ヒロくんのLIVE REPORT '00 PART 10 FIONA APPLE

 こんなこと書くと「自慢してるのかぁ〜?」と言われそうだけど、私はフィオナ・アップルのデビュー・アルバム『TIDAL』を日本盤リリース直後の'96年9月に購入しちゃんとチェックを入れてる。デビュー当時のフィオナの扱いは小さく、自分では『自腹を切ってフィオナのデビュー作を聴いた日本で最初の100人』の仲間入りするんじゃないか...と勝手に思ったりするが(笑)、当時このアルバム『TIDAL』を聴いてビックリしたのがあまりにも大人びたその内容。シャーディを彷佛させるサウンドといい、その声とルックスといい、(当時)18歳のそれとはとても思えなかった。事前に情報が無かったら30歳くらいだと思ってたことだろう。その衝撃のデビューから3年余、リリースされた2ndアルバム『真実』では、サウンドからシャーディっぽい部分が無くなり、『フィオナ・アップルの音』としか表現のしようの無いサウンドに深化した。今回の待望の初のジャパン・ツアーは、急遽決まった来日...という印象が強い。彼女が来ることが公表されたのが3月の末で、その1ヶ月半後にはもう日本に来てる...という慌ただしい展開のなか、ウドー音楽事務所のホームページをチェックしてインターネット予約で1階席(だけどだいぶ後ろのほう)のチケットを手に入れた私、5月12日の大阪厚生年金会館大ホールでの公演を観て来た。
 開演予定時間の6時半を10分ほど廻った頃、バンド・メンバーたちと伴にフィオナがステージに登場。ステージの袖からステージ真ン中にセットされているピアノまでスタスタと早足で歩くナマのフィオナの姿を実際目にして、観客の間から「ちっちゃぁ〜い」との声が。バンド・メンバーたちと背を比較して160 cmあるかないかくらいと見た! ピアノに就くと、声援を送る観客に対して一切反応を見せずにフィオナが演奏し出した曲は新作『真実』のアタマを飾る“On The Bound”。バンド・メンバーはギター、ベース、ドラムス、キーボード...の他に、木琴奏者が居て、フィオナ自身、後のメンバー紹介で「vibes(担当)」と紹介してたから、彼のプレイしていた楽器はヴブラフォンなのだろう。“On The Bound”の後は、アルバムどおりの流れで“To Your Love”。曲が終わるとピアノを離れ、ステージ中央に設置されたマイクスタンドに歩み寄ったフィオナ、「コニチワ」と日本語で挨拶。ここで披露したのはデビュー作からのヒット曲“Criminal”。ピアノには木琴奏者が来て、フィオナの代わりにピアノを弾いた。この先もずっと、フィオナがピアノを弾く時には木琴、フィオナがピアノを離れた時には代役でピアノを演奏していた彼は体のいい便利屋???。“Criminal”が終わると「ドモアリガト」とまた日本語を喋ってみせたフィオナ、次に“Limp”を歌うとマイクスタンドを離れた。
 再びピアノに就いてから“Sullen Girl”や“Paper Bag”などの曲を演ったフィオナ。フィオナの凄まじいまでの『情念の歌』を聴いていると、あまりの魂の籠りように自然とこちらの背筋がピン!と伸びてきた。昔、ヘンリー・ロリンズ(ロリンズ・バンド)が机をバンバン叩きまくる激しいインタヴューをした『rockin' on』の鈴木喜之がそれ以来、ヘンリーの声を聴く度に背筋がピン!と伸びてしまうようになったらしいが(笑)、今回のフィオナの歌を聴いていた私は、まさしく、そういう状態になってしまった! ピアノ演奏しながらの時のほうが、フィオナの歌に『念』が込められており、1曲終わっても間髪入れずに次の曲に突入するフィオナは完全に自分の世界に没頭しているようだ。このフィオナの重い歌世界を休む間も無く聴かされると疲れるものだが、例の木琴奏者が鳴らす、ヴィブラフォンの軟らかくドリーミィな響きが、フィオナの歌の重さを中和し、軽減させていたような気がする。この日のライヴの主役は勿論、フィオナだが、2番目は誰か?...と訊かれたら私はこの木琴(兼ピアノ)奏者を挙げるだろう。冗談抜きで!!!
 “Get Gone”が終わると、キーボード奏者以外のバンド・メンバーはステージを去り、2人で“Love Ridden”を演奏...といってもキーボードは隠し味程度の使われ方なので、実質、フィオナ1人の弾き語りと言って差し支えない。
 “Love Ridden”を歌い終わると、フィオナはピアノを離れ、バンド・メンバーたちもステージに戻って来た。木琴奏者の彼は空いたピアノに座る。ステージ中央のマイクスタンドに歩み寄ったフィオナ、日本語で次のように言った。「楽シンデラ!!!」...ホントは「(みんな)楽しんでる?」と言いたかったのだろうけど、口が回らなかったみたい(笑)。こういうふうにMCする時のフィオナの声は歌っている時よりも高くて、私の耳には鈴木紗里奈の声のように聴こえたんだけど、これは会場が大阪だったせいかな?(笑) この鈴木紗里奈声によるMCで会場全体が和んだところで、デビュー作のアタマを飾る“Sleep To Dream”、同じくデビュー作から“Carrion”を披露すると、フィオナはまたピアノに戻った(従って、木琴奏者はまたヴィブラフォンに戻った...くどいようだが)。ピアノで“The Way Things Are”と“I Know”をプレイすると、またステージ中央のマイクスタンドのところに来て(木琴奏者はまた...以下、略)、“A Mistake”を歌ったフィオナ。曲を歌い終わるとバンド・メンバーの紹介を『紗里奈声』でした後、始まったのは“Fast As You Can”! 新作からのヒット曲で盛り上がると、フィオナたちはステージを去った。
 観客のアンコール要求に応じてステージに1人戻って来たフィオナ、完全なカラオケをバックに'20年代的なスタンダード曲(“Just One Of Those Things”)を独唱、その後、バンド・メンバーを加えてもう1曲オールディーズ(“Kissing My Love”)をプレイ。こうしてフィオナのライヴは終わったのだが、演奏曲目は音楽雑誌に載ってる先の全米ツアーのセットと1曲たりとも違わない。1時間半ぐらいであっけなく終わったことも含めて『ルーティン・ワーク』との誹りを免れないライヴだったハズなのだが、とてもロックしてたんだよ、これが! 確かにフィオナの歌にかなりの息苦しさを感じたが、体が勝手に動くグルーヴが彼女(たち)の演奏から確かに感じられた! ピアノが中心だからなごめる音楽...とアタマで割り切ってしまって体がついてこないのか、席に座ったままの客も多数居たけど、何でオマエら立ち上がって体を動かさないのか?...と思ったもんね。

【SET LIST】...'00.5.12 大阪厚生年金会館大ホール
1. On The Bound
2. To Your Love
3. Criminal
4. Limp
5. Sullen Girl
6. Paper Bag
7. Get Gone
8. Love Ridden
9. Sleep To Dream
10. Carrion
11. The Way Things Are
12. I Know
13. A Mistake
14. Fast As You Can

(encore)
1. Just One Of Those Things (コール・ポーターのカヴァー)
2. Kissing My Love (ビル・ウィザーズのカヴァー)

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