次から次から新人バンドが出てくるU.K.ロックシーンだが、『オアシスのコーラスとストーン・ローゼズのギターを併せ持つバンド』なる最大級の賛辞と伴にシーンに登場したのが、マルコム・カーソン率いる3人組・ジャグアー。「ストーン・ローゼズと似てるのは解るとして、オアシスといったいどこが似てるんだあ? 単に覚えやすいメロディーがあるところがオアシスと似てるだけじゃねェか!」と私なんか思ってしまうが、そんなジャグアーの初来日公演を5月16日に名古屋クラブ・クアトロで観てきた。
開演時間の7時を少し廻った頃、場内のBGMが変わり、ジャグアーのメンバー3人...ドラムのタム・ジョンストーンとベースのジュリアン・カー、そしてヴォーカル兼ギターのマルコム・カーソン...が登場。マルコムはステージに登場するなりギターのチューニングを随分と気にしていて、ステージに現われてから2分ぐらいはギターのチューニングをいじってた。マルコムが気が済むまでギターのチューニングをした後始まったオープニング・ナンバーは“Coming
Alive”。ドラムのタムはグラサンをしていて、とてもオッサン臭く見えた。そんなタムはドラムを叩きながらバック・コーラスも披露。2曲目は“Rubber
Band”。ここらあたりでジャグアーの3人の演奏がとても上手いのに気付いた。トリオ編成のバンドはどうしても音数が少ないのでサウンドが薄っぺらになりがちだが、トリオ編成のハンデを微塵も感じさせないほどブ厚いサウンドだった。こう思ったのは私だけではなく会場に居た他の客の口からも「上手いよ、コイツら!」という声が漏れてたくらい。彼らがストーン・ローゼズと比較される理由がよく解った。“But
Tomorrow”が披露されると、観客の反応は女性客を中心にこの日最も大きくなった。6曲目にプレイされた“Sweet
Soul
Music”は彼らの曲のなかで一番ストーン・ローゼズを感じさせる曲だが、ローゼズ狙いの曲を演ろうとして玉砕するバンドが居るなか、ジャグアーの場合演奏がしっかりしてるので、こういうグルーヴィーな曲をプレイしてもサマになる。彼らのサウンドがしっかりしてるのはベースのジュリアンの頑張りによるところが相当大きいと思う。
『ジャグアー』というバンド名は、日本では『ジャガー』で通っている英国を代表する高級車の名前が由来。『ジャグアー』という日本語表記は、より英語の発音に近いものを心掛けたせいらしいが、マルコムは自分たちのバンド名をこう発音していた...『じゃぎゅあ』...。ステージ前に陣取る多くの女のコの黄色い歓声を一身に集めてたマルコムは殆どすべての曲についてプレイする前に英語で観客に曲紹介をしていて、例えば7曲目にプレイした“Better
Blue”の前には「君たちだって気分がブルーな時があるだろ? この曲はそんな気分についての曲だ」とか何とか言っていた。
“Together”と“ Take Your
Time”ではマルコムがアコースティック・ギターによる弾き語りを見せ、この時、ドラムのタムはキーボードで適当に音を足しながらここでもバック・コーラスを担当。ベースのジュリアンに至ってはステージから姿を消し、完全に『お休み』に入ってた。ま、ジャグアーの演奏がしっかりしてるのは彼のベースの頑張りに負うところが大きいから大胆に休憩とるのも納得できるが。
アコースティックで聴かせる曲2曲をプレイした後、『お休み』に入ってたジュリアンがステージに戻って来て元の編成で披露したのが、富山の某ラジオ局の洋楽チャートでもTOP10入りしたヒット曲“Nothing”。この後、“A
Vision ”と“Groovy
Mantra”をプレイし、ジャグラーの3人は一度ステージを去った。3人がステージから消えた後すぐに観客がアンコール要求の手拍子を始めると場内に“Up
And
Down”のイントロが流れ、すぐさま3人がステージに戻って来た。3人ともシャツを着替えており、「単にシャツ着替えに行っただけじゃんねェか」と思ったほどすぐだった(笑)。ドラムのタムはここで初めてグラサンを外した。グラサンをしてる時オッサン臭く見えてたが、グラサンを外すと実年齢どおりになった(笑)。3人がまず披露したアンコール1曲目は勿論“Up
And
Down”。次にまたマルコムがアコースティック・ギター、ドラムのタムがキーボード、ベースのジュリアンは『お休み』...という編成(笑)で“Closer
To The
End”をプレイし、曲が終わると休んでたジュリアンも合わせて、3人で観客にお礼とお別れの挨拶をしてステージを去った。
この日の名古屋でのライヴは観客が半分くらいしか入っていなかったが、客の入りのわりには盛り上がっていたため、2度目のアンコールに成功した。ステージに戻って来たマルコム、「みんなが聴きたい曲は?」と、観客からリクエストを募った。が、観客は「ニルヴァーナの曲を演れ!」と言う男から「“But
Tomorrow”をもう一度演ってェ〜!」と言う女のコまで、みんな好き勝手にまちまちな曲を要求。そんな観客を見て、肩をすくめてみせたマルコム、観客のリクエスト訊いてたら埒がアカン!とばかりに一方的にこう言い放った。「これから演る曲はさっき演った曲だ。“Coming
Alive”!」 この日のライヴのオープニング曲だった“Coming
Alive”をもう一度披露してジャグアーのメンバーがステージを去ると、すぐさまフロアに電灯がつき、ライヴ終了を告げる『客出し』の音楽が流れた。新人バンドは持ち歌が少ないので、一度演った曲をもう一度プレイしたりすることがある...という話は聞いたことがあったが、実際にそれを目のあたりにしたのは初めて。でも、訳の解らんカヴァー曲や未発表の新曲を演るよりは、2回目になろうとも馴染みの曲をプレイしたほうがファンのことを思えば正解。会場に詰めかけた観客は『ジャグアーの馴染みのあの曲』をナマで聴きたくてココへ足を運んだんだから。あと、同じ曲を2度プレイしたことに、「オレの書く曲は一晩で2度や3度プレイしてすぐ飽きられるようなヤワな曲じゃないんだ!!!」といった感じのマルコムの自らの曲に対する絶対的自信を勝手に感じ取り、流石はイギリスのギター・バンド伝統の大口叩きの系譜に連なるジャグアーのことだけはある...とうれしくなった私。“Coming
Alive”で始まり“Coming
Alive”に終わる人を喰ったライヴ構成にニンマリさせられ、3人編成とは思えないくらいの演奏の確かさに期待してた以上のものを観せてもらった『得した気分』のライヴでした。
【SET LIST】...'98.5.16
名古屋クラブ・クアトロ
1. Coming Alive
2. Rubber Band
3. Into Yesterday
4. But Tomorrow
5. I Quit
6. Sweet Soul Music
7. Better Blue
8. Together
9. Take Your Time
10. Nothing
11. A Vision
12. Groovy Mantra
(encore 1)
1. Up And Down
2. Closer To The End
(encore 2)
1. Coming Alive