−1994年
ベスト・アルバム10− by
ヒロくん (1) OASIS『Definitely
Maybe』 (1)
ギャラガー兄弟を中心とするマンチェスター出身の新人バンド、オアシスのデビュー作。兄・ノエルの書くポップでキャッチーな曲、それを歌う弟・リアムの粗削りなヴォーカル、ともに将来性を感じさせる。“Rock
N' Roll Star”“Supersonic”“Slide
Away”など名曲が目白押し。'90年代の名盤10枚に必ず入るであろう名作。 (2)
「俺は負け犬だ。殺っちまったらどうなんだ?」と歌い、大ヒットとなった“Loser”を含むBECKのメジャー・デビュー・アルバム。元々フォーク・シンガーである彼が何故か創ってしまった、フォーク、ロック、ラップ、ヒップ・ホップなどをゴチャ混ぜにした究極の音のジャンク・アート。ロック・ファンを「またこういう表現方法があったのか」と感心させ、「こんな下らねぇことする奴がいたのか」と笑わせた、'94年1番のお笑いアルバム。 (3)
ミキちゃん、エマちゃん率いるラッシュの2年半振りとなるアルバム。前作『Spooky』と比較すると楽曲の良さに格段の進歩がみられ、一聴した時とても驚かされた。1曲目の“Light
From A Dead
Star”から“Lovelife”までの流れは圧巻。中盤少しダレるが“Never-Never”などの佳曲もある。彼女たちと同じ音楽性を指向していたライドやジーザス&メリー・チェインが今年、ギター・ノイズ・バンドのイメージを払拭した作品を出したなか、従来の音楽性にあくまでもこだわり、さらなる進歩を遂げたラッシュは偉い。 (4) 前作『Automatic
For The
People』から2年振りとなるアルバム。ムリヤリ脳天気作った前々作『Out
Of
Time』の反動で。ムチャクチャ暗いアルバムに仕上がった前作とうって変わって、明るいアルバム。といっても『Out
Of
Time』と違い、ムリヤリ明るくしようとしているのではなく、自然体に明るいのである。この春自殺したカート・コバーンのことを歌った曲(“Let
Me
In”)が収録されているが、歌詞をみないとどの曲がそれか分からないくらいである。これもバンドの進歩と受け止めたい。 (5)
トレント・レズナー率いる「可愛い憎悪機械」ナイン・インチ・ネイルズの3作目。ヘヴィー・メタル的な音像に迫った前作『Broken』と比べ、今回はより内省的な音を出している。トレント・レズナーは相変わらずネガティヴで悲痛な叫びをあげていて、距離を開けて聴くぶんには、「クズ野郎が泣き喚いてる」ぐらいにしか思わないが、ヘッドフォン・ステレオなどで真剣に対峙した時、彼の側にとりこまれ、自殺したくなってくるので取り扱い注意! (6)
「カート・コバーンの妻」という話題だけが先行していて、肝心の音楽の中身がついていっていなかったコートニー・ラヴ率いるホールが、そのギャップを一気に埋めることに成功したアルバム。音の中身は、典型的なグランジ・ロックだが、“Violet”“Miss
World”“Rock
Star”など曲が良い。ただ、残念なのは、このポジティヴな音が、彼女の最も身近にいる人間の死への願望を止めるのに何の役にも立たなかったことである。 (7)
「トレンディー・ポップス」のバーシアの4年振りの新作。“Drunk
On Love”“Yearning”“More Fire Than
Flame”など曲のほうは相変わらず高品質だが、一聴しただけで、もの凄く凝った作りになっていることが分かった。いったい何ヶ月スタジオに籠もっていたのか知らないが、オタッキーな音作りに、「ほとんどエンヤ、一歩間違えればプロ・グレ」と思ったほどだ。これだけのハイ・クオリティーな作品は「J-Wave垂れ流し」のアホどもにはもったいないと、マット・ビアンコ時代の彼女をリアル・タイムで聴いている私は思ったりするのだ。 (8) 前作『Where You
Been』から1年半で早くも届いた新作。前作が妙に沈んだ作風だったのと比較すると、『Bug』『Green
Mind』に近い、すなわちこちらが「ダイナソーJRの音」と認知している音なので、素直に聴けた。J・マスシスのヨレヨレ・ギターもヨレヨレ・ヴォーカルも健在。ドラマーのマーフがいないのはファンとしては寂しいが、“Feel
The Pain”“Over Your
Shoulder”などの名曲を聴かされると、満足させられてしまう。 (9)
女性の解放された赤裸々な性を歌うリズ・フェアの2nd。彼女と同じ内容を歌っているP・J・ハーヴェイの場合はあまりにもドロドロとした女の情念があふれ過ぎ、聴いていてキツく感じたが、リズ様の場合あっさりしていて聴きやすい。P・J・ハーヴェイが「使用済みのタンポン」だとしたら、リズ様は「多い日も安心のナプキン」といったところか。シングル・カットされた“Supernova”にはミョーなグルーヴ感があり、聴いていて気持ちいい。 (10)
10代でプロ・デビューを飾った早熟バンド、トード・ザ・ウェット・スプロケットの4枚目。「R.
E. M.
とエア・サプライを足して2で割ったような音」という批判もありが、楽曲の良さとグレン・フィリップスの誠実さあふれるヴォーカルがそんな誹謗中傷をどこかへ追いやってしまう。“Something's
Always Wrong”は'94年屈指の名曲。 ('94.12.21) ヒロくんのプロフィール...富山のローカル洋楽ラジオ番組『KNBポップス'94』の常連。この原稿は『KNBポップス'94』向けに投稿した原稿を発掘、編集したものです。
(2) BECK『Mellow Gold』
(3) LUSH『Split』
(4) R. E. M.『Monster』
(5) NINE INCH NAILS『The Downward Spiral』
(6) HOLE『Live Through This』
(7) BASIA『The Sweetest Illusion』
(8) DINOSAUR JR.『Without A Sound』
(9) LIZ PHAIR『Whip-Smart』
(10) TOAD THE WET SPROCKET『Dulcinea』
《総評》
'94年は新人がとんでもない作品を携えてシーンへ殴り込みをかけ、そのおかげでシーンが大いに活性化した年だった。勿論、この新人とはオアシスやBECKを指すわけだが、この2組の作品は歴史的名盤として、語り継がれていくことだろう。
カート・コバーンのそのあまりにも早過ぎる死は別として、今年のロック・シーンで興味深かった動きとしては、BECK、ペイヴメントに代表されるロウ・ファイ・ミュージックの顕在化と、オアシス、エコーベリー、シャンプーなどイギリスから続々とデビューを果した新人たちである。音楽評論家のなかには「何も新しい動きがなかった年」とする人もいるが、少なくとも次に何かが起こるだけの下地ができ、素材が揃った年だったと思う。
惜しくもTOP10から外さざるを得なかった作品としては、エルヴィス・コステロ、プリテンダーズ、エコーベリー、ペイヴメント、モーフィン、ジ・オトゥールズ、シュガー、ブラー、プライマル・スクリーム、クラウデッド・ハウス、フランク・ブラック、パール・ジャムといったところである。特にコステロについては、これが他のアーティストの作品なら間違いなく選んでいたが、才能あふれるコステロ様にこれ以上の作品を望みたいということで、敢えて外した。
今年1番の名曲(Song Of The
Year)はBECKの『ルーザー』、最優秀新人は、インパクトと仕事量ならBECK、歌唱力ならジャフ・バックリィだが、やっぱりオアシスで決まり。
'95年も良い作品がどんどん出てくることを祈りたいものである。