−1996年
ベスト・アルバム10− by
ヒロくん (1)
WEEZER『Pinkerton』 (1)
『泣き虫ロック』なる不本意な呼ばれ方もされているウィーザーのセルフ・プロデュースによる2nd。リック・オケイセック・プロデュースの1stと比べるとあまりにも粗すぎる音像に最初はウルサく感じたが、リヴァース・クオモの書く楽曲の良さは不変。全曲大合唱になった来日公演に象徴されるように、楽曲の親しみ易さがこのバンドの最大の魅力だろう。捨て曲なしで全10曲・35分にまとめあげたのも正解。 (2)
『メロコア』(メロディック・ハード・コア)の大御所・バッド・レリジョンのメジャー第2弾。このアルバムも良い楽曲がたくさん入っている。ただし、アレンジは『メロコア』だからして、アップ・テンポでウルサい演奏なため、せっかくの楽曲の良さが殺されている。長渕剛辺りが演りそうな“Victory”に代表されるように、すべての曲がアップ・テンポでありつつも、憂いを帯びた、哀愁を感じさせる作りになっている。『美味しい楽曲を不適切なアレンジで演奏して、せっかくの素材を殺す』というのは、ある意味ではとても贅沢なハナシだ。 (3)
1996年は『住専』や『厚生省』に代表されるように、社会に対して大きな怒りを感じた年であったわけだが、このレイジ・アゲインスト・ザ・マシーンの2ndは全編、社会に対する怒りに満ちあふれている。「自分ひとりではこのクソみたいな社会を少しも変えることができない」との無力感から来る鑓り場のない怒りを少しでも発散する時に大いに役に立つ1枚。 (4)
『永遠の学園祭バンド』からのスケール・アップを試みたラッシュの3rd。楽曲に親しみ易さが増し、ジャーヴィス・コッカーがゲスト参加した“Ciao!”を始めとして、“Ladykillers”、“Heavenly
Nobodies”、“500 (Shake Baby Shake)”、“Single
Girl”、“Runaway”などポップな佳曲が目白押し。これほどまで美しくも楽しい『ラヴライフ』にあえて背を向け、黄泉の国への旅立ちを決意したクリスの胸中は...(ただただ涙、涙、涙...。) (5)
カリフォルニアはアナハイムを拠点とするノー・ダウトの2ndにして本邦デビュー作。スカとレゲエを基調としたお気楽なロックを披露。グウェン・ステファニー嬢のキュートなヴォーカルもパーティ・ロック・サウンドに彩りを添えている。ノリを重視した1stと比較すると、楽曲のヴァラエティーさとグウェンのヴォーカルの表情豊かさが飛躍的に向上している。 (6)
メタル界では『今年最大の問題作』扱いされているメタリカの5年ぶりのスタジオ作。TVのCFソングとして『お茶の間』にも流れ(てしまっ)た“Until
It
Sleeps”や、メタリカ初のメジャー・コード進行の曲“Hero
Of The
Day”など特殊な曲だけを取り上げて賛否を論ずる向きが多いようだが、メタリカの魅力をラーズ・ウルリッヒのドラムを中心としたサウンドのダイナミズムと捉えている者にとっては、新作ではいささかの魅力を失う事なく進化しているように感じられるのだが...。捨て曲が多いのは確かだが...。(私、ラーズのバス・ドラムの入れ方、好きなんです) (7)
期待のBECKのメジャー第2弾。メジャー・デビュー作『Mellow
Gold』では表情豊かなBECKワールドを開陳していたが、今回はヒップ・ホップ路線に絞り、ホンワカホノボノとしたBECKワールドを披露している。“Novacane”や“High
5 (Rock The
Catskills)”など相変わらずワケのワカらん曲がある一方で“Sissyneck”などギミックに頼らず、楽曲で勝負した印象をもつ曲もあり、BECKの才能の凄まじさを確認できる。ただ、デビュー当時の彼の作品から感じられた殺気のようなものが薄れつつあることが残念だ。 (8) 大傑作『You
Gotta Sin To Get
Saved』から3年、マリア・マッキーの3rdソロ・アルバムは彼女が本領発揮できる『大地に根差したロック』を離れ、ドロドロとした女の情念を描いたものとなった。'70年代を意識したサウンド・プロダクションが取り入れられていて、特に“This
Perfect
Dress”はあまりにも初期のデイヴィッド・ボウイそっくりなものだから、「もしかしてこの曲名、“The
Woman Who Bought The
World”っていうんじゃない?」と思ったくらいだ。でも、何を歌ってもマリアのヴォーカルは天下一品で、彼女の新境地への挑戦を温かく見守りたい。 (9)
コイツら、バカだぁ〜!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!! (10)
『ロック界の安達ヶ原の鬼婆ばあ』ことパティ・スミスが、子供の養育費用を賄うためにリリースした8年振りのアルバム。ここ数年のうちに、親しい友人、実の弟、そして最愛の夫を次々と亡くした彼女が、これらの大切だった人々に捧げた鎮魂的作品。猟銃自殺したカート・コバーン(ニルヴァーナ)の曲“About
A Girl”のアンサーソング?の“About A
Boy”や、最後の一行「till death do us
apart」が胸にズシリとくる“My
Madrigal”などヘヴィーな内容だが、あまりにもヘヴィー過ぎて美しさを感じ取れるくらいである。『鬼婆ばあ』にとって喰われてみるのも悪くない(?)。 (殿堂)
RUSHの作品は私にとって常に批評の対象外です。RUSHの上にRUSHなし! ('96.12.25) ヒロくんのプロフィール...富山のローカル洋楽ラジオ番組『KNBポップス'96』の常連。この原稿は『KNBポップス'96』向けに投稿した原稿を発掘、編集したものです。
(2) BAD RELIGION『The Gray Race』
(3) RAGE AGAINST THE MACHINE『Evil Empire』
(4) LUSH『Lovelife』
(5) NO DOUBT『Tragic Kingdom』
(6) METALLICA『Load』
(7) BECK『Odelay』
(8) MARIA McKEE『Life Is Sweet』
(9) ROCKET FROM THE CRYPT『Scream, Dracula, Scream!』
(10) PATTI SMITH『Gone Again』
(殿堂) RUSH『Test For Echo』
《総評》
私が今年聴いたアルバム130枚のなかから10枚選ぶと上のようになりました。
'96年のロック・シーンのキー・ワードは『喜怒哀楽』。ベスト・アルバムに選ばれた作品を考えると、『喜』は(4)(5)、『怒』は(3)(6)、『哀』は(1)(2)(8)(10)、『楽』は(7)(9)となり、キッチリ色分けできる。とはいっても『これは!』と思うような動きがなかった1年で、去年あれだけ盛り上がった英国勢も停滞気味だし、女性シンガー・ブームも新人青田買い状態で閉塞気味。ブリストル・サウンドやテクノといった新しい動きも、まだ大きな嵐を起こすには至っていない
選外を並べるのは反則と知りつつも、名前を出しちゃうと、ヘイデン、シェリル・クロウ、トレイシー・ボーナム、トーリ・エイモス、ロン・セクスミス、コクトー・ツインズ、アーニー・ディフランコ、レモンヘッズ、スウェード、そしてチボ・マットの作品は選ばれた10枚(特Aランク)と比較しても遜色ない傑作(Aランク)。マリオン、キュアー、アッシュ、ライド、スコーピオンズ、ステレオラブ、ドッジー、スーパードラッグ、フレンテ、そしてジョン・パリッシュ&P.J.ハーヴェイは少し格が落ちるものの、優れた作品を出したと思う(A'ランク)。
最優秀新人はヘイデン。最優秀曲(Song Of The
Year)はラッシュの“500”。ベスト・ライヴはヘザー・ノヴァ(5月12日・名古屋クラブクアトロ)。
来年も楽しいミュージック・ライフを過ごせることを期待したい。