10月6日、午後6時の開場時間に合わせ、名古屋・今池ハックフィンに着くと、入口からチャック・ウィルソンに似た外国人が出て来た。よく見たらこの夜の主役のデーモンだった! さらに、デーモンの後から出てきた女性はナオミだった! デーモンとナオミはそれぞれギターケースを携え、スタッフと一緒に陽もどっぷり暮れた街に繰り出していった。
ということで、今回お伝えするのは『ヒロくんのライヴ・リポート』史上、最もマイナーなアーティストであると思われるデーモン&ナオミのジャパン・ツアーの模様である。'90年代初頭、ギャラクシー500というトリオ編成のバンドがあった。ところが、このギャラクシー500、アルバムを3枚リリースし、待望の日本公演が決まった矢先に突如解散してしまう。その理由は、男2人に女1人...というトリオ編成にありがちな『三角関係』が極限に達し、それに耐え切れなくなったヴォーカリストでギタリストのディーン・ウェアハムが逃げるようにバンドを去ってしまったから...。ディーンがバンドを辞めた後も音楽上でも私生活上でもパートナーシップをより強固にした2人が今回紹介するデーモン&ナオミ。今年リリースの3rdアルバム『プレイバック・シンガーズ』が日本デビュー作になる。ちなみに、こーゆー名前だし、『日本人している』ルックスなので、「ナオミは日本人?」とつい思ってしまうが、ナオミのフル・ネームは『ナオミ・ヤン(Naomi
Yang)』...つまりナオミは『楊さん』なのダ。ま、日本人ではないけれど、アジア系アメリカ人であることは間違いないが。デーモンはDamon
Krukowski だからスラブ系だし。
今池ハックフィンは、名古屋のダイエー今池店の南の元・連れ込み旅館(今はビジネスホテル)の地下にあり、高岡『もみの木ハウス』がひと廻り大きくなった程度の狭いライヴハウス。先ほどデーモン&ナオミを「『ヒロくんのライヴ・リポート』史上、最もマイナーなアーティスト」と書いたが、それを裏付けるかが如く、開演30分前になってもフロアに居た客は私ともう1人だけ!!! もしかしたら観客が2人だけのライヴになるのでは...と恐れていたら、ポツリポツリと客がやって来た。『定員200人のスタンディング式のライヴハウス』なのに、観客は気ままに椅子を持ち出して座っていた。こうして50人ほどの観客が集まった6時57分、先ほど夜の街に繰り出していったデーモンとナオミが帰って来て、楽屋に入っていった(笑...出演者と観客が同じ出入口を使う狭い小舎ならではか)。
7時10分頃、ステージに登場したデーモンとナオミ、それぞれ椅子に腰掛け楽器を構えた。アコースティック・ギター(以下、アコギ)を構えたデーモン、「コンバンワ」と日本語で挨拶。デーモンの左隣に座るナオミはエレキ・ベースを構えてた。「最初の曲は、ニュー・アルバムから“Turn
Of The
Century”です。もうすぐ世紀の終わりが来るけど、これは時代の終わりではなくて、新しい時代の始まりなんだ...そういう意味の曲です」とデーモンが英語で説明。デーモンとナオミはお互いの眼、もしくはフレット上の指の動きを見つめ合い、互いの呼吸を計るようにして演奏を始めた。“Turn
Of The
Century”はデーモンがヴォーカル。曲が終わるとデーモンは「次の曲はアルバム『ワンダラス・ワールド・オブ・デーモン&ナオミ』から“New
York
City”です。ニューヨークは僕の生まれたところ。今はボストンに住んでるけどね」と説明。ナオミはベースを傍らに置き、オルガンを弾きながら“New
York
City”を歌った。ナオミの弾くオルガンは小学校にあるような足でペダルを踏んで空気を送るものではなく、アコーディオンのように手で空気を送るオルガン。左手で『袋』を慣れた指つきで操作しながら、右手で鍵盤を弾き、歌ったナオミ。このようにライヴはデーモンのアコギとナオミのベースもしくはオルガンに、2人が歌を乗せる...というアルバムで聴かれるとおりの超シンプルな演奏で淡々と進んでいった。観客も曲の合間に拍手を送るだけで、2人に声援を送ることは無かった。
前にも書いたとおり、デーモンは曲を演奏する度、「この曲はどういう意味の曲なのか」を律儀過ぎるくらい説明。例えば、“Laika”の時には「『ライカ』っていうのは犬の名前なんだ」と観客に説明。“Eye
Of The Storm”の時には「“Eye Of The
Storm”の『eye』って、『center』という意味だよ」と、そんなもん知っとるわい!!!と言いたくなることまで説明してた(笑)。デーモンが饒舌なのに対し、ナオミが観客に語りかけることは少なく、観客の女のコが誤って灰皿をひっくり返した時に、ウフフフ〜と笑ったくらい。そんなナオミのベースとオルガンを操る指の動きは実に艶かしい。デーモンとナオミは演奏を始める時必ずお互いの呼吸を確認し合うような仕草を見せてた。『実質夫婦』のこの2人が時折見せるラヴラヴな仕草に『独りもの』の私はミョーな気分になり、ディーンがギャラクシー500を辞めた理由がよく解った(笑)。この後もデーモンは「これからアレックス・チルトンの曲を演るけど、アレックス・チルトンって知ってる?」と観客に問いかけて(←ちなみに「Yes」と答えたのは1人のみ)アレックス・チルトンの曲(曲名不詳)を演ったり、「アメリカの歴史についての曲だ」と紹介して“The
New
Historicism”を演奏...と終始同じような感じでライヴを進め、最後に“This
Car Climbed Mt.
Washington”を披露してデーモンとナオミはステージを後にした。が、観客のアンコールにすぐステージに呼び戻された。「僕らにアンコールをしてくれるなんて日本のファンは最高だ!!!」とウレシそうなデーモンは「これから演る曲は'60年代のレジスタンス・ソングだ」と紹介。ナオミの歌で“Translucent
Carriages”をプレイすると2人はステージを去り、観客の熱心なアンコール要求も虚しくライヴはこれで終わってしまった。全12曲...もの足りない。
さて、この日一番会場が盛り上がったのはライヴ終了後。『客出し』の音楽が流れ、観客が帰りかけた頃、ステージ器材を撤収しに来たのは...デーモンとナオミじゃねェーか!!! どうも今回のジャパン・ツアーは『デーモン&ナオミ+スタッフ1名』の3人で廻ってるようだ。2人はファンのサイン攻めに遭い、ナオミなんかステージからフロアに降り、ファンと一緒に次々と記念撮影し、Tシャツにサインをしてくれと言われ「サインしてもいいケド、洗わないでネ」とウレシそうにサインしてた。ハックフィンは観客と出演者が同じ出入口を使い、演奏途中でもバンバン写真撮影していい会場なので、みんなアーティストと記念撮影が出来ることやサインがもらえることを良く知っていて、サインペンやカメラをちゃっかり用意していた。私はそんな『しきたり』を知らなかったので(ハックフィンは今回が初めて)、カメラもサインペンも用意なく、サインすらもらえませんでした...。
【SET LIST】...'98.10.6
名古屋・今池ハックフィン
1. Turn Of The Century
2. New York City
3. Laika
4. The Navigator
5. Imformation Age
6. Eye Of The Storm
7. How Long
8. ? (アレックス・チルトンの曲?)
9. The New Historicism
10. I'm Yours
11. This Car Climbed Mt. Washington
(encore)
1. Translucent Carriages