの曲は(CDよりはいくらかのルーズさを持って再現されてはいたが)アルバムどおりのノッペリした起伏に乏しい平面的な演奏だったので、今回のライヴの収穫を「メアリーのヘンなコーラスをナマで聴けただけ」と頭のなかで整理しかけていた私はホント、最後の10分間で背負い投げを見事に喰らわされた。今まで観たどのアーティストよりも過激なライヴを見せつけた彼女たちにはアヴァンギャルドという表現がまさにピッタリ。「avant-garde」ってもともと仏語だし...。ネッ、レティシア?
【SET LIST】...'98.1.31
心斎橋クラブ・クアトロ
1. Contronatura
2. Miss Modular
3. Crest
4. Spark Plug
5. Brakhage
6. The Flower Called Nowhere
7. Percolator
8. ?
9. Metronomic Underground
10. Reflections In The Plastic Pulse
11. Cybele's Reverie
12. Rainbo Conversation
13. ? (“I'm Going Out Of My Way”or“The Seeming And The
Meaning”?)
(encore)
1. Reflections In The Plastic Pulse
2. Stomach Worm