Hold your fire-
Keep it burning bright
Hold the flame 'til the dream ignites-
A spirit with a vision is a dream with a mission(“Mission”より)
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RUSH--Hold Your
Fire produced by Peter Collins and RUSH |
前作『POWER
WINDOWS』と同じく、プロデューサーにピーター・コリンズを迎え、イギリスで録音、さらにはパリでミキシング...と、場所を変えながら時間をかけてゆったりとレコーディングしたためか、前作から約2年間のインターバルの後に1987年9月にリリースされた14作目(スタジオ盤として12作目)。収録曲の“Mission”の歌詞の冒頭の一節からとり、『HOLD
YOUR
FIRE』と名付けられたこの作品は、そのタイトルが示すとおり炎を思わせる情熱的な赤色のジャケット(笑)。これまでの彼らの歴史のなかでアルバムのリリース間隔がこんなに開いたのは初めてで、前作『POWER
WINDOWS』からRUSHファンになった私は、『SIGNALS』から『POWER
WINDOWS』までのスタジオ録音盤がすべて1年半くらいの間隔でリリース去れてるのに着目し、「次のRUSHの新作は1987年の春にリリースされる」と信じて疑わなかったため、たった半年待たされただけでも随分と『お預け』を喰った気がしたもんです(苦笑)。リリース間隔の話すると、このアルバムから『COUNTERPARTS』に至るまでのスタジオ盤の場合、2年間隔が「お約束」になります。
9thアルバム『MOVING PICTURES』が、その前作『PERMANENT
WAVES』の延長線上にあるように、この『HOLD YOUR FIRE』は前作『POWER
WINDOWS』の延長線上にある作品といえ、『POWER
WINDOWS』で目指した音像の完成型がここで示されてると考えることも出来ます。この『HOLD
YOUR
FIRE』について、なかには「完成度を優先するがあまりロックならではのダイナミズムまでも失った」とか「フュージョンみたいになった」とか「ハードロック風味は皆無で退屈なポップスに堕落した」などと批判する向きもありますが、裏をかえせば、これらのセリフはすべてそのまんま誉め言葉(笑)。
ここで、このアルバム収録曲を順に見ていきましょう。本作がリリースされた1987年、時代はちょうどアナログからCDへの移行期にあたります(日本盤でRUSHのアナログ盤がリリースされたのは、本作が最後)。これまでアルバム・トータル・タイムを40分前後(アナログの片面20分ずつ)を意識してた彼らもCD時代の到来を考慮し、アルバム・トータル・タイムを約50分、10曲入りとしました。旧アナログのA面の1曲目は“Force
Ten”。当時の日本盤(今もか...苦笑)の対訳では「force
ten」を「第10部隊」と訳してますが、これは「風力10」という意味です(笑)。後にリリースされた『A
SHOW OF HANDS』の日本盤での対訳では「force
ten」を「最大風力」というふうにちゃんと訳してるケド...(苦笑)。ちなみに、風力の基準や階級は日本と欧米では違い、日本は12階級制、確か、欧米は10階級制を採ってるハズで、彼らが歌う「風力10」とは日本で言うところの「風力12」に相当します(笑)。
このアルバムを代表する曲として“Force Ten”と双璧になる“Time Stand
Still”は、当時はまだティル・チューズデイに在籍中だったエイミー・マンがゲスト・ヴォーカルとして参加。単に声だけの参加に留まらず、プロモーション・ヴォデオにも登場してます(笑)。エイミー・マンが参加したせいだけとは思いませんが、RUSHの歴史で一、二を争うポップな楽曲に仕上がりました。ただし、フツウのポップスとは違い、変則リズムの箇所があるので、初心者の耳にはやたらと引っかかりがあるふうに聴こえることでしょう(苦笑)。
続く“Open
Secret”は、アレックスのエモーショナルなギター・プレイが聴ける佳曲で、エンディングのゲディーのベース・プレイも素晴らしい。“Second
Nature”はこのアルバムでは地味な部類に入る曲で、今から考えると、スタジオ録音盤としては次の作品となる『プレスト』に収録されている曲とつながるモノがあるのかな...と思ったりも...(苦笑)。旧アナログA面の最後の曲となる“Prive
Mover”は(前作『POWER
WINDOWS』収録の“Marathon”同様)、ベース・リフが印象に残る、明るくポップで前向きな曲です。
旧アナログB面のアタマに収録されていた“Lock And
Key”は、明るく前向きに終わったA面の続きとして聴くとビックリするくらい、重く仰々しいイントロで始まり、♪I
don't want to face the killer instinct〜face it in you or
me〜...とゲディーの叫びにも似た高音ヴォーカルが乗ります。この曲の冒頭部を初めて聴いた時、「どんなにヘヴィーな曲が始まるのか!」と、思わずステレオ・セットの前で身構えてしまいましたが、イントロの仰々しさに比べると中身はそれほどでもなかった(苦笑)。だけど、『SIGNALS』からこのアルバムに至る『第3期』の楽曲のなかでは、一番ヘヴィーじゃないかな。アレックスのギターも攻撃的で、エンディングのニールのドラムも凄まじい。
前にも述べたとおり、このアルバムのタイトルの由来になっている“Mission”は、どちらかというとおとなしいポップな曲です。が、間奏に入った途端、変拍子ばんばんの『RUSHスタイル』に突入。当時発売されてたバンドスコアでは、「この曲は、間奏部分と歌のある部分とはまるっきり別の曲なので、分けて練習しましょう」ってな感じのアドヴァイスが載ってた記憶があります(苦笑)。もっとも、RUSHも自分らの技量を見せつけたいだけがためにこの曲の間奏を変拍子ばんばんのド派手なインストにしたんじゃなくて、間奏が終わりゲディーのヴォーカルが再び入る部分♪It's
cold
comfort〜以下の静寂をより際立てるためにはあのド派手な間奏は必須なのでしょう。そこまで計算し尽くされた曲構成です(苦笑)。間奏だけじゃなく、エンディングのアレックスのギターもドラマティックで素晴らしい出来。この曲が好きだと言うRUSHファンはかなりの数に上ると思います(笑)。
延々と繰り返されるリフで始まる“Turn The
Page”も、間奏でアレックスの攻撃的なギター・プレイが聴けます。日本盤の解説に載ってたアレックスのインタヴューによると、『MOVING
PICTURES』の頃のプレイをかなり意識してるようで、個々のプレイだけ抽出して聴くと『MOVING
PICTURES』的なギター・プレイをしてるようにも思います。が、ブ厚いシンセの壁のせいかギター・プレイが目立たっていないような...(苦笑)。
次の“Tai
Shan”は、日本語で書くと「泰山」で、ニール・パートの中国旅行の体験を元にした曲。そのため、イントロに尺八の音色のシンセが...(苦笑)。RUSHのファンのなかでも不人気曲の筆頭として(苦笑)名が挙がる曲だけど、私はそれほど嫌いではない(ただし、ライヴで他の曲をさしおいて演奏されたら怒る!...苦笑)。アルバムの最後に収められた“High
Water”は、ニールのドラム・リフ(特に、タムタムの音色)が印象に残る曲。たぶん、この曲もファン受けは悪いんでしょうけど、『SIGNALS』以降のきらびやかな(いわゆる)『第3期』から地味と呼ばれる『PRESTO』への橋渡しにはピッタリな曲だと思います(なんのこっちゃ!...苦笑)。
RUSHは『PERMANENT
WAVES』以降の6枚のアルバムが全部、『Billboard』のアルバム・チャートのTOP
10
にランク・インしてたんですが、このアルバムの最高位は13位に終わり、連続TOP
10
入りの記録も途絶え、さらには2005年現在まだプラチナム未達で、売り上げ的には『第3期』のなかでも最低なんですが、このアルバムに続いて発表されたライヴ盤『A
SHOW OF HANDS』に多くの曲が収録(“Turn The
Page”、“Mission”、“Force Ten”、“Time Stand
Still”)され、ライヴ・ヴィデオのほうではさらに“Prime
Mover”(米盤LDの初回盤のみ“Lock And
Key”)も入ってるので、チャート上の記録が止まったにも関わらず『失敗作』とか『不人気作』という感じが不思議なほど全くしません(苦笑)。ただ、この当時は、「オレがRUSHのファンになったから、記録が止まっちゃったのかな?」...って感じで、決して気持ちがイイものではありませんでしたが(苦笑)。
ちなみに、このアルバムのインナーのアートワークでは、『第3期』の終わりにふさわしい遊びを行ってます。
『EXIT...STAGE
LEFT』のジャケットでは、それまでリリースされていたRUSHのアルバムのアートワークを飾った「登場人物」を勢揃いさせるお遊びをやってましたが、『HOLD
YOUR
FIRE』のインナーのアートワークでは『SIGNALS』以降のジャケットを飾った「登場人物」が勢揃してます。『SIGNALS』の消火栓、『GRACE
UNDER PRESSURE』と似たような字体のレストランのネオン、『POWER
WINDOWS』のブラウン管、そして『HOLD YOUR
FIRE』の火の玉。他にも、時計の針が『21:12』を指してる...とか、他にも捜せばイロイロと『お遊び』が見つけられるハズ(苦笑)。
音の話に戻りますが、前作『POWER
WINDOWS』同様、ポップでとっつき易いので、この作品もRUSH入門者にはピッタリかもしれません。このアルバムを聴いて、変拍子や変則リズム・パターンや仰々しいインスト部分に耳惹かれるようなら、RUSHファンになる素質が十分にあります。他の作品にも手を広げてみましょう!(笑)
ここから先では、個人的な思い入れを語るので、そーゆーのが鬱陶しいひとはINDEXへお戻りになって結構です。
『HOLD
YOUR FIRE』と私
私がRUSHファンになって初めて、発売日にレコード屋に行って買ったアルバムがこの『HOLD
YOUR
FIRE』でした。前述のとおり、この頃のRUSHには「1年半おきにアルバムをリリースする」という法則めいたものがあったため、1987年の春ごろから新作のリリース情報をチェックしてました。とは言っても、当時は今と違ってネットがあるワケでもアーティストのオフィシャル・サイトやメーリング・リストがあるワケでもなく、RUSHはFMやAMラジオが熱心にその動向を逐次伝えてくれるような一般ウケ・アーティストでもなかったので、情報の収集はあくまでも紙媒体が主。しかも、紙媒体でもRUSHを頻繁に取り上げてくれる雑誌は『BURRN!』や楽器関係の雑誌ばかり。そのため、1987年の春からは毎号『BURRN!』のニュース欄を立ち読みし、RUSHの新譜情報を収集してました。RUSHの新譜情報収集だけのために買うには、『BURRN!』はチト高過ぎた(笑)。今では毎号『BURRN!』を買ってっけど(爆笑〜!!!)。
RUSHの新譜からの曲を発売前に聴くには、今では(何度も言うとおり)ネットってものがあるので、新曲のさわりだけでも試聴出来るサイトがイロイロあるので何ら苦労しませんが、当時はそんなものなんか無いので、『FM
fan』に載ってる番組表をチェックしました。NHK
FMの夜の看板番組『クロスオーバーイレブン』でRUSHの“Time Stand
Still”がアルバム発売前にかかる(『EXIT...STAGE
LEFT』や『SIGNALS』のライナーノーツを書いてた小倉エージさんが選曲に関わってたせい?)予定なのを目ざとく見つけ、放送当日は録音の準備をしてラジカセの前で待ち構えてました(苦笑)。失敗することなく録音した後は、勿論、何度も何度も聴き狂ってました。そうしているうちに、いよいよ日本盤発売日の1987年10月21日がやって来ました(ちなみに、アメリカでの発売日は9月8日。いかに日本でのリリースが遅れてたかがよく分かる)。
(『Poetry
Of The Month』でも書いたけど、)発売日の10月21日には自分のいつもの行きつけのレコード店(今は無き山蓄総曲輪店)で貯めたサービスポイントを使って値引き購入するつもりでした。が、その店ではすでにLPは品切れ(CDしか置いてなかった)。CDプレイヤーはまだ持って無かった私、あわてて家に帰って親にお小遣いの前借りをして別のレコード店(これまた、今は無きフクロヤ総曲輪店...苦笑)でLP買った...そんな想い出があります(笑)。
アルバムを買ってからは、毎日のように『HOLD YOUR
FIRE』を聴いていた...と、言いたいところですが、当時私は高校3年生。大学受験が数ヶ月後に控えてた身で、親の目も厳しかったので『POWER
WINDOWS』ほど多くは聴くことはなかったです。だけど、私にとって間違い無く『青春の一枚』ではありますね...(苦笑)。
('05.11.30)