I'm not giving in
To the security under pressure
I'm not missing out
On the promise of adventure
I'm not giving up
On implausible dreams-
Experience to extremes-
Experience to extremes-
(“The Enemy Within”より)

RUSH--Grace Under Pressure
RUSH『グレイス・アンダー・プレッシャー』
(1984年、国内盤 : イーストウエスト AMCY-2298)
1. Distant Early Warning 2. Afterimage 3. Red Sector A
4. The Enemy Within 5. The Body Electric 6. Kid Gloves
7. Red Lenses 8. Between The Wheels

produced by RUSH and Peter Henderson

 前作『SIGNALS』からいわゆる「ポリスの時代」と呼ばれる近未来路線に踏み込んだRUSHが1984年にリリースした12作目。『SIGNALS』以後、RUSHは当時の英国のニュー・ウェイヴ系のアーティストからのエッセンスを貪欲にカッパラい、ニュー・ウェイヴからテクノあたりの音像に急速に接近した。2nd『FLY BY NIGHT』から前作までの10枚のプロデュースを手掛け、『4人目のメンバー』とまで呼ばれたテリー・ブラウンのコンビネーションを発展的に解消した彼らは、英国のニュー・ウェイヴ系のプロデューサーを次々に声を掛けた。フィクスやハワード・ジョーンズらを手掛け、当時のブリティッシュ・インヴェーションにひと役買ったルパート・ハインに声を掛けたものの、どうしてもスケジュールが致わず、な、なんとまあ、あのスティーヴ・リリーホワイト先生とタッグを組んだ! だけど、やっぱりこの組み合わせにはムリがあるってことでリリーホワイト先生、イチ抜け(笑)。結局、ピーター・ヘンダーソンと組むことになった。
 こうしてプロデューサーの人選に手間取りなんとかリリースに漕ぎ着けたのがこの『GRACE UNDER PRESSURE』と名付けらたアルバム。タイトルは「圧力の下でも優雅に」という意味で、ジョン・F・ケネディーの座右の銘でもあったらしい。このアルバムはRUSHの作品の中で一番キーボード類を多用していて、アルバムのサウンドをライヴで再現するためにキーボード・プレイヤーを加入させる案が検討されたのもこの頃のハナシ。しかし、「3人で演ってこそRUSH」となんとかこの案の実行は思いとどまった。また、機材の面でも大きな変化があって、ゲディ・リーがスタインバーガーのベースを弾き('80年代の漫画『TO-Y』(上条淳士)を憶えてるひと、あの漫画で出てきたヘッドレス・ベースを思い出して!)、ニール・パートがシモンズなどのエレクトロニック・パーカッションを導入している。
 1曲目の“Distant Early Warning”はアルバムを代表する名曲。ヴィデオ・クリップにゲディ・リーの長男ジュリアン君が登場したのも話題に。次の“Afterimage”はRUSH初の日本でのシングルカット曲。亡くなった彼らのスタッフ、Robbie Whelan に捧げられた曲。この14年後にまたこの歌詞が重大な意味を持ってくるとは、当時誰も思ってもみなかった...。“Red Sector A”も今やアルバムを代表する名曲で、ライヴではゲディ・リーがキーボードに専念する。歌詞では強制収容所を思わせるシーンが描写され、最も近未来的に響く。
 “The Enemy Within”は、スタジオ前々作『MOVING PICTURES』収録の「Part three」から始まった『Fear』3部作の「Part one」にして完結編。世の中の恐ろしいもの...三番目が「偏見」(Witch Hunt (Part three of Fear))、二番目が「あなたの嘘」(The Weapon (Part two of Fear))、そして一番恐ろしいものが「内なる敵」(The Enemy Within (Part one of Fear))...という締めになっている。後述するようにこのアルバムのツアーでは「Part one」から「Part three」の順に演奏されていた。“The Enemy Within”の曲じたいは、レゲエをテンポアップしたリズムパターンが印象的。
 アナログ時代はB面1曲目だった“The Body Electric”はヒューマノイド(人造人間)の逃亡者を題材にした曲で、英米ではこちらがシングルカットされたようだ。“Kid Gloves”は5拍子で始まり、ポップな展開を見せる曲 アルバムの中で一番明るい曲かも。異色曲なのが“Red Lenses”。RUSHでイントロ無しの曲はこれくらいなものだろう。キーボードやシモンズなどのエレクトロニック・パーカッション多用でヘンな世界に導かれる。重いキーボードのイントロで始まる“Between The Wheels”はずっと重めで曲が進むけど、サビの部分で急に開けていくのが特徴。
 以上、収録曲に関して簡単に説明したけど、今本屋に並んでる某名盤ガイド本には...『重い。ポスト・パンク期の世紀末ムードとバンド周辺の不幸が、絶望的までに重く暗い異色作を生み出した。ポリスの影響が顕著だが、ニュ−・ウェイヴの前のめりな焦燥感まで表現した時代感覚に舌を巻く傑作。全米10位。』...などと書かれてる。他の記事にも『ポップ風味は皆無』と書かれるなど酷い扱いなんだけど(苦笑)、またRUSHファンでは無かったものの、当時のシーンでどう言われてたか、しっかり憶えてるゾ、私は! 『だいぶポップになって聴き易くなった』って言われてたんだよ、コレ(苦笑)。今のガイド本にそういうふうに書かれるのはこの後の作品のほうがず〜っとポップだからでしょう(笑)。
 このアルバムと前作『SIGNALS』はレディオヘッドの『キッドA』あたりを聴いて喜んでる今のロック・ファンに是非聴いてもらいたい。15年以上も前にこんな音があったんだって。
 さて、このアルバムをリリースして約半年後、RUSHはデビュー10年目にして初めて日本でライヴを演りました。そしてこの後、一度もジャパン・ツアーは行っておりません! RUSHの歴史上、もっとも極端な方向に行ったこのアルバムの時に唯一の来日とはラッキーなのかどうか解りませんが...(苦笑)。巷間伝えられてるセット・リストは以下のとおりですが、『GRACE UNDER PRESSURE TOUR』の模様を収めた公式ライヴ・ヴィデオと殆ど同じ流れです。この時実はニール・パートは単なる短髪のようでいて、実は「三つ編みおさげ」でした(笑)。いつみても笑えるぅぅぅ〜!!!
【SET LIST】...'84.11.21 日本武道館
1. The Spirit Of Radio
2. Subdivisions
3. The Body Electric
4. The Enemy Within (Part one of Fear)
5. The Weapon (Part two of Fear)
6. Witch Hunt (Part three of Fear)
7. New World Man
8. Between The Wheels
9. Red Barchetta
10. Distant Early Warning
11. Closer To The Heart
12. YYZ
13. Tom Sawyer

(encore)
1. Red Lenses
2. Vital Signs

('01.5.1)

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