2013年なんでもTOP10

−2013年 美術 TOP10−

by Sweeperさん

1位 カイユボット展ー都市の印象派@ブリヂストン美術館
・エドワード・スタイケン写真展モダン・エイジの光と影1923‐1937@世田谷美術館
・フランシス・ベーコン展@東京都国立近代美術館
・「牧野邦夫‐写実の精髄」展@練馬区立美術館
・佐伯祐三とパリ ポスターのある街角@島根県立美術館
・竹内栖鳳展@東京国立近代博物館
・再興院展100年記念 速水御舟はやみ ぎょしゅう―日本美術院の精鋭たち
・土屋幸夫展@目黒区美術館
・吉岡徳仁‐クリスタライズ@東京都現代美術館
・クレラー=ミュラー美術館所蔵作品を中心に 印象派を超えて―点描の画家たち ゴッホ、スーラからモンドリアンまで@国立新美術館

(1位以外は順位なし)

 竹内栖鳳や速水御舟といった素晴らしい回顧展が見れたのが収穫でした。
 1位はカイユボット展。 カイユボットというあまり知られていない人を取り上げるという姿勢そしてその(ブリジストン美術館の)展示の仕方も含めて大いに楽しめるものでした。

1位 カイユボット展ー都市の印象派@ブリヂストン美術館
ギュスターヴ・カイユボットは、モネ、ルノワール、ドガらとともに印象派の興隆を支えた同派を代表する画家とのこと。正直知らなかったなぁ、というのが第一の感想。都市派とも呼ばれている画風はとくにパリの街並みだけを描いたわけではなくパリ近郊の田園風景なども結構題材にしている。この人はいわゆる画商というか画家のパトロンのような人で自分も描いてみようかなといったらけっこう筋がいいので評価されるようになったらしい。そういうこともあるのですね。ただ40代前半で急逝したのでそれほど作品的にも多くないしこれからというところだったらしい。画風がちょっとユニークというか、遠近感がちょっと独特、写真で撮ったものを絵に描いているような手前がやけに広角気味であるのに対して奥行きがバランスが悪い。言い方を変えると、予め写真で撮ったものをそれを絵に置き換えているようなものとも言える。これを実際にしているかどうか分からないけどこの人の弟が写真を結構撮っている人なのでその写真からのインスパイアということはありうることでもある。色使いはやや明るく淡い色彩が多くその意味では日本人好みなのかもしれない。これを契機に知名度が上がればというのが主催者=収蔵者の狙いでもあるでしょう。

・エドワード・スタイケン写真展モダン・エイジの光と影1923‐1937@世田谷美術館
有名人のポートレイト写真が中心の展示でした。
ヴォーグに飾られる白黒写真のポートレイトは確かに芸術的ではある。
彼自身もこの写真がパリのルーブルに飾られるならもっと見方が変わるだろうに、という趣旨の事を言っている。
商業写真ではあるのでやや単調ではある、面白いのだけどそれだけ。構図もこってはいるのだけど。

・フランシス・ベーコン展@東京都国立近代美術館
溶ける顔
叫ぶ顔
歪んだ顔
対象が殆ど人物であること
背景が殆ど単色であること
構造的な線の重なり
冷ややかな空気感
ガラスが張られた作品には一定の距離感が存在し角度によっては見ずらい
それでも惹かれる作風、この人でないと出せない圧倒する作品からのオーラ
根源的な所から揺さぶらてしまう

・「牧野邦夫‐写実の精髄」展@練馬区立美術館
牧野邦夫の回顧展、この人もこれを見るまで知らなかった。しかし通ではかなり知られたアーチストだったらしい。1986年に亡くなっているけどその後大きく取り上げられることも無かったのかもしれない。今回はたまたま新聞の書評を見てこれは見逃せないと思って行ったけど100%満足してきました。一人の芸術家の回顧展としては(何度も言うけど)500円で見れるこの練馬区立美術館の懐の深さを感じてしまう。レンブラントの影響を自他ともに認めるということで彼の作風は自画像にレンブラント的な要素を取り入れたり精密な写実を試みてそれこそ写真のようなタッチすら見せる。悪魔か妖精なのか彼の絵画脇にはそういう非人間的なものが顔を出している。「武装する自画像」というテーマも多く描いているが何に対しての武装だったのだろうか?これだけの天才的なひらめきと才能がありつつ、傾向が違うとはいえ横尾さんと全く評価が違うのかもしれない。まあ、これ以降牧野邦夫というアーチストを認識出来たのでことあるごとに触れまわればいいのかもしれない。

・佐伯祐三とパリ ポスターのある街角@島根県立美術館
佐伯雄三と同時代の画家とのコントラストが味わえる面白い企画でした。
ひたすら対象を絞り込んでストイックなまでに描き続ける佐伯雄三とそこまでしなくても?という彼の仲間たちとの差はその作品に表れていた気がした。ゴッホとセザンヌやユトリロからの影響を「パリの街角」シリーズ前の作品からは強く感じることが出来る、それを発見できたのは今回の展示会での収獲でした。「パリの街角」以外の作品をパリ郊外で描いた絵はどこか彼らしくない絵にバラツキがあるように思えた、30歳という若さで亡くなっているのでそれは彼自身が感じていた完成に向かう途中だったのでしょう。「パリの街角」の絵は相変わらず迫力があって才能を絞り出してぶつけているその感覚が芸術が分からない人がいてもそれを説得させてしまうようなそういう魅力や魔力がある。

・竹内栖鳳展@東京国立近代博物館
前期と後期の展示物入れ替えがあるだと言う。
見に行ったのは前期展示
「斑猫」は後期展示とのこと。
「金獅子」は息をのむ素晴らしさでした。
日本画と写実的な西洋画法を上手く混在させて独自な表現に成功させている。驟雨に打たれている小鳥とほおずきを滴る水分が伝わってくるような「驟雨一過」蒔絵や水墨画の要素も取り入れそこはシンプルな背景に用いて対象になるものは写実的な精緻な筆先で表現する。
素晴らしい物に触れてよかった。

・再興院展100年記念 速水御舟はやみ ぎょしゅう―日本美術院の精鋭たち
代表作の「炎舞」(1925年(大正14年)は、なんとここ山種美術館の保管なんだそうだ。思ったより小さい絵ではある。近くで初めて見た、この渦巻く炎に取りつかれて舞う蛾のはかなさと美しさが和洋のテクニックを自分の中で昇華させて素晴らしい芸銃になっている。これに似たモチーフの「粧蛾舞戯」も展示されていた、此方も素晴らしい。
淡い水彩画に色を付けて迷いなく一気に描き切っている絵が多く、また一方では琳派の澄み切った絵も的確に描ける技巧を持っていてそのいくつかを見ることが出来た、これらも感嘆するのみ。
ネットで調べていたら、こんなエピソードがあるようだ。
御舟は画商から金を積まれても自分にモチベーションが出ない限り、絵を描かなかった。そんな御舟に画商は「蟻一匹でもいいから描いてくれ」と必死に頼み込み、やむなく御舟は大きなキャンバスに小さい蟻の絵を描いた。
取組に急ぐあまり40歳で急逝したとのこと、震災や戦災でかなりの作品が無くなったとのこと。
残された天才のひらめきを感じられてそれはいい経験になりました。

・土屋幸夫展@目黒区美術館
武蔵野美大の教師をしつつCMアートや商業装丁や家のデザインまでも手掛けていていた土屋氏の作品が実はアヴァンギャルドなものが前提だった、というものでした。作風はマルグリッド、岡本太郎、キュービズムと色々出てくるので絞りにくいし作品を貫く筋は見えにくいが、生活の為に仕事したのだろう装丁を見て残されているアート作品を見るとナルホドと思わせるところである。こういう機会が無ければ知るきっかけも無かっただろう、この企画に感謝である。

・吉岡徳仁‐クリスタライズ@東京都現代美術館
インスタレーション、現代美術、もしくは商業アートでもある、クリスタライズ
やたら大きい展示モノが圧倒させられる。それだけでなくこれをアートとして認める度量が素敵です。これはしっかりとしたコンセプトとこれを制作するにあたって周りを納得させることも非常に重要なのだろうね。山奥にこれがあっても成立しない、やはり都会で存在することで成立する現代アートなのかもしれない。

・クレラー=ミュラー美術館所蔵作品を中心に 印象派を超えて―点描の画家たち ゴッホ、スーラからモンドリアンまで@国立新美術館
点描画が如何にモンドリアンにたどり着くのか?その過程順に見せてくれる構成が興味深かった。
スーラ、シニャックが点描画と言えば有名だけど、こんなにその技法をする人達がいたのか?という驚きがあります。あのゴッホだって点描画から発展したものだ(指摘されれば確かにそうだ)。セザンヌだってそういう手法を使っていた時期があった。混ぜることなく原色は原色のままで色を混ぜない、これを分割主義都言うらしいその技法は色と色をぶつけることでその色が際立つという手法なのだそうだ。まあ美術では当たり前の技法なのだろうけど対になる要素を利用する方法はなかなか面白く、単に欧州の一美術館の収蔵品コレクションの公開という見せ方でないのがとてもいい企画だったと思います。

(received '14.1.21)

Sweeperさんのプロフィール...故・ウクレレ前田さんのブログ『裏声喫茶』の常連さん。13年続けて『なんでもTOP10』に参加いただき、こっちのほうでもすっかり常連さん。どうもありがとう!

 

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