No, his mind is not for rent
To any god or government
Always hopeful, yet discontent
He knows changes aren't permanent-
But change is(“Tom
Sawyer”より)
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RUSH--Moving
Pictures produced by RUSH and Terry Brown |
大作耽溺路線を放棄し、コンパクトな楽曲づくりに軸足を動かした前作『PERMANENT
WAVES』で人気が爆発したRUSHが1981年にリリースした9作目。当初、『PERMANENT
WAVES』リリース後にはライヴ・アルバムを発表するつもりだったけど、『PERMANENT
WAVES』の製作でつかんだ感覚を忘れないようにするため急遽スタジオ作に変更されたといういきさつにより、この作品は明らかに『PERMANENT
WAVES』の延長線上にある作風で、『PERMANENT
WAVES』以上の大ヒットを記録。ファンの間でもこの『MOVING
PICTURES』こそRUSHの最高傑作!...とする声が高い。実際、この作品がRUSHの作品のなかでも一番売れてるし、間違い無く代表作ではあります。昔ほど難解な大作もなく、コンパクトにまとめ、ちょっとポップな味付けもなされてる...確かに、RUSH入門にはうってつけではあります。実際、RUSHというバンドを知るためにどれか1枚だけアルバムを聴くなら、私だってこのアルバムを薦めます。というのは、このアルバムから過去の大作耽溺的作品を遡って聴いても違和感ないだろうし、逆に時代を下りてきて'80年代中期以降のポップなRUSHを聴いても違和感ないハズ。大風呂敷広げてた時代からポップなテクニカル・ロック時代への橋渡し的アルバムだから(このアルバムを「橋渡し的」って呼んだら、熱心なマニアから怒られそうだケド...苦笑)。要は、このアルバムを聴いてRUSHっつうバンドの姿を見誤ることはないだろう...つうことです。そういう意味で、このアルバムはRUSH入門者に最適ですね。ただし、このアルバムがホントにRUSHの最高傑作なのかというと、ちょっと疑問もありますが...。
ここで、このアルバム収録曲を順に見ていきましょう。旧アナログのA面の1曲目でシングル・ヒットにもなった“Tom
Sawyer”は御存知、マーク・トゥエインの有名な小説『トム・ソーヤの冒険』の主人公の少年の名をとった曲。このアルバムのリリース以降、RUSHのライヴで必ず演奏される代表曲...ホントによくも悪くもRUSHを代表してる(笑)。よく、RUSHの曲を「リフのつなぎ合わせで創ったような」と形容(時には批判)されることがあるけど、この曲こそリフのつなぎで創った典型例ですから(笑)。そもそもこの曲はゲディ・リーがキーボードをテストする際に弾く「テスト・フレーズ」から発展した曲だし(笑...曲の中盤以降のキーボード・フレーズのこと)。
続く“Red Barchetta”は、Richard S. Foster というひとの『A Nice
Morning
Drive』という小説にインスパイアされたもので、カー・チェイスの模様を見事に描写した佳曲。個人的な話で恐縮ですが、この曲こそ私が覚えてる最古の「RUSH体験」。1981年に地元・富山ローカルの自動車販売店のラジオCMでこの曲が使われていたのを聴いてました(笑)。6年後に『EXIT...STAGE
LEFT』(ライヴ盤)聴いて、「あ、あの時のCMソングって“Red
Barchetta”だったんだ」って気付いた(笑)。ちなみに、この曲の邦題は“赤いバーチェッタ”ですけど、カー・マニアのひとに言わせると「この邦題は間違い」らしい(笑)。‘Barchetta’(イタリア車の名前)の日本での名称は「バルケッタ」だそうです。私はクルマに詳しくないからホントにそうなのかは知らないけど、「“赤いバルケッタ”に直すべき!」と、そのひとは力説してました。でも「バルケッタ」って聞くと『オバケのQ太郎』のO次郎を思い出して困るんですけど...(それは「バケラッタ!」...笑)。
A面3曲目の“YYZ”はインストゥルメンタル曲。「YYZ」とはRUSHの地元、カナダのトロント国際空港の認識コード。国際空港には必ずアルファベット3文字のコードが割り振られてます。成田なら「NRT」、関空なら「KIX」、新潟なら「KIJ」、小松なら「KMQ」、そして富山なら「TOY」...。で、トロントの場合は「YYZ」。この曲のイントロはモールス信号で「YYZ」を表すリズム・パターンが延々と繰り返されてる(笑)。この“YYZ”はRUSHの曲のなかでも特に人気の曲で、ライヴでは観客が曲に合わせて「エア・ギター」や「エア・ベース」、そして「エア・ドラム」をまさぐります(笑)。日本のRUSHファンサイトにおける人気投票でも1位になってる。だけど、そんな人気曲がベスト・アルバム『CHRONICLES』('90年)や『RETROSPECTIVE』('97年)にも収録されていないのは...謎だ!
次の“Limelight”は、シングルカットされてヒットした人気曲。同じシングル・ヒットといってもハード・ドライヴィンな“Tom
Sawyer”とは違って、こちらはポップ。スタジオ作としての次作『SIGNALS』以降のポップな方向性がこの時にもう定められてたのかな...と思ってますが。歌詞では、ステージ上でロックスター演ることについての葛藤が歌われてます。私もこの曲が大好きです。RUSHの曲のなかでも5本の指に入るくらいの名曲! ここまでの旧アナログA面の4曲は完璧! 非の打ちどころなし。
では、旧アナログB面を見ていきましょう。“The Camera
Eye”は今のところ「RUSH最後の10分超える曲」(笑)。仰々しいイントロの割りには歌が入るとストレート(変拍子だけど...笑)で拍子抜け。「Part
III of‘Fear’」というサブ・タイトルがついた“Witch
Hunt”は偏見と先入観、そして集団心理の恐ろしさを描いた曲。イントロの群集の叫び/わめき声のSEがハードなギターで寸断されるところを聴くと、どんなにうるさいメタル・ナンバーが始まるのか!...と思わず身構えてしまいますが、歌が乗ると、拍子抜けするくらいフツウなんだよな(苦笑)。この曲は某デス・メタル・バンドが完全にデス・メタル・アレンジに変更してカヴァーしてるそうですけど、私にはこれを聴く勇気がありません...(笑)。ちなみに‘Fear’3部作は、Part
III →Part II →Part
I...の逆順に発表されていきます。次の『SIGNALS』にPart II (“The
Weapon”)、さらにそのまた次の『GRACE UNDER PRESSURE』にPart I (“The
Enemy
Within”)が収録されてます。発表順が逆になったのは...単なる偶然だそうです(笑)。
充実したA面に比べると、B面は明らかに弱い。B面最後の“Vital
Signs”もどうってことのない曲だし...。だから、私はこの『MOVING
PICTURES』をRUSHの最高傑作とする意見にかなり抵抗があります。旧A面の4曲だけを収録したアルバムなら、そりゃあ最高傑作だろうけど...(苦笑)。
さあて、話は変わりますけど、アルバムのジャケットに描かれてるもの...あれは「移動中の絵」ですね。これは誰が見ても解ると思います。で、私は言われるまで気が付かなかったんですけど(苦笑)、この「移動中の絵」を見て感動してる人びとが映ってます。さらに裏ジャケットを見ると、表ジャケットの図柄が映画の一部分だった...と解るオチがついてます。すなわち、「移動中の絵(moving
pictures)を見て感動してる(moved by
pictures)人びとを撮影した映画(moving
pictures)」なワケです。さらに、インナースリーヴのアーティスト写真は↓コレ↓だし...(笑)。
...というふうに、RUSHのみなさんはかなりシャレが解るひとたちなんです(笑)。キーボードのテスト・フレーズから曲作ったり、地元空港の認識コードから曲作ったり、アートワークでもお遊び満載(笑)。このホームページ『SPILL THE BEANS!』と長く付き合って下さってるひとなら、何故私がRUSHが好きなのか、解ったでしょ?(笑) ...っつうか、RUSHファンが運営してるページだからこんなサイトになったのか...(苦笑)。
('02.3.10)