If you choose not to decide
You still have made a choice
(“Freewill”より)

RUSH--Permanent Waves
RUSH『パーマネント・ウェイブス』
(1980年、国内盤 : イーストウエスト AMCY-2295)
1. The Spirit Of Radio 2. Freewill 3. Jacob's Ladder
4. Entre Nous 5. Different Strings
6. Natural Science I. Tide Pools II. Hyperspace III. Permanent Waves

produced by RUSH and Terry Brown

 前作『HEMISPHERES』はわずか4曲入り。大作耽溺主義が極まりを見せたともいえるところでRUSHが1980年にリリースしたアルバム『PERMANENT WAVES』は、それまでRUSHが発表してきたものと比較すると、コンパクトでキャッチーな楽曲が収められており、『2112』〜『 A FAREWELL TO KINGS』〜『HEMISPHERES』の流れ(いわゆる『プログレ3部作』)と明らかに一線を画してます。アルバムのアタマの“The Spirit Of Radio”のイントロからして、今までと違い、明るく開放的で「変わったな」と感じさせらる。RUSHのアルバムがここまで明るく始まるのはデビュー作『RUSH』以来でしょう(笑)。ニール・パートもヒゲ剃ったし(笑)。この『大風呂敷広げ路線』からコンパクトでキャッチーな楽曲への路線変更は功を奏し、このアルバムは英米でチャートのTOP 10入りを果たす大ヒットを記録し、RUSHはビッグ・ネームの仲間入りを果たします。日本でもようやくRUSHの存在が注目を集めるようになったようで、この『PERMANENT WAVES』と次の『MOVING PICTURES』でRUSHのファンになった...というひとが実に多い(笑)。日本のRUSHファンの主力は完全にこの世代ッス(笑)。
 このアルバムの収録曲を順に見ていきましょう。オープニングは華麗なるリズム・チェンジで始まる“The Spirit Of Radio”。このイントロのカッコ良さに殺られてRUSHのファンになったひとが多い。RUSHの代表曲の1つです。この曲では「ラジオの在りかた」が皮肉まじりに歌われています。この曲の終盤のレゲエ・パートに、サイモン&ガーファンクルの“Sound Of Silence”の歌詞のパロディーがあるって聞くけど、サイモン&ガーファンクルに思い入れの無い世代であり、なおかつ英語が堪能ではない私にはイマイチ面白味が解りません...(苦笑)。
 2曲目の“Freewill”(邦題は“自由意志”)。♪if you choose not to decide〜you still have made a choice〜(もし何も決めないことにしたにしろ、それはひとつの選択になっているのだ[沼崎敦子・訳])...という歌詞の一節はあまりにも有名(私たち『ファン』の間だけで...笑)。この曲はサビの部分がキャッチーさと、間奏でのギターのハード・ドライヴンさの落差が大きい。このアルバムがリリースされた1980年といえば、英国でニュー・ウェイヴ・オブ・ブリティッシュ・ヘヴィー・メタル(NWOBHM)の嵐が吹き荒れ、「ヘヴィー・メタル」という新しい音楽ジャンルが確立された頃。RUSHの音楽を指すのに「ヘヴィー・メタル」という言葉を使われてるのをこの時代よく見ました。今ではRUSHをメタル・コーナーに置くレコード店はほとんど無いけど、当時はかなりそういう見方をされていたようです(笑)。この“Freewill”あたりを聴いて、「メタル」と思ったひとが多かったのかな???(笑)
 このアルバムからサウンドが変わったと...よく言われるけど、いきなり物語モノをやめたワケではなく、3曲目の“Jacob's Ladder”(邦題は“ヤコブの梯子〜旧約聖書創世記より”)は比較的、大作路線のRUSHの空気を残してます。「旧約聖書創世記より」などと仰々しい日本語サブタイトルのせいではないと思うけど(苦笑)、この曲からは高貴な空気を感じます。ここまでが旧アナログA面でした。
 旧アナログB面の1曲目“Entre Nous”(邦題は“アントレ・ヌ〜私たちの間に”)も明るく開放的で、♪just between us〜っていうサビがキャッチーな曲。「entre nous」って「between us」っていう意味ですね。
 次の“Different Strings”(邦題は“異なる糸”)は、アコースティックな音造りがされた曲。この後、RUSHはシンセサイザーをバリバリ導入するディジタル化路線を突き進むので、このようなアコースティックな曲はここで最後になります(笑)。この曲はゲディ・リーの作詞で、今のところニール・パートが作詞に関与しない最後の曲になってます(今売られてるリマスター盤には「Lyrics by Peart」ってなってるけど、これは間違いでは???...汗)。あと、RUSHのアルバム・ジャケットのアートワークを手掛けてることでお馴染みのHugh Syme が、この曲でピアニストとして参加してることでも知られてます。昔のアルバムには「Hugh Syme : piano on “Between Us”」ってクレジットされてました。「私たちに混じってHugh がピアノ弾いた」っていう意味と“Entre Nous”を引っ掛けたシャレのつもりだったんでしょうけど、「Hugh がピアノ弾いてるのは“Entre Nous”だ」と勘違いするひとが居るので(私も昔そうだった...笑)、修正したようですね。
 最後の収録曲“Natural Science”(邦題は“自然科学”)は、9分を超える組曲形式の曲。RUSHが組曲形式の曲を演るのは今のところこれが最後になります。この組曲も今までRUSHが演ってきた組曲と明確な違いがあります。今まではストーリーに沿った組曲を披露してたけど、この“Natural Science”にはストーリーが無いってことでしょう。アレックス・ライフソンが弾くアコースティックな旋律で静かに始まり、ヘヴィー・メタリックになり、最後は行進曲のように前向きな感じで終わるこの曲はファンの間でも人気が高く、『TEST FOR ECHO』のツアーで復活して、ライヴ盤『DIFFERENT STAGES』に収録された時には多くのファンが喜びました。
 こうして、振り返ってみた全6曲...全然コンパクトじゃないやん!...とツッコミたくなりますが(笑...なにしろ大作主義のさなかに作られた『A FAREWELL TO KINGS』と同じ曲数)。確かに“Jacob's Ladder”の高貴性や“Natural Science”の組曲は、大作主義を引きずってます。完全に脱皮したワケじゃないです。だから、次のひと押しで『MOVING PICTURES』が出た...と(笑)。だけど、これまでのRUSHに無いくらいポップでキャッチーになってます。曲の長さよりもサウンドが劇的に変わった...ということで御理解願いたい(笑)。
 この『PERMANENT WAVES』、RUSHの出世作としての評価が定まってるけど、私自身よく聴くかと言うと...あまり聴きません(笑)。っつうのは、録音状態(音質)が悪いから(笑)。今のリマスター盤では幾らか改善されたと思うけど、旧アナログや旧CDではペラペラ薄っぺらい音でした。だからこの『PERMANENT WAVES』の曲は、ライヴ盤『EXIT...STAGE LEFT』や『DIFFERENT STAGES』収録のライヴ・ヴァージョンで聴くことが多いです。ライヴ盤のほうがスタジオ盤よりも音質が良いって一体...???
 話は変わりますが、この『PERMANENT WAVES』のアルバム・ジャケットはアルバム・タイトルにちなんでたくさんの「waves」が描かれてますね。パーマネント・ウエイブをかけた女性、津波、そして電波などなど。あと、細かい『お遊び』もやってます(笑)。女性の右側に描かれた建物には「LEE」「Peart」「Lifeson」と、RUSHのメンバーの名前が書かれた看板が立ってます。これはアナログ世代ならみんな気付いてると思いますが(笑)、CD時代にRUSHのファンになったみなさん、どーですか?(笑)
 あと、この『PERMANENT WAVES』のアルバム・ジャケットには複数のヴァージョンがあります。端的に言うと、US盤とそれ以外の国ではジャケットが違うんですね。どこが違うかというと、ジャケットの左下に描かれてる新聞。

 
旧・日本盤(カナダ盤)

現在の日本盤(US盤)

 新聞の見出しが『ある・ない』の違い(笑)。この新聞の見出しは、1948年のアメリカ大統領選挙の際、『Chicago Daily Tribune』紙が打った『世紀の大誤報』。1948年のアメリカ大統領選挙は、事実上、現職大統領のハリー・S・トルーマン候補とトマス・E・デューイ候補の一騎討ちになったんですけど、『Chicago Daily Tribune』紙は『DEWEY DEFEATS TRUMAN』(デューイがトルーマンを破る)と見出しを打ったワケ。実際にはトルーマンが再選を果たしましたが(笑)。『世紀の大誤報』と呼ばれるゆえんだけど、RUSHがこの新聞の見出しをアルバム・ジャケットに使おうとしたところ、『Chicago Daily Tribune』紙側に大マジに拒否されてしまい(笑)、アメリカの法律の及ばない地域では『誤報の見出し』はそのまま、アメリカ盤だけは見出しを消した状態で流通しています。日本盤も昔は新聞見出しアリの状態で出てたけど、1997年のリマスター盤リリースを機にアメリカ盤と同じ扱いになりました。何故、RUSHが『世紀の大誤報』をアルバムのアートワークに使おうと思ったのかはよく分かりませんケド...(苦笑)。


誤報の新聞を持ち、得意げなトルーマン大統領

 私は、誤報ってあまり見たことないですねぇ。一番記憶に残ってる誤報は、1984年に毎日新聞が打った『グリコ犯逮捕! 威信賭け執念の手錠』っつうヤツですね(笑)。RUSHに関係ない話ですみませんした(ぺこり)。

('02.4.28)

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