1993年なんでもTOP10

−1993年 ベスト・アルバム10−

by ヒロくん

(1) MARIA McKEE『You Gotta Sin To Get Saved』
(2) COVERDALE・PAGE『Coverdale・Page』
(3) NIRVANA『In Utero』
(4) JELLYFISH『Spilt Milk』
(5) SUEDE『Suede』
(6) PRIMUS『Pork Soda』
(7) ROBERT PLANT『Fate Of Nations』
(8) AEROSMITH『Get A Grip』
(9) THE LEMONHEADS『Come On Feel The Lemonheads』
(10) DINOSAUR JR.『Where You Been』
(殿堂入り) RUSH『Counterparts』

(1) 元・ローン・ジャスティスの歌姫、マリア・マッキーの2ndソロ・アルバム。(もっとも、彼女はアルバムに“This is not a solo album”と書いてはいるが) ローン・ジャスティス時代のメンバーも参加。とてもエモーショナルな歌を聞かせてくれている。カヴァー曲が多いのが難点と言えば難点だが、それを忘れさせてくれるほど、マリアの歌は素晴らしい。

(2) 発売前から話題になっていた、デイヴィッド・カヴァーデイルとジミー・ペイジのプロジェクト。さすが'70年代から活躍している二人のことだけあって、素晴らしい作品を作り上げた。サビが変則コード進行の(2)をはじめ、(1)(3)(4)(6)などさすがで、『腐ってもジミー・ペイジ』といったところか。全曲に参加しているハートのデニー・カーマッシのドラミングも凄い。ただし、カヴァーデイルのヴォーカルに納得できない部分もある。

(3) 今年一番注目された、ニルヴァーナの3rdアルバム。スティーヴ・アルビニ・プロデュースの粗削りの音像の中に、カート・コバーンのメロディー・センスが光る。((1)(3)(5)(9)などが特にそうだ) 一部では前作『Nevermind』を引き合いに出して、『あれ以上のものはやっぱりできなかった』とガッカリする向きもあるが、これだけのものをまだ与えられる彼らは凄い!というべきであろう。

(4) 『'70年代ポップおたく』と呼ばれるジェリーフィッシュの2nd。彼らの音楽性について、『クィーンのモノマネで嫌いだ』(もしくは『好きだ』)と単なる'70年代ポップスの忠実な模倣者とみなしているひともいるが、『過去の遺産カッパライ野郎』がこれほどの作品を作れるものだろうか。特に(1)(2)の流れは鳥肌モノである。

(5) 今年デビュー・アルバムを出した新人でピカ一だったのがこのスウェード。はっきり言って、ブレット・アンダーソンの容姿や腰クネダンス、変態性欲について歌われているという歌詞、『グラム・ロックの再現か』と謳う評論家のスローガンなどには全く興味がない。それなのに彼らを支持するのは楽曲が良いからである(特に(4))。この楽曲には独特の雰囲気があり、ブレットの特異なヴォーカルと共にその歌詞の伝える『官能性』を醸し出している。

(6) “変態”プライマスの1年半振りの新作。レス・クレイプールの超テク・ベースがブイブイバキバキと鳴っている上を、いかにも無理やり出しているような甲高いレスのヴォイスが覆う。とにかく、尋常な世界ではない。が、一度ハマると抜け出せない居心地のよい世界でもある。某雑誌のレヴューで「10年後、『'90年代の90枚』に選ばれる可能性大」とあったが、私もそう思う。

(7) 言わずと知れたプラント御大の6枚目のソロ。このアルバムはかなりポップで、ZEP時代からのファンの間からは『別世界のひとになってしまった』という嘆きの声が聞こえたりするが、曲が良く出来ているし((1)(4)(5)(10)など)、プラント御大の声がとても色っぽく、聞いていてウットリとさせられる。カヴァ・ペジと比べても遜色なし。

(8) アメリカン・ロックの大御所エアロスミスの3年半振りのアルバムは聴く者を圧倒的なド迫力によってねじ伏せる作風に仕上がった。(1)から(4)までの流れは特に強力で、聴く者に息一つつかせないほどである。ただあまりにも『ド迫力』が過ぎて、聴いているととても疲れてしまうのが難点(?)か。

(9) 色男・イヴァン・ダンド率いるレモンヘッズのメジャー移籍第3作目。ポップで短い曲が多く、いろんなタイプの曲が入っている。イヴァン・ダンドの鼻歌で単調になりそうなところを、ジュリアナ・ハットフィールド、ベリンダ・カーライル、リック・ジェイムズなど多彩なゲストを起用し、見事回避。特に半分の曲に参加しているジュリアナ嬢のハツラツとした声はとってもカワユイ。

(10) ダイナソー・Jr.のメジャー移籍後2枚目のアルバムは、こちらの期待を大きく裏切った。これまでの作品と違い、J・マスシスのヴォーカルが随分と淡々としていて、曲調も随分とおとなしくなった。『Bug』『Green Mind』と比べると物足りなく、不満が残る。しかし、(1)(4)(9)(10)など良い曲があったりして、やっぱり見捨てられない。

(殿堂入り) RUSH様の作品を批評するなんて恐れ多い行為は私にはできません。

《総評》
 '93年は特別ズバ抜けて良い作品はなかったものの、それなりに良い作品が多くTOP10を選ぶのに苦労した。
 1位のマリア・マッキーについては、一般音楽雑誌が大きく取り上げることもなかったし、チャート上でもパッとしなかったので、実際に聴いた人も少ないことだろうが、素晴らしい作品である。この作品は誰にでもその良さが分かる『普遍的名盤』では決してないし、いくら薦めても誰も聴かないと思うので、この作品は私だけの『隠し球的名盤』となるだろう。めでたし、めでたし。2位のカヴァ・ペジ、3位のニルヴァーナは順当といったところだろう。どちらも1993年を語るに欠かせないアルバムとなるはずだ。9位のレモンヘッズはほんの1週間前にジョン・メレンキャンプと入れ替え、ギリギリ入選。10位のダイナソーJr.は入れるかどうか迷いに迷ったが、やっぱり見捨てられなかった。
 惜しくも選外にせざるを得なかったのが、一度は選んだが土壇場で外したジョン・メレンキャンプ、もう1つワクがあったら入れたかったウォーターボーイズ、相変わらず高品質の作品を提供してくれたニュー・オーダー、コステロ夫妻が全曲の作詞作曲をしたにもかかわらずあまり話題にのぼらなかったウェンディ・ジェイムズ、シンプルなガールズ・ロックを披露したジュリアナ・ハットフィールドの2枚などである。
 初めて聴いたときは「うわー、これは凄い傑作だ!!!」と感じたテレンス・トレント・ダービーとフィッシュボーンの作品だが、聴き込んでいくうちに当初のインパクトが薄れていき、終いには「普通の作品」と評価を下げてしまった。
 今年1番の名曲(Song Of The Year)はマシュー・スウィートの『碧い瞳の悪魔』、最優秀新人はスウェード(“カヴァ・ペジ”というのは反則だろ?)で決まり。
 '94年も良い作品がどんどん出てくることを祈りたいものである。

('93.12.22)

ヒロくんのプロフィール...富山のローカル洋楽ラジオ番組『KNBポップス'93』の常連。この原稿は『KNBポップス'93』向けに投稿した原稿を発掘、編集したものです。

INDEX