ヒロくんのLIVE
REPORT史上初めて、メンバーが全員女性の海外のガールズ・バンド登場! アメリカ西海岸ワシントン州オリンピア...『インディーの聖地』と呼ばれるこの街に拠点を置くスリーター・キニーは、女性解放運動にどっぷり漬かった3人組のバンドで、曲によってはただただ金切り声で絶叫するだけの激しいものもある。女性解放運動に加担するわけでもない男の私が、どうして彼女たちの激しい歌に心魅かれるのか? それは『彼女たちが戦うことの葛藤を歌っているから』では決してない(笑)。自分でも何故、彼女たちに心魅かれるのかよく解らないまま、スリーター・キニーの初めてのジャパン・ツアーのうち、6月26日土曜日に名古屋・ボトムラインで行われたオールナイト・イヴェント『CLUB
SNOOZER』にスペシャル・ライヴ・アクトとして登場したところを観て来た。
『CLUB
SNOOZER』は、音楽雑誌『SNOOZER』が主催する(乱暴に言ってしまえば)ロック・ディスコ。この日の3日前まで夏風邪で寝込んでいた私。病み上がりの体に、立ちっ放しの踊りっ放しはツラいものがあったので、午後10時の開場と同時に3階のカウンター席に行き、ステージが良く見える位置に陣取り、そこにジーッと座ったままスリーター・キニーの出番を待った。座ったままジーッとしてたのは「何でこんなところにオヤジが居るんだ?」とキッズに思われたくないためもある(笑)。だって『CLUB
SNOOZER』の客、みんなハタチ前後なんだもん!(笑) 村 圭史と『SNOOZER』のボス・田中宗一郎(以下、タナソウ)の2人のD.J.は次々と曲をかけ、キッズたちを踊らせていた。
スリーター・キニーの出番は日付も替わった午前1時30分頃。ステージに登場するなり楽器の調整に追われる3人(笑)。オープニング曲は、日本未発売の2ndアルバム『CALL
THE DOCTOR』より“I'm Not
Waiting”。ステージ向かって右手に居るメイン・ヴォーカル兼ギターのコリン・タッカーは白い半袖ブラウスに、青系統のミニ・スカート姿で白い太ももをあらわにし、水色のギターを弾きながら熱唱。「あの髪、染めてるのかな? それとももともと赤いのかな?」との声が客から上がったように、ナチュラルな赤毛をしてたコリン。ステージ向かって左に位置するサブ・ヴォーカル兼ギターのキャリー・ブラウンスタインは黒のタンクトップに黒のパンタロン姿。ドラムのジャネット・ワイスも黒のタンクトップ姿。ただし、普段『ストレートのオカッパ頭』がトレード・マーク(???)とされるジャネット、髪を一部結わえてて、『ストレートのオカッパ頭』では無かった(笑)。2曲目は、新作『ホット・ロック』から“One
Song For You”。曲が終わるとキャリーが「thank
you~!」と名古屋のキッズに御礼を言う。次にプレイした“Get
Up”では、キメのフレーズ「ah~ get
up!」のところでドラムのジャネットもバック・ヴォーカルで参加。特徴的なギターのイントロで始まる“Heart
Factory”、新作『ホット・ロック』の日本盤ボーナス・トラックの“Tapping”(←たぶん?)、奇妙なリズムで始まる“Hubcap”...と披露したところでMC。基本的にMC入れるのは、キャリーの仕事だが、このときはコリンも話したかな。この後、“Start
Together”や“Banned From The End Of The
World”など、新作からの曲をプレイ。昔は『叫ぶ』感じだったコリンのヴォーカルは、新作ではいくらかマイルドになっている。しかしライヴではCDよりも切れ味鋭いヴォーカルを披露。彼女たちが演奏中、会場にはず〜っとピィィィ〜ンと張りつめた空気が流れていた。
ベースが無い分、ギターでベース・ラインをフォロウしながら熱唱するコリンはその服装からして『中学生』といった趣。エリオット・スミスのバック・バンドでも活動中の技巧派ドラマーのジャネットは、その『Weiss(独語で“白”)』という名と裏腹に日焼けした肌で、『お母さん』といった感じ。キャリーだけは歳相応で、『中学生コリン』の『お姉さん』みたい。『母親と2人姉妹』といった3者3様のキャラクターの対比が面白い(笑)。
キャリーが「アリガト!」と日本語MCを入れ、“Not What You
Want”を演奏した後、トラブル発生! どうもコリンのギターのストラップが切れたみたいで、スタッフのかたがガムテープを持って応急処置を施した。この間、キャリーとジャネットが観客にいろいろ話しかけ、間をつないだ。ギターが危なっかしい状態でもコリンのテンションは下がらず、“The
Drama You've Been Craving”、“God Is A Number”、“Hot
Rock”、そして“Little Babies”...と熱唱! 最後に“The End Of
You”を演奏すると、スリーター・キニーの3人はステージを去った。この時に気付いたが、ジャネットは素足でドラム叩いてたようだ(笑)。3人が去ってもアンコール・コールは掛からず。メインはあくまで『CLUB
SNOOZER』で、スリーター・キニーはオマケの扱いだから、この観客の醒めた反応は仕方無いか...。個人的には、コリンとキャリーの2人のヴォーカリストが違ったフレーズを同時に歌う“Burn,
Don't Freeze”をナマで聴いてみたかったんだケド...。
彼女たちの演奏中に会場を支配していたピィィィ〜ンと張りつめた空気、最近どこかで味わったような気が...。思い出した! 2週間前に赤坂BLITZでステレオフォニックスのライヴを観た時と同じだ!!! スリーター・キニーは『女性版ステレオフォニックス』だ! どうして私が彼女たちに心魅かれるのか解った!!! 私がステレオフォニックスが好きなのはケリーのヴォーカルが『苦しみ』と『哀しみ』を説得力をもって歌い上げるからだが、コリンも『苦しみ』と『哀しみ』をきちんと説得力をもって歌い上げる。そして、その『苦しみ』と『哀しみ』は女性であることに起因するんじゃなく、ひとりの人間としての『苦しみ』と『哀しみ』だ! そんな『ステレオフォニックス的』なところに魅かれたんだ、私は!!!...と、思ってたら、タナソウがひっそりとスリーター・キニーとステレオフォニックスを同列に挙げる文章を書いてるんだよな(『SNOOZER』#012
p.32
参照)。スリーター・キニーといい、ステレオフォニックスといい、『クソ真面目』というか『禁欲的』というか...もしかしたら'99年の音楽シーンのキー・ワードは『ストイシズム』になるかも。
スリーター・キニーの出番が終わった午前2時半。勿論、家に帰る足は無い。仕方無く地下鉄の始発が出る朝5時までそのまま会場に居続ける。下のフロアが熱気ムンムンに盛り上がり続けるのをよそに、私は文字どおり、snoozer
(居眠り野郎)になる...zzz...(笑)。
【SET LIST】...'99.6.26
名古屋・ボトムライン(CLUB SNOOZER)
1. I'm Not Waiting
2. One Song For You
3. Get Up
4. Heart Factory
5. Tapping
6. Hubcap
7. Maraca
8. Start Together
9. Banned From The End Of The World
10. Not What You Want
11. The Drama You've Been Craving
12. God Is A Number
13. Hot Rock
14. Little Babies
15. Wipers
16. The End Of You