世界一怖かったクリスティン・ハーシュ
私がスローイング・ミュージズ(以下、ミュージズ)のクリスティン・ハーシュという女性シンガーのことを知ったのは、一度解散してたミュージズが1996年に復帰作『リンボ』をリリースした頃。当時の私はクリスティンの異母姉妹タニヤ・ドネリー率いるベリーのファンであり、そのタニヤが昔、ミュージズに所属してたことも知識としては知っていた。だからベリー(この'96年にはもう解散が発表されてたけど)のファンだった私の興味は自ずからミュージズに向かってった。そんなタイミングでミュージズの復帰作『リンボ』がリリースされたワケだけど、同じ頃発売された音楽雑誌『rockin'
on』'96月号掲載のクリスティンのインタヴューで、中本浩二氏が彼女のことを「相当特異なキャラクターの持ち主」と決めつけてたのが実に印象深かった(笑)。中本氏によると、昔行なったインタヴューで「ジョン・レノンが私に降りてきたのよぉ」とわけのわからないことを口走ったことがあるらしい(笑)。ところがこの『リンボ』に伴うインタヴューではマトモな答えしか返って来ず、キャラクターの特異性が全く暴けなくて悔しがる中本、「ちっ。」(爆笑〜!!!) で、実際にミュージズの『リンボ』聴いてみたけど、いたってフツウの内容で、私には何故『rockin'
on』中本氏がクリスティンのことを「相当特異なキャラクターの持ち主」呼ばわりするのか、全く解らなかった(笑)。ところが、その翌年、私はクリスティンの、真の『恐ろしさ』を、知ってしまったのである...。
当時、私は熱狂的なガービッジ・ファンで、上京するたびに西新宿でブートレッグ・ヴィデオを買い漁るほど(笑)彼女たちにハマってた。そんなガービッジがあるCDに参加してるという情報を聞き、私はそのCDを買って聴いた。
Sweet Relief II〜Gravity Of The Sutuation--VARIOUS ARTISTS |
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(import : Columbia CK
67573) |
車椅子のシンガー・ソングライター、Vic
Chesnuttの治療費を工面する目的で、有名アーティストがVicの曲をカヴァーしたチャリティー・アルバム『スウィート・リリーフII』。勿論、このアルバムの1曲目のガービッジ提供曲“Kick
My
Ass”(『G』のツアーの時の主要レパートリー)を目的に買ったワケだけど、アルバムのなかで一番耳に残ったのがクリスティンの提供した“Panic
Pure”。アコースティック・ギター(以下、アコギ)1本をバックにして録られたこの曲は、私にはとっても恐かった...。子供のような純真さを真直ぐな歌声に乗せて聴くもののハートに向けて豪速球を投げてくる...そんな印象があった。曲名どおりPure過ぎてこちらはPanic状態になるというか...(苦笑)。
で、この“Panic
Pure”を聴いた日からクリスティンの名前は「恐ろしいシンガー」として私のなかにしっかり名前が刻み込まれたのだった(苦笑)。
トドメを刺したのが、'98年リリースのクリスティンのソロ第2弾『ストレンジ・エンジェルズ』。このアルバムも基本的にクリスティンのアコギ1本での弾き語りで録られた作品で、アルバム全体が“Panic
Pure”みたいな凄まじい作品!!! 私はこのアルバム聴いて、「今、世界一怖いシンガーはクリスティン・ハーシュ」と勝手に認定しました(笑)。で、『rockin'
on』中本の言ってた「相当特異なキャラクターの持ち主」の意味がようやく理解出来ました(笑)。
クリスティンがこの頃怖かったのは、彼女がちょうどアパラチアン・フォークにハマってたからのようなんだけど...。アパラチアン・フォークとはアメリカ北東部のアパラチア地方の子守唄で、日本の子守唄が一部残酷なテーマを扱うのと同じように、人が殺されたり、恋人たちが自殺を謀ったり、歌われている内容は狂気に満ちてオドロオドロしい。その大集成が'98年に通信販売オンリーでリリースされたアパラチアン・フォーク集『Murder,
Misery And Then
Goodnight』と思われます。残念ながら、私は未聴ですケド...(苦笑)。たぶん、聴いたらあまりの恐ろしさに小便漏らしちゃうんじゃないかと...(汗)。怖くて買えませ〜ん! 聴けませ〜ん!!!(泣)
子守唄で歌われる内容が残酷なのは洋の東西を問わないようですが、大人はよく子供の純真さを有り難がりますけど、子供が純真であるがゆえに行なう残酷な行為があるじゃないですか。平気で蝶々の羽根をむしりとったり、カエルをつぶしたり、アリジゴクの巣にアリさんを落としたり。大人に成長してからこれらの行為をやったらまず「???」と思われますけど、これらの子供の純真の裏側の残酷な行為については大人は目をつぶりがちだよねえ。忘れたフリしたり、見なかったことにしたり...。話は逸れたけど、この頃のクリスティンの歌には子供のような純真さとそれと対をなす残酷さが籠ってました。だから、怖かったんじゃないかと...(汗)。
ここ数作のクリスティンの歌に感じられるものはピュアネス以外には...厳しさ!(苦笑) クリスティンの歌声聴いてると、♪岩をくだく波のような〜ぼくの父親〜(“四季の歌”!...爆笑!!!)っていうフレーズを思い出す。純真なひとほど、間違ったことが嫌いでしょ? そういう厳しさが感じられるんだよねぇ...(汗)。そういえば、クリスティンの歌の歌詞には疑問形がたくさん出てくるような気もします。歌詞カードみても「?」が多いし。聴く者に多く問いかけをしてるとも、とれますよね。
この厳しさは『ニューヨーク・パンクの女王』と呼ばれたパティ・スミスと共通するように感じたりもしますが...。決して、1stソロのプロデューサーがレニー・ケイだから言うわけじゃなく(苦笑)。
'99年リリースの『スカイ・モーテル』や'01年リリースの最新作『サニー・ボーダー・ブルー』では、最初の2枚(『Murder,
Misery〜』も含むと、3枚)のソロ・アルバムで聴かせてたアコギ1本での弾き語りスタイルを放棄し、バンド・サウンドふうの音造りにヴァリエーションが広がったから、昔ほど怖くは無くなった。...と、思ってたけど、改めて聴いてみると、やっぱり怖かったッスよ...(汗)。クリスティンの歌には聴く者の心に突き付けてくるものが必ずある。いつも詰問受けてる感じ。それが彼女の歌の特徴だろうし、彼女の歌からそれが消える日が来ない限り、クリスティンの歌は、怖い...。
あ、ミュージズのことについては端折りましたけど、残念なはら、ミュージズについて私は語るべき言葉を持ってません。マニアの方、ごめんなさい(ぺこり)。ミュージズ抜きのクリスティン・ハーシュ特集ってのは不完全なのは自分でもよ〜く分かってるんだけどね...。
Hips
And Makers (import : Sire/Reprise 9
45412-2) Strange
Angels (国内盤 : ビデオアーツ
VACK-5385) Murder,
Misery And Then Goodnight (import : 4AD M-1) Sky
Motel (国内盤 : ロック・レコード
RCCY-1073) Sunny
Border Blue (国内盤 : ロック・レコード
RCCY-1103)
1. Your Ghost 2. Beestung 3. Teeth 4. Sundrops
5. Sparky 6. Houdini Blues 7. A Loon 8. Velvet Days
9. Close Your Eyes 10. Me And My Charms
11. Tuesday Night 12. The Letter 13. Lurch
14. The Cuckoo 15. Hips And Makers
スローイング・ミュージズの活動停止中の'94年にリリースされた最初のソロ・アルバム。プロデューサーにニューヨーク・パンク・シーンの立役者、レニー・ケイを起用。ここですでにアコースティック・ギター1本の弾き語りのスタイルを披露してる(“Beestung”はピアノ弾き語り)。グランジを先取りしたと言われたノイジーなサウンドを信条とするミュージズのクリスティンがこのようなアコースティックなサウンドを披露したことについて、当時は驚きをもって迎えられたそうだけど、アコギとチェロが迫りくるイントロが怖い“Sundrops”や、突然のサビのハイトーンが怖い“Me
And My
Charms”、「16歳の情緒不安定な時に書いた怖い曲」とクリスティン本人も認める“The
Letter”など、今のクリスティンを知ってる者が聴くと、昔からこうだったのね...っつう感じ(笑)。“Your
Ghost”にR. E.
M.のマイケル・スタイプがゲスト・ヴォーカルで参加。
1. Home 2. Like You 3.
Aching For You
4. Cold
Winter Coming 5. Some Catch Flies 6.
Stained
7. Shake 8.
Hope 9.
Pale 10.
Basehall Fields
11.
Heaven 12.
Gazebo Tree 13.
Gut Pageant
14. Rock Candy Brains 15.
Cartoons
「クリスティン以外のメンバーが音楽だけで食べていけないから」というスゴい理由?でスローイング・ミュージズが解散した後の'98年にリリースされた2ndアルバム。このアルバムも1stソロと同じく、全編クリスティンによるアコギ弾き語りで、バックにストリングス隊が薄く音をかぶせてく感じ。アパラチアン・フォークの影響が一番濃い作品だろうか? アコギの旋律が波のように押し寄せる“Gazebo
Tree”が特に怖い...。「strange
angel」とは、クリスティン、あなた自身のことですか???
1. Down In The Willow Garden 2. I Never Will Marry
3. Sweet Roseanne 4. Poor Ellen Smith 5. Pretty Polly
6. Little Birdy 7. Mama's Gonna Buy
8. Fly Around My Blue Eyed Girl 9. Banks Of The Ohio
10. Three Nights Drunk
11. What'll We Do With The Baby-O
12. Whole Heap Of Little Horses
'98年に通信販売でのみ発売された3rdソロ・アルバム。アメリカ北東部アパラチア地方のトラディショナル・フォークばかりを集めた子守唄集。残念ながら、私は未聴。
1. Echo 2. White Trash Moon 3. Fog 4. Costa Rica
5. A Cleaner Light 6. San Francisco 7. Cathedral Heat
8. Husk 9. Caffeine 10. Spring 11. Clay Feet
12. Faith
虫の鳴き声のSEで始まり、オシャレなエレピ?とパーカッションのイントロで幕を開け、明らかに音造りが変わった'99年リリースの4thアルバム。アコギ1本の弾き語りスタイルをやめ、エレクトリックなバンド・サウンドに変化。生ドラムとドラム・ループは他人の力を借りているものの、ほとんどの楽器の演奏をクリスティン自身が行なってる。従来どおりアコギ弾き語りスタイルの曲もあれば、“A
Cleaner
Light”などストレートなロック・スタイルの曲もある。『Sky
Motel』というタイトルやアルバムのジャケットにあるとおり、霞がかったように焦点がボヤけたつかみどころのないアルバムかも(苦笑)。このアルバムでは“Spring”が一番怖い! エンディングは虫の鳴き声で静かにフェイド・アウト。
1. Your Dirty Answer 2. Spain 3. 37 Hours 4. Silica
5. William's Cut 6. Summer Salt 7. Trouble
8. Candyland 9. Measure 10. White Suckers 11. Ruby
12. Flipside 13. Listerine
'01年にリリースされた現時点での最新作。このアルバムでもバンド・サウンドがメインだけど、エレクトリックだった前作と違って、クリスティンのアコギの弾き語りの後ろに薄くバンドの音をかぶせてくスタイル。ほとんどの楽器演奏はクリスティン自身によるもの。サウンド的には前作よりも従来のスタイルに少し戻ったハズなのに、内容的には前作とあまり変わり映えしないような気がするのは不思議(笑)。いきなり“Your
Dirty
Answer”というキツいタイトルの曲で始まるところがクリスティンらしい(苦笑)。続く“Spain”は歌声は怖くても気分の高揚をもたらす曲で、ここらへんの風通しの良さが最初の数枚と近作の作風の違いを感じさせる原因かも? “Trouble”はキャット・スティーヴンスの曲。
クリスティンの作品をどれか聴くとしたら、最初の2枚のうちどれかにしましょう。これを聴いて「怖い!」と感じるアナタ...私の仲間です(笑)。
('02.3.24/3.25)