『世界で一番悲惨なバンド』マニック・ストリート・プリーチャーズ(以下、マニックス)。『世界じゅうでNo.1になる2枚組のデビュー・アルバムを出して解散する!』と解散宣言をしての衝撃的なデビュー。そのデビュー・アルバムがチャート上で惨敗したうえ解散宣言を撤回して『裏切り者』呼ばわりを受け、勝ち目のない闘争へとどんどんのめり込んでいったマニックス。この袋小路状態に耐え切れなくなったのか、歌詞と行動でバンドのアティテュードをすべて方向づけていた男、リッチー・ジェームスが突如失踪!!! その行方は失踪から丸4年経った今も、誰も知らない...。リッチーが行方をくらまして、残されたメンバー3人で活動を再開した途端、バカ売れ〜。アルバムが2枚連続全英No.1に輝き、英国の雑誌の表紙の見出しにオアシスをさしおいて『King
Of
Rock』とまで書かれるほどの『誰からも愛される』人気バンドになった。が、メンバー3人は「リッチーが失踪してマスコミで大きく取り上げられたから売れたんじゃないか?」とか「どうせ売れるなら、リッチーが居なくなる前にして欲しかったよ!」と、この誰もがうらやむ大成功を喜べないで居る。マニックスはホントに『世界で一番悲惨なバンド』だ!!! そんな彼らの6年振り3回目のジャパン・ツアーは勿論、リッチー抜きの『3人マニックス』として初めての来日。'92年の初来日の時は『最初で最後の日本公演』と銘打たれ(なにしろ、解散する筈だったから)、会場には「オマエら絶対解散しろよ!」...というファンの声援が渦巻いてたという。'93年の2回目の日本公演は解散宣言を撤回した後で、「マニックスがオレたちを裏切った!」という幾ばくのファンの失望と怒りのなかで行われたそうだ。今回のジャパン・ツアーも「リッチーが居なくて淋しいなァ」というファンの想いが充満する湿っぽい空気のもと行われるものと思いながら、私は2月7日、赤坂BLITZに足を運んだ。ちなみに、エラソーなこと書いていながら私がマニックスのライヴを観るのは今回が初めてだ。
赤坂BLITZでライヴを観るのは私はこれで4回目だが、今回ほど客がギッシリ入ってるのは初めて見た。動き廻る余地のないほどの人、人、人...。それほどファンの『3人マニックス』への期待度が高いといえるが、意外なほどに若いファンが多い。「このバンドって『悲劇のバンド』なんだってさ」と無邪気に語り合ってたグループはどう見ても17、8...といったところ。彼らを見て「オマエら、マニックスの闘争史を知らねェのか!」と説教タレたろか!!!...と思ってしまった。ライヴが始まったのは開演予定時間の6時を大幅に押した6時半。ステージ上にマニックスの3人...ショーン・ムーア、ニッキー・ワイアー、ジェームス・ディーン・ブラッドフィールド...とサポートのキーボード奏者(アルバムに参加していたニック・ネイスミスか?)が現われた。新作『ディス・イズ・マイ・トゥルース・テル・ミー・ユアーズ』の日本盤初回特典のフォトブックに6人ものヴァイオリストを従えたステージ写真が載ってたので、もしかしたらそういう大がかりなステージになるのかと思ってたが、3人+1人のシンプルな編成だった。黒ずくめの服装のヴォーカル兼ギターのジェームスが「Hello~
Tokyo!」と『第一声』を上げてからすぐさまプレイし始めたのは“Everything
Must
Go”。この曲でいきなり『人上水泳』する者が現われ、観客が大合唱になるほど会場は大興奮。続く曲もアップ・テンポのナンバー“You
Stole The Sun From My
Heart”で、曲の途中で「イチ、ニ、サン、シ」と日本語で観客を煽ったジェームス。3曲目は“Kevin
Carter”で、ここまで新作と前のアルバム『エヴリシング・マスト・ゴー』からの曲を披露したマニックス、ここから自らの歴史を確かめるかのようにデビューから3枚目までのアルバムの曲を1曲ずつ演奏した。2ndからは“La
Tristesse Durera (Scream To A
Sigh)”(邦題は“哀しみは永遠に消え去らない”)、デビュー作から“Stay
Beautiful”、3rdからは“Yes”を披露。3rdアルバムの『ホーリー・バイブル』はリッチー失踪直前の作品で、リッチー失踪を抜きにしても『何かが起こる切迫感』に満ちあふれていて聴いていて痛々しい作品だが、もしかしたらこのアルバムからは1曲もプレイしないんじゃあ...と思ってただけに曲が披露されて素直にうれしかった。足早にマニックスの歴史をおさらいした後、新作からのナンバー“Tsunami”と“Ready
For
Drowning”を披露。新作の曲は空間の広がりを意識した音造りがされているので、ここで初めて、袖を落とした白いシャツを着て腕をむき出しにしたニッキーが弾くベースの音がハッキリ聴こえた。初来日の時、あまりにヘタクソなので音量を絞られてたというニッキーのベース(とリッチーのギター)だが、今回は大丈夫なようだ(笑)。そんなニッキーのベース・アンプには彼らの故郷・ウェールズの国旗が誇らしげに飾られていた。“No
Surface All
Feeling”の後、ジェームスがこうMCした。「次にプレイする曲はトム・ジョーンズの“Sweet
Home
Alabama”だ」 トム・ジョーンズは彼らの故郷・ウェールズの生んだ大スターだが、ジェームスたちがプレイし始めたのは“Sweet
Home Alabama”では当然なくて(笑)“Motown
Junk”。「ジョン・レノンが死んだ時はあざ笑ってやった」という過激な歌詞で、例の『解散宣言』と共に、大センセーションを巻き起こした初期の名曲に会場は大いに盛り上がった。
初期の名曲“Motorcycle
Emptiness”(邦題は“享楽都市の孤独”)、新作からの大ヒット曲“If You
Tolerate This Your Children Will Be
Next”(邦題は“輝ける世代のために”)の後、ジェームスのみがステージに残り、アコースティック・ギターを構えた。ジェームスが「僕が何の曲を演るか分かるかい?」とファンに問うと、最前列に居たファンが「“Black
Dog On My
Shoulder”!」とズバリ見破ってしまった。これにはジェームスは「違うよォ、“Diamond
Dog”を演るんだよ」と笑いながらトボけるしかなかった(笑...“ダイアモンドの犬”といえばデイヴィッド・ボウイの名曲だが)。こうしてジェームスが“Black
Dog On My
Shoulder”をギター1本で歌った後、演り始めたのは何とワム!の“Last
Christmas”!!!ほんの数フレーズ歌っただけだが、この思いがけないプレゼントに観客は大いに沸き、ジェームスに向けて惜しみない拍手が送られた。もう1曲“Small
Black Flowers That Grow In The
Sky”を演り、ジェームスによるアコースティック・セットは終了した。
残りのメンバーがステージに戻り披露したのは、失踪して今も行方不明のリッチーについての曲“Nobody
Loved
You”。この後、アップ・テンポの曲“Australia”を披露。先ほどから気になってたんだが、アップ・テンポの曲ではショーンのドラムが走り気味になる。これはワザと走らせているのか、それとも...? ま、そんな細かいことどうでもいいか(笑)。3rdからの地味なナンバー“This
Is Yesterday”の後、マニックス人気爆発の起爆剤となったアンセム“A
Design For
Life”をプレイ。ここでライヴは終わりか...と思っていたところで、メンバー紹介を挟んで披露されたのは“You
Love
Us”。マニックスがまだ『英国一嫌われたバンド』だった頃に『オレたちをそれほどまで嫌うってことは、ホントはオレたちのこと大好きなんだろう?』という皮肉を込めた歌だった筈が、今では文字どおりの意味の曲になっている。観客はみんな♪you
love
us~のフレーズを大合唱。ニッキーは演奏中、ベースを放り出して何故か縄跳びをしながらステージを走り廻リ、初期マニックスの曲にはベースは要らないことを自ら暴露していた(笑)。「Thank
you,
Tokyo~!」とジェームスが御礼を言い、マニックスの3人はステージを去った。全19曲、時間にして1時間20分を一気に駆け抜け、アンコール無しで終わるライヴは実にマニックスらしい。
これまでのバンドのいきさつと新作『ディス・イズ・マイ・トゥルース〜』の内省的な作風からもっとおとなしいライヴになるものと想像していたが、マニックスも内省的な新曲よりも勢いのある楽曲を多く披露して観客をそのようにリードしたこともあって、ライヴの盛り上がり方は他のロック・バンドのそれとなんら変わりは無い。「もしかしたら、ステージ上に居る筈の無いリッチーの姿を必死に捜す...という醜態をさらすことになるかも...」と思っていたが、あまりにも盛り上がるものだからライヴの間にリッチーのことを考えることは全く無かった。新世代のマニックス・ファンにとっては、マニックスは単なる『イイ音楽を演るロック・バンド』に過ぎないんだろう。『rockin'
on』や『CROSSBEAT』などのロック雑誌はいまだにマニックスの3人に「今、リッチーのことをどう思っているか?」としつこく質問しているが、これを読んで喜んでいるのは私のようなオールド・ファンだけで、新世代ファンはこんなもの、読み流しているに違いない(笑)。今回のライヴの観客の反応を見て、“Motown
Junk”の「ジョン・レノンが死んだ時はあざ笑ってやった」というセンセーショナルな歌詞の裏でリッチーが言いたかったことがハッキリ理解った。別にジョン・レノンが死んで嬉しかったわけではなく、古い世代の連中が「オレたちの世代のヒーロー、ジョン・レノンが死んでオレたちは悲しいんだ。だから若い奴らも悲しめ!!!」と押し付けてくるのを「やなこった!!!」と拒絶したかった...言い換えれば『旧世代の価値観を次の世代に押し付けるな!!!』ってことだとようやく気が付いた。だからリッチーのことを想い、彼の思想に忠実で在ろうとするならば「リッチーが居なくなってオレは悲しいんだ。だからオマエらも悲しめ!!!」と新しいファンに説教しちゃいけないんだってね。本来の予定では今回のライヴ・リポート、『リッチーはこんな人だ。リッチーはこんなセリフを吐いた。リッチーが書いた歌詞にはこんな意味がある』...などなど、リッチーへの想いをながながと綴ったリポートを書いて、皆さんにリッチーとマニックスをよ〜く理解してもらおうと考えていたのだが、ヤメにした...。それどころか、リッチーのことを云々するのも、マニックスを『悲惨なバンド』とか『悲劇のバンド』として括ることもこの文章を最後にもうしないつもりだ。彼らの苦難の闘争史とリッチーへの想いは、胸の内に仕舞っておこう。マニックスが“This
Is
Yesterday”という地味な曲をわざわざ演って言いたかったのもそういうことだ。
【SET LIST】...'99.2.7 赤坂BLITZ
1. Everything Must Go
2. You Stole The Sun From My Heart
3. Kevin Carter
4. La Tristesse Durera (Scream To A Sigh)
5. Stay Beautiful
6. Yes
7. Tsunami
8. Ready For Drowning
9. No Surface All Feeling
10. Motown Junk
11. Motorcycle Emptiness
12. If You Tolerate This Your Children Will Be Next
13. Black Dog On My Shoulder ~ Last Christmas (ワム!のカヴァー)
14. Small Black Flowers That Grow In The Sky
15. Nobody Loved You
16. Australia
17. This Is Yesterday
18. A Design For Life
19. You Love Us