消えた『幻の名盤』を追って

File #13

THE FIRM-- The Firm
ザ・ファーム『ザ・ファーム』
(1985年、import : Atlantic 7 81239-2)
1. Closer 2. Make Or Break 3. Someone To Love
4. Together 5. Radioactive
6. You've Lost That Lovin' Feelings 7. Money Can't Buy
8. Satisfaction Guaranteed 9. Midnight Moonlight

 1982年にリリースされたエイジアのデビュー・アルバム『詠時感〜時へのロマン』が大ブレイクしたのを契機に俄然クローズアップされたのが、『スーパーグループ』。ビッグ・ネームなバンドの元メンバーたちが集結し、いわば『ロック界のオールスター・バンド』を結成するということは、「あのひととこのひとが一緒にバンドをやれば凄いものができるに違いない!」と考えたりする一部ロックファンの夢をかなえることでもあり、そのような需要に応えた『スーパーグループ』は、エイジアの大成功を受けてその後ブームとなり、シーンに数組登場することになった。ちなみにエイジアは、元・キング・クリムゾン〜U.K.のジョン・ウエットン(vo., b.)、元・イエスのスティーヴ・ハウ(g.)、元・エマーソン・レイク&パーマーのカール・パーマー(ds.)、そして元・バグルズのジェフリー・ダウンズ(key.)...という面子でした。
 1984年に結成され、翌'85年にアルバム・デビューを果たしたザ・ファームは、元・レッド・ツェッペリンのスーパー・ギタリスト、ジミー・ペイジと、元・フリー〜バッド・カンパニーのスーパー・ヴォーカリスト、ポール・ロジャーズが組んだ『スーパーグループ』。ドラマーは元・ユーライア・ヒープでスキンヘッドがトレードマークのクリス・スレイド、ベースは若手ながらすでにいろんなキャリアを積んでいたトニー・フランクリン。


左から、ジミー翁(g.)、クリス坊主(ds.)、ポール師匠(vo.)、トニー青年(b., key.)

 このザ・ファームは、あのジミー・ペイジ先生がレッド・ツエッペリン解散後初めての本腰入れた音楽活動で、しかも相棒があのポール・ロジャーズ!だったものだからファンの期待も相当なものだったと記憶する。彼らがデビューした当時、私は中坊から高校生への移行期だったため、この御両人の偉大さを全然理解してなかったけどね。「シングルの“レディオアクティヴ”ってイイ曲だね」って、この曲ばかり繰り返してよく聴いてたな。お蔭さまで『ヒロくんの選んだ'80年代名曲100選』に堂々21位にランクインしてます(笑)。
 ところが、ネーム・ヴァリューのある2人が組んだにもかかわらず、この『スーパーグループ』ザ・ファームはものの見事にコケてしまった(笑)。シングルの“レディオアクティヴ”も『Billboard』のシングル・チャートで20位台まで上がるのがやっと、アルバムもTOP10入り出来ず、ペイジ翁はZEPPELINからのキャリア上初めて、アルバム・チャートTOP10入りを逃す屈辱を味わうことになった。
 で、世間に冷たくあしらわれたこのアルバム、悪い出来かというと、彼らの名前からすると特別なデキとは思わないけど、こんなに冷たい扱い受けるほど酷い作品とも思わない。ポール・ロジャーズの歌も熱いし(余談だが、このひともルックスと声が一致しない...。あの顔でこの声は想像出来ない)、
ライチャス・ブラザーズのカヴァー“You've Lost That Lovin' Feelings”(邦題は“ふられた気持ち”でしたっけ? ホール&オーツも取り上げてた名曲)の選曲したセンスはこのひとのものだろう。ジミー・ペイジも9分超える大作 “Midnight Moonlight”でZEPPELIN的世界の構築目指して頑張ってるんだから(笑)。今、改めてこの作品を聴くと、トニー・フランクリンのベースが一番元気があることに気が付く。今やそのスジでは有名なスーパー・ベーシストになってる事実を知ってるからそう思えるのかもしれないけど(笑)。ちなみに一番元気ないのはペイジ翁(笑)。
 この作品のリヴェンジを果たすべく、翌'86年に2nd『ミーン・ビジネス』をリリースしたザ・ファーム。このアルバムからの1stシングル“キング・ホーセズ”(“All The Kings Horses”)私は好きだったんだけど、この2ndはもっと惨敗に終わり、ザ・ファーム解体...。
ジミー・ペイジポール・ロジャーズはそれぞれのソロ・キャリアの道を進み、ドラマーのクリス・スレイドはのちにAC/DCに加入、ベースのトニー・フランクリンはジョン・サイクスのバンド、ブルー・マーダーに加入後、スーパー・ベーシストの道を歩んでます。このザ・ファーム...トニー・フランクリンひとり得をしたような気がするのは気のせい? ペイジ翁は「駄作を出した」とのファンの責めに遭い、どんどんお笑いの対象になっていくのでした...ああ。
 このザ・ファームの失敗と、エイジアを追い出されたスティーヴ・ハウと元・ジェネシスのスティーヴ“月影の騎士”ハケットの『Wスティーヴ』が'86年に組んだユニット、GTRが早々にコケて解散したのを契機に
『スーパーグループ』はダメ!...との認識が一気に広まり、『スーパーグループ』ブームは一気にひいてしまったのでした。やっぱり音楽活動って、足し算じゃないのよね。ビッグ・ネームばかり揃えてもダメってことです。ハイ。

THE FIRM Discography
『The Firm』('85, Atlantic 7 81239-2)
『Mean Business』('86, Atlantic 7 81628-2)

(2001.6.18/6.19)

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