この2月にベスト・アルバム『Quarternote』、3月にはオリジナル・アルバム『Then』をリリースした小谷美紗子さんが、『生』と銘打ったピアノ弾き語りツアーの一環で金沢・もっきりや
で演奏するというので、観に行って来た。もっきりや
はふだんはオシャレな飲食店。ライヴ専門スペースではなく、客が入ってもせいぜい100人が限度。私が会場に着いた頃には、ぎっしり客が入っていて、みんな椅子に腰掛けてる。店の一番奥にピアノが設置されてたんだけど、ピアノの真ン前の、ピアノ線が覗けそうな位置にまで客が座ってる。みんな椅子に座り、開演を待っていた。この
もっきりや
は、入口はひとつ。楽屋なんてものも無い。開演時間の5時半を10分廻った頃、店の前の狭い路地にクルマが止まり、ひとりの人間を降ろして走り去っていく。小谷さんだ! 観客と同じ入口から店内に入ってきた小谷さんはピアニストらしいワンピース姿。「こんばんは。あっ、こんにちは。小谷美紗子です」って挨拶、座ってる観客たちの間をぬってピアノへ向かう。私のすぐ脇を通って行った。実物をまぢかで見た印象言うと、小谷さんはとてもちっちゃい! 身長150
cmあるかないか。少しお太りになったのか、ミョーに丸々としてた(笑)。
ピアノに就いてから小谷さんが歌い始めた曲は、アルバム『うた
き』収録の“生けどりの花”。私の居た場所からは、他の客のアタマが邪魔で小谷さんの姿が観にくかったんだけど、ピアノと歌声はよ〜く響いてくる。続く曲もアルバム『うた
き』からの“火の川”。激しいピアノの旋律と小谷さんの念のこもった歌が生で披露されていく。“火の川”の後、もう1曲演ったところで小谷さんが喋る。「今回の『生』ってツアーは、演る者と聴く者が近くに居るってコンセプトで廻ってるんだけど...コンセプト以上にみなさんが近くに居るっていうか...(苦笑)」と、ピアノの前に陣取る客を見て言った後、「この空気はあれですよね。テーブルにグリーンの紙が置いてあるんです。グリーンの紙って離婚届なんですけど、テーブルに離婚届置いて旦那さんと向き合ってる。そんな場面を思い出しました」。『離婚届を挟んで対峙し合う夫婦』とは、この会場の空気を比喩するにあまりにも的確過ぎる表現(笑)。そーなんです、会場は異様なまでの緊張感に包まれとりました(笑)。小谷さんが演奏し歌ってる時は「しーん」、演奏終わったら割れんばかりの拍手。ポピュラー・ミュージックのライヴというよりは、クラシックのリサイタルみたいな空気。観客がドリンク飲んだら、コップの中の氷が動く音が会場の中響いてたくらいだもん(苦笑)。最新アルバム『Then』から“空が藍色になるまで”と“June”が演奏された後、2ndアルバム『i』から“The
Stone”が披露される。♪ああ〜二人でギリシアの神殿で石になってしまいたい〜...。小谷さんの歌の鋭さに、観客もみんな石になった(苦笑)。
“The
Stone”が終わると、「トークタイム」と宣言した小谷さん。「これだけは是非ライヴのMCで喋ろう!」と思ってたことがあったらしいんだけど、その肝心なネタが出て来ない小谷さん(苦笑)。その後しばらく話すべきテーマをアタマん中で捜してんのか沈黙してた小谷さん、ようやく話すべきテーマが見つかったらしく観客にこう言った。「私はよく考えてることがあるんですよ。『ひとは何故ひとを愛するのか?』」...会場、しーん...。「何でだろうね?」って、訊かれても...(苦笑)。小谷さんの演奏中とはまた違った意味でみんなが沈黙しました(苦笑)。ここで気をとりなおし、小谷さん「カヴァー曲と新曲演ります」と立て続けに2曲を演奏。演奏が終わったところで、小谷さん、「カヴァー曲は久保田利伸さんの“Missing”です」とネタを割ると、観客から「新曲のタイトルは何ですか?」って質問が入り、「“off
you
go”っていうんです。オーストラリアに留学してた時にすっごく怖い先生が居て、よく説教に呼び出されたんだけど、説教が終わると、その怖い先生が『off
you
go!』って言ってたんですね。『もう行っていいよ!』って。そのことを思い出して付けたタイトルです」と説明。このあたりからようやくトークが滑らかになってきた。「BSフジの番組で村上ポンタ秀一さんと共演しました。7月のアタマに放送されます。BSフジ見られるよ〜!ってかたは観てね。『あっ! 今日と同じ服装だ!』とか、分かります」とようやくなごめる話題も出たし(笑)。小谷さんの歌をCDで聴いてると、硬く鋭い歌いかたする時と、舌足らずで甘えた声の時があるけど、トークの際は舌足らずで甘えた声で喋ります。だから、演奏中とかなり印象が違う。だけど、歌に戻ると緊張感は相変わらず。♪君は会社を〜辞め〜ました〜...と歌う“真
(君の真未来に捧げるうた)”など、鋭い歌が続くんだもん。小谷さんは「観客と和気あいあいとしたライヴをやりたい」とか「アット・ホームな雰囲気で。みんな、小谷家に来たつもりでくつろいで」などと言ってたけど、あの鋭い歌うたってるうちはムリだな(苦笑)。観客もその鋭さを聴きに来てると思うし...(苦笑)。「私のことを怖いひとだと思ってるひとが多くて、『ちょっとでも調律が狂ってるとキィー!って悲鳴上げて暴れ出す』っていう噂も流れてたみたいだけど、HPのBBS見たら分かってもらえるとおり、25歳のアホな女だよ〜!」 そのアホさ加減も知りたくて、ファンはライヴに来てるのだ!(爆笑〜!!!)
アルバムではイースタンユース参加の曲“音”が終わると、小谷さん、「ホントはここで一度ひっこんでアンコールなんだけど、(楽屋が無い)この会場ではアンコールが出来ないので、言われなくても自分でアンコールやります」などと言って「高校の時に書いた、お金の匂いのしない大切な曲」と曲紹介し、その「大切な曲」“hopeless
love”を最後に演奏してくれた。あらかじめスタッフが携帯電話で連絡してたらしく、曲が終わると店前にクルマが小谷さんを迎えにやってきてる。拍手する客の間をすり抜けた小谷さんが入口から出て、クルマに乗り込んで会場を去っていく。ふつうならアンコールが入るタイミングなんだけど、もう小谷さんが会場に居ない以上、アンコール要求するだけムダ。キツネにつつまれた感じで会場に残された観客たち、「もう、終わりだよね?」って確かめ合った後(笑)、席を立ち始めた。演奏中も不思議な雰囲気なら、終わりかたも不思議(笑)。
というわけで、一種異様なまでの緊張感に包まれたライヴだったんだけど、この緊張感に居心地の悪さを感じたかといえば、答えは「ノー」。この一種独特な雰囲気、病み付きになる。また味わってみたいッス(笑)。よく、アラニス・モリセットや椎名林檎などの女の情念がドロドロした歌が怖い!...と言われますけど、よっぽど独自の鋭い歌詞世界に基づく小谷さんのうたのほうが怖いことが、今回ナマで聴いてよ〜く分かりました。
【SET LIST】...'02.5.26
金沢・もっきりや
1. 生けどりの花
2. 火の川
3. Quarternote
4. 空が藍色になるまで
5. June
6. The Stone
7. off you go (新曲)
8. Missing (久保田利伸のカヴァー)
9. 真 (君の真未来に捧げるうた)
10. 帰ろう
11. 街灯の下で
12. 僕の絵
13. 暁の星 (新曲)
14. 音
15. hopeless love (未発表曲)