File #22
KING OF
KINGS-- King Of Kings
キング・オブ・キングス『キング・オブ・キングス』
(1990年、廃盤)
1. The Phantom Show Of Space And Time
2. Don't You Ever Go Away 3. Seasons Of Eve
4. Written All Over You 5. Mantra 6. The Awakening
7. Shame 8. Burnning Horn 9. Popologist
10. Stone By Stone
11. Dweller On The Seventh Floor (A) Invocation Of The Great
Cosmic Beings (B) A Study In Aesthetics (C)
Locust
1991年というと、ニルヴァーナの『ネヴァーマインド』がリリースされ、大ブレイクを果たした年。俗に「オルタナ・エクスプロージョン」と呼ばれる現象が起こった年であり、ロック史を語るうえで重要な時期のひとつでしょう。この年にはニルヴァーナ以外にも、R.
E.
M.の『アウト・オブ・タイム』、メタリカの『メタリカ』、ダイナソーJR.の『グリーン・マインド』、レッド・ホット・チリ・ペッパーズの『ブラッド・シュガー・セックス・マジック』など、'90年代の音楽を語るうえで欠かせない名盤がリリースされています。
1980年代後半からシーンを席巻してたライトメタル演るスプレーヘア・バンドに皆が飽き飽きした1990年代初頭の音楽シーン。スプレーヘア・バンドの出す音にリアリティーも共感もキッズたちが感じなくなった頃に、シーンに出て来て見事にキッズの心を鷲掴みにしたのがニルヴァーナを中心とするオルタナ勢だったんだけど、アメリカの音楽ギョーカイは1990年代に入ってから「これぞ1990年代の主流になる音楽だ!」と皆が飽き飽きしたライトメタル・バンドに取って替わる候補になるようなバンドをイロイロと大衆に提示していました。(くどいようだけど)大衆が選んだのはニルヴァーナらオルタナ勢でしたけど。その候補だったバンドのひとつが、1991年に『キング・オブ・キングス』でアルバム・デビューを果たしたキング・オブ・キングス(クレジットでは1990年作になっているけど、リリースは日米とも、1991年)。
キング・オブ・キングスのメンバーのプロフィールについては、音楽雑誌『BURRN!』1991年5月号の新人バンド紹介コーナー『STAR
IS
BURRN!』掲載のプロフィールをそのまま転載しておきましょう。私もこれ以上の情報を持ち合わせていないし...(苦笑)。
<経歴> HM/HR系のバンドを数多く手掛けてきたGeffen Recordsだが、このKING OF KINGSは、これまで同レーベルが送り出してきたバンドには見られないユニークなカラーを持っている。3人編成で、ヴォーカルとベースを兼任するデズモンド・ホーンがこのバンドの中心人物だが、彼は今年に入ってから既に2度も逮捕され(罪状は不明)、今も保護観察下にあるという凄まじい経歴の持ち主だ。KING OF KINGSは、そのデズモンドが'88年にNYで結成したバンドで、地元をベースにライヴ活動を始めるが、一時期サンフランシスコでも活動していたこともあるという。それからしばらくしたのち、TESLAのフランク・ハノンを通して、彼らの存在がGeffenに知れ、GUNS N' ROSESやMOTLEY CRUEを発掘したA&R、トム・ズータウによって今回のデビューがもたらされた。
<ラインアップ> デズモンド・ホーン(vo, b)、ケヴィン・オニール(g)、ガス・ハート(ds)
(文・有島博志氏、『BURRN!』'91年5月号『STAR IS BURRN!』掲載)
ガンズ・アンド・ローゼズや復活したエアロスミスが大当たりし、当時のロック・シーンを牽引する存在だったGeffen
Records、彼らが1990年代に入ってイロイロと仕掛けてたのは、'90年にソニック・ユースのメジャ−・デビュ−盤『GOO』をリリースしたことからも分かると思いますが、Geffen
Recordsは最終的にはニルヴァーナの『ネヴァーマインド』のリリースによって'90年代に入ってもミュージック・シーンをリードしてく気鋭のレーベルとして名を馳せていくことになります。ホールもBECKもGeffen
Recordsですね! が、さすがのGeffen
Recordsも最初からオルタナ・バンド一辺倒だったワケではありません。'90年代に入ってからいろんなタイプのバンドを用意してました。パンク色の濃いウォリアー・ソウルとか。このキング・オブ・キングスは、モロに黄金期プログレッシヴ・ロックなサウンドを出してました(笑)。
私がこのキング・オブ・キングスを買ったのは、先に紹介した経歴のうち「彼は今年に入ってから既に2度も逮捕され(罪状は不明)、今も保護観察下にあるという凄まじい経歴の持ち主だ」という部分にひかれたせいですが(笑)、アルバムの中身のほうは、'70年代のプログレ全盛期を彷彿とさせる(まだライトメタルの残党どもが幅を利かせてた当時の音楽シーンから考えると)もの凄い内容。変拍子ばんばんだし、民族音楽から取り入れたと思われる土着的リズムも出てきます。'70年代のプログレの悪しき伝統を受け継いだ組曲形式の14分近い大作“Dweller
On The Seventh Floor”もあるし(苦笑)。このアルバムのプロデューサーは、クィーンやカーズを手掛けたことで有名なロイ・トーマス・ベイカーなんだけど、ロイ・トーマス・ベイカー的なポップな色は殆ど感じられない。ゴリゴリのプログレです。個人的には、コンパクトな“Mantra”が気に入ってましたが、プログレ・マニアには大作主義なところがウケてた模様です(苦笑)。
結局、Geffenが呈示した「1990年代型新タイプ」のバンドのうち、大衆が選んだのはニルヴァーナで、ロック・シーンはグランジ/オルタナ・ブームへと流れて行きましたが、もし、このキング・オブ・キングスが一般大衆の心を掴んでいたら、1990年代はプログレッシヴ・ロックの時代になっていたハズです!(笑) なお、このキング・オブ・キングスを発掘したトム・ズータウはこの後、ストーン・ローゼズの『セカンド・カミング』のリリースに関わり、さらにGeffenから独立してEnclaveレーベルを興し、あのベル・アンド・セバスチャンをワールドワイドにデビューさせることになります。Enclaveレーベルは今はもう無いですけど。
キング・オブ・キングスのほうは、結局このアルバム1枚を出したっきりシーンから消えてしまいました。彼らが消えちゃったのは、デズモンド・ホーンがさらに逮捕歴を重ね、保護観察処分だけでは済まなくなってしまってムショ入りしたためだったりするのでしょうか???(苦笑)
(2003.6.29)