File #4
THE
BEAUTIFUL SOUTH--0898 Beautiful
South
ビューティフル・サウス『0898』
(1992年、国内盤
: ポリドール POCD-1080)
1. Old Red Eyes Is Back 2. We Are Each Other
3. The Rocking Chair 4. We'll Deal With You Later
5. Domino Man 6. 36D 7. Here It Is Again
8. Something That You Said 9. I'm Your No. 1 Fan
10. Bell-bottomed Tear
11. You Play Glockenspiel, I'll Play Drums 12. When I'm
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英国を代表する国民的バンドといわれるビューティフル・サウス。ところが、英国での人気と裏腹に、ここ日本での現状を語ると、人気はいまひとつ...というか、人気が無いに等しい。その理由について、バンドのキャラクターを背負うメンバーが居ない...『顔』となるメンバーが居ないことや、彼らの音楽性がオーソドックスなポップ・ロック(一時はネオアコ扱いもされた)が玄人ごのみだということが挙げられたりするが、やっぱりビューティフル・サウスの人気が出ないのは、言葉の壁が一番の障害になってる。ビューティフル・サウスはかなりの部分、歌詞の面白さでウケてるフシがあるから。
そもそも、ビューティフル・サウスは1980年代に活躍したハウスマーティンズのメンバーだったポール・ヒートン(vo.&
作詞)とデイヴ・ヘミングウェイ(vo.)がバンド崩壊後に結成したバンド。ちなみにハウスマーティンズが崩壊した理由は、ベーシストで後にビーツ・インターナショナルで活躍し、今はファットボーイ・スリムやってるノーマン・クックが「これからはダンス・ミュージックをやりたい」と抜けたからだそうだ。デビュー当時はこの元・ハウスマーティンズの2人にギタリストで作曲担当のデイヴィッド・ロザリーとリズム隊の2人を合わせた5人組だった。デビュー作の『ウェルカム・トゥ・ザ・ビューティフル・サウス』ではゲスト扱いだった女性ヴォーカルのブリアナ・コリガンが正式メンバーになり、男性ヴォーカル2人と女性ヴォーカル1人...合わせて3人のリード・ヴォーカリストを擁する編成となった2ndアルバムの『チョーク』からのシングル“A
Little Time”(邦題は“少し時間をくれないか”)が全英No.
1に輝いてイギリスでは人気爆発!だったんだろうけど、この“A Little
Time”は執拗に結婚を迫るオンナからひたすら逃げまくるうちに、愛想をつかされる情けない男の歌だったりして、かなり歌詞の部分でウケたようだ。歌詞を解さない日本人にはまるで面白味が伝わらないけど...。このアルバム『チョーク』にはイチャイチャしたカップルを目の当たりにしてムラムラっときた(笑)男が題材の曲“今夜は自分を愛したい気分”という曲も収められている。このようにエロだったり、あと、かなり猟奇的な歌詞を持つ曲が収録されている2ndアルバムの『チョーク』は英国ではダブル・プラチナムに輝いたんだよな、確か。でも、歌詞に魅力があることがアダとなり、日本では話題になることすらなかった。
日本では人気がサッパリなそんな彼らが、日本公演を行えるだけの人気が出たことがそれでもある。それは今回紹介する3rdアルバムの『0898』をリリースした1992年のハナシ。この『0898』という作品、アルバムじたいの内容をさておいて、ジャケットの風変わりなアートワークが話題になり、雑誌『CROSSBEAT』(勿論、日本の雑誌)の1992年度読者人気投票の最優秀レコード・ジャケット部門で7位にランク・インしたほど。最優秀アルバム部門には20位以内にすら入らなかったのに...(笑)。で、この『0898』、歌詞カードには、ジャケットの無気味なカメに対抗し得るこれまた風変わりな絵が1曲1曲に応じて付けられていて、これも秘かにウケてたらしい。『寝る牛肉』とか(笑)。
で、どうもこの風変わりな絵たちは、彼らの歌詞世界をかなりヴィジュアル化したものらしく...ってことは前作同様、エロでグロで情けなくてユーモアがあるワケだが、この『0898』のアルバムの白眉ともいえる名曲“Bell-bottomed
Tear”(邦題は“ベルボトムの涙”)...誰かが、サザンやユーミンのバラードにも匹敵しうる名曲!と絶賛したらしいが!...このホントに素晴らしすぎる名曲の歌詞はこうだ!
♪This is the dinner prepare〜This is the dress that I made〜This is
the child I brought up〜And this is the woman you laid〜This is the
woman you laid〜
私のつたない英語力でも、「これは私が作った食事、これは私が縫ったドレス、これは私が育てた子供、そしてこれがアナタが寝た女、これがアナタが寝た女」という意味だと分かる。そしてこの曲の作詞をしたのが男(ポール・ヒートン)で、これを歌わさせられているのが女(ブリアナ・コリガン)というのが相当ヒネくれている(笑)。アルバムを代表する美しい曲ですらコレだから、他の曲のヒネクレ具合は推して知るべし(笑)。
この『0898』リリース時の日本でのささやかな盛り上がりぶりで1992年7月彼らは日本の地を踏む。サポート・メンバーを含めて総勢11名の大所帯でのライヴで赤字覚悟のジャパン・ツアー。素晴らしい歌と演奏で観客を魅了したライヴだったらしいが、これには後日談があって、イギリスの悪名高い『人頭税』不払いで裁判沙汰になったポール・ヒートン、税金の不払いの理由を「ジャパン・ツアーで大赤字になって払いたくても払えないんですう〜」とのたまったという...。これ以来「税金不払いの理由にされてはかなわん!」と思った日本側が呼ばないのか、「大赤字ブッこいたらかなわん!」と思ったポール・ヒートンらが来日を見合わせてるのか、彼らの来日は実現していない。
この後、あーゆー過激なエログロ歌詞を歌わせられるのを嫌ったブリアナ・コリガンがバンドを脱退。1996年に純粋なラヴ・ソング集『あなたを抱きしめた時』でソロ・デビュー。やっぱ、あんな歌詞イヤだったのね...。一方、ブリアナに逃げられたビューティフル・サウスのほうは、後任女性vo.にジャークリン・アボットを迎え入れ、相変わらず英国では国民的地位を保つも、ブリアナと比べてイモ臭さが漂うジャークリンのキャラを嫌ったのか、『0898』のようにアートワークが面白くないからか、それは分からないけど、日本での彼らの扱いは元の地味な位置に戻ってしまった...。現時点の最新作『クエンチ』では、昔の仲間で、ファットボーイ・スリムで大活躍のノーマン・クックの助けを借りてるが、それですら日本では話題にならないという...。
『0898』...やはり、彼らはここ日本ではこのアルバムの時がピークだった。
THE BEAUTIFUL SOUTH Discography
『Welcome To The Beautiful South』(1989)
『Choke』(1990)
『0898 Beautiful South』(1992)
『Miaow』(1994)
『Carry Up On The Charts...Best Of The Beautiful
South』(1995...ベスト盤)
『Blue Is The Colour』(1996)
『Quench』(1998)
(2000.9.17/9.18/9.19)