'96年に『ディス・ワールド・アンド・ボディ』でアルバム・デビューを果たした、イギリスはマンチェスター出身の5人組・マリオン。その彼らが2ndアルバム『ザ・プログラム』を引っ提げて2度目のジャパン・ツアーをおこなった。私が観たクラブ・クアトロでの名古屋公演が行われた6月20日の土曜日は、世間ではサッカーのワールド・カップの日本vs.クロアチア戦の話題でもちきりだった日。結果から言うと、この日のライヴはこの『サッカーのワールド・カップ』が重大な意味を持っていた...。
開演予定時間の7時を15分程過ぎた頃、場内のBGMがフェイド・アウトし、SFチックなSEに導かれてステージ上に姿を見せたマリオンの5人。ヴォーカルのジェイミー・ハーディングは火の点いたタバコを手にしての御登場。オープニング曲は
新作『ザ・プログラム』の頭を飾る“The
Smile”。曲が始まってもジェイミーはタンバリンを振りながらもタバコを手放さず、間奏中にもスパスパタバコを吸っていた。曲が終わりようやくタバコを灰皿で潰し、タバコの代わりにハーモニカを手にしたジェイミー、“Sleep”のイントロでハーモニカをプレイし、ファンの声援を集めていた。会場の6〜7割程の入りの観客には、やはりと言うべきか、ジェイミーのルックスにひかれる女性ファン多く見受けられ、ジェイミーに黄色い声援を送ってた。『アクティヴな初期U2』と形容したくなるようなマリオンの音楽性に魅せられてライヴ会場に足を運んだ私のような客も決して少なくはなかったが。でもジェイミーの顔って『爬虫類系』で、尾藤イサオにも似てると思うんだけど、女のコたちがあんなに大騒ぎするほどの顔かあ? そんなジェイミーは気が向いた時、思い出したように観客に手を差し出し、ファンたち(勿論女性客多し)との握手に応じていた。
ライヴのほうは淡々と進んでいき、(もともと髪が薄かったのでとうとう)スキンヘッドにしたベーシストのニック・ギルバート、セットに隠れ殆ど顔が見えなかったドラムのムラッド・ムーサ、サウスポウのギタリストのトニー・グランサン、そしてもう一人のギタリストのフィル・カニンガムは黙々と演奏していた。トニーが時折バック・コーラスを取ってみせ、左利きでヴィジュアル的に目立つ(ギターの構えが左右逆)くらいで、視線はどうしてもジェイミーにいく。『マリオンはジェイミーでもっているバンド』とよく言われていて、私もそう言っているが(笑)、ライヴでの残り4人の地味さを観てるとその考えが覆えることはなさそうだ(笑)。
来日記念盤のタイトルにもなっている曲“Sparkle”の後、タバコを一本取りだし、指の間で弄んでたジェイミー、火を点けようにもどうやらライターが無かったようで、それを見つけたローディーが慌ててステージにやって来てきてジェイミーにライターを手渡していた(笑)。タバコを吸いながらバラード・ナンバーの“Your
Body
Lies”を歌ったジェイミー。キザを絵に描いたような仕草だが、ここら辺りにジェイミーが女性ファンに受ける理由があるのかもしれない(笑)。8曲目はニュー・アルバムからの曲で、ファンの誰もが待ち望んでた“Miyako
Hideaway”。『必殺技』に近いこの曲をこんなに早くプレイするのは勿体無いと思ったが、観客はここで大いに盛り上がった。CDで聴くと『暑苦しい』とか『くどい』とか感じさせるジェイミーのヴォーカルだが、バックの演奏の音量が大きいミキシングのため、アクが抜けて『いたってフツウ』に聴こえていた。またCDとは違ったライヴならではのいい意味でのルーズさを持った歌い方をしてた。
“Toys For
Boys”の演奏が終了し、フィルとトニーのギタリスト2人がギターを降ろした。2人のギタリストは2〜3曲毎にギターを交換していたので、またもやギターの交換か...と思っていたら、ニックもベースを降ろし、ムラッドもドラム・セットから離れ、マリオンの5人はステージから姿を消してしまった...。「ええッ〜! もう終わりィ〜?」...観客の誰もがこう感じたに違いない。何故ならこの時点でライヴ開始から40分、10曲しか演ってなかったんだから...。当然、納得出来ない観客(特にジェイミー目当ての女性ファン)が熱心にアンコール要求の手拍子を始めた。4〜5分程経ってからステージに戻ってきたマリオンの5人がまず披露したのが、デビュー作の1曲目を飾る“Fallen
Through”。この曲には観客は大いに沸いた。が、この観客の興奮も長続きしなかった。というのは、次に“All
Of These
Days”をプレイすると、マリオンの皆さん、またもやアッケなくステージを去ったからだ。再びマリオンの5人をステージに呼び戻そうと、ジェイミー・ファンの女のコたち中心に手拍子を繰り返し、さかんに『ジェイミー・コール』を繰り返していたけれどそれも虚し。たった12曲、時間にして50分でホントにライヴは終わってしまった...。こんなに演奏時間が短く物足りない感じがしたライヴはちょっと記憶に無い。多分、マリオンの5人が早々と演奏を切り上げた理由はサッカーのワールド・カップにあるのでは...。日本では「サッカーのワールド・カップはオリンピックを凌ぐほどのスポーツ・イヴェント」といわれてもいまいちピンとこないが、欧州方面じゃそれこそ、ビッグ・イヴェントに違いなく、マリオンの5人もワールド・カップでアタマがいっぱいで『ライヴに心あらず』の状態だったのだろう。「さっさとライヴ切り上げてTVでサッカー観ようぜ」ってね。でも観客のほうも一応は不満を漏らしつつも「ライヴが早く終わってラッキー〜! 早く家に帰って日本vs.クロアチア戦観ようぜ!」てな感じだったので、ライヴが早く終わり過ぎたことに対する抗議や暴動は起こらなかった。もっとも、サッカーなんかどーでもいい女性ファンの一部はステージ前にいつまでも残って『ジェイミー・コール』を繰り返していたようだが(笑)。
今回のライヴの教訓...サッカーのワールド・カップ期間中の欧州のバンドのライヴには気をつけよう(笑)。プロモーターもこの時期に来日ツアー組まないでいただきたい(笑)。
【SET LIST】...'98.6.20
名古屋クラブ・クアトロ
1. The Smile
2. Sleep
3. Wait
4. Is That So?
5. Time
6. Sparkle
7. Your Body Lies
8. Miyako Hideaway
9. The Powder Room Plan
10. Toys For Boys
(encore)
1. Fallen Through
2. All Of These Days