17年目(!?)の『オペレーション:マインドクライム』
ヘヴィー・メタル/ハード・ロックの世界において、1980年代を代表する名盤、もしくはオール・タイム・ベストなコンセプト・アルバムとされているクィーンズライクの『オペレーション:マインドクライム』(1988年)の続編、その名も『オペレーション:マインドクライムII』が18年の時を経てリリースされた。
QUEENSRYCHE--Operation : Mindcrime II |
|
|
(国内盤 : ワーナー
WPCR-12262) |
コンセプト・アルバム、すなわちストーリーに基づいた作品だった前作同様、この『〜
II』においてもストーリーに沿ったロック・オペラ的音楽世界が展開されてる。
前編ではこの物語の主人公であるニッキーが殺人のかどで逮捕され、精神病院(もしくは、麻薬中毒患者更正施設)に収容されるところで話が終わってる。前作から『〜
II』リリースまでの18年という時間はそのままニッキーが刑務所で服役してた期間に相当し、ニッキーが刑期を終えてから『〜
II』の物語が始まるという設定。『〜
II』について話すその前に、そもそも『オペレーション:マインドクライム』とはいったい何ぞや???
QUEENSRYCHE--Operation : Mindcrime |
|
|
(国内盤 : EMI TOCP-67169) |
『オペレーション:マインドクライム』はクィーンズライクにとって4thアルバム(デビュー・ミニ・アルバムを含む。以下、同様の扱い)。このアルバムがリリースされた1988年といえば洋楽界は、ティファニーやデビー・ギブソンなどのティーン・アイドルが人気で、プリンスの『LOVESEXY』のアルバム・ジャケットが物議を醸していた頃(笑)。私は大学進学を果たし、松本でひとり暮しを始め、大学生になって始めたバイトで稼いだお金は、高校生の時に買いたくても買えなかったアルバムを買うことに費やされ、今のように評判の新譜を次々買い漁るようなマネはしていなかった。したがって、私が『オペレーション:マインドクライム』を買ったのは、雑誌『BURRN!』の1988年度読者人気投票のベスト・アルバム部門でチャンピオンに輝き、海外ではアルバム・リリース後のツアーとプロモーション・ヴィデオが話題を呼んだせいで『Billboard』のアルバム・チャートを再浮上し始めた1989年のこと。リリースより1年遅れての購入だったけど、“Revolution
Calling”をはじめとしたパンチのある楽曲、ジェフ・テイトの高音ヴォーカルと圧倒的な歌唱力、効果音や会話を挿入し「耳で聴く『映画』」などと評された緻密な構成力、インスト“Anarchy-X”の劇的さ、“Suite
Sister
Mary”での聖歌隊を思わせるコーラスの神々しさなどのドラマ性に魅せられ、すっかりお気に入りのアルバムとなり、1989年の夏頃はこのアルバムかメタリカの『メタル・ジャスティス』ばかり聴いてたような気がする(笑)。『〜
II』が前作から18年ぶりのリリースというのに、この文章のタイトルが「17年目(!?)」になっているのは、私にとっては17年目にして出会う待望の続編だったから(笑)。「間違い」じゃないからね!(笑)
個人的には、1986年リリースの3rd『炎の伝説』(『Rage For
Order』)、1990年リリースの5th『エンパイア』も傑作だと思うけど、世間では(セールス的には『エンパイア』のほうが上だろうが)「クィーンズライクの代表作は『オペレーション:マインドクライム』」が定説となっている。そこまで傑作&名盤扱いされる『オペレーション:マインドクライム』の内容ががどういうストーリーだったか、ここで振り返ってみたい。音楽雑誌『BURRN!』2006年4月号の「緊急特集 『OPERATION
:
MINDCRIME』の世界」という特集で、広瀬和生編集長が前作のストーリーについて1曲ごと事細かに解説してる。その特集に載ってる<あらすじ>がとても解り易く、『オペレーション:マインドクライム』を知らないひとにストーリーを知ってもらうのに最適と感じたものだから、ここで紹介します。
<あらすじ> 組織犯罪の黒幕ドクターXは、ヘロイン欲しさに何でもやるような自堕落な若者達を洗脳して悪の手先として操っていた。ニッキーもそんな若者の1人で、彼はドクターXに“殺し屋”として雇われていた。腐敗したアメリカ社会に憤りを感じ、自分がやっていることは革命のために必要な任務だと信じているニッキーだが、現実に彼がやっていることは、ヘロインを手に入れるために人を殺しているだけだ。そんな彼が唯一、心を許した存在がシスター・メアリーだった。メアリーが、自分の罪を洗い流してくれる…そう信じて救われた気持ちになるニッキー。だがある時、ドクターXから新たな“任務”を受け取る。それは、「メアリーと神父を殺せ」というものだった。メアリーは、実はドクターXの組織の連絡係であり、また組織の男達に身体を与えて慰める売春婦でもあった。ウィリアム神父は不幸なメアリーの弱味につけこんで彼女を弄び続けてきた悪徳神父であり、ドクターXの組織に属している。メアリーを愛するニッキーは任務と愛の狭間で苦悩するが、彼女が自らの屈辱に満ちた境遇を告白した時、ニッキーの心は決まった。「神父を殺して彼女と逃げる」と。神父も反撃しようとするが、ニッキーは首尾よく彼を射殺してメアリーと共に脱出する。ヘロイン中毒のニッキーは禁断症状に苦しみながら、新たな人生をメアリーと共に生きようとする。しかし、ドクターXの間の手は彼らの幸福を奪う。メアリーが殺されてしまうのだ。しかも、その容疑はニッキーに掛けられる。真に愛した者を失ったニッキーは絶望し、精神を病んでいく。総てがどうでもよくなったニッキーは殺人容疑で逮捕され、記憶喪失の中毒者として病院に収容される。廃人同様のニッキーは、恐ろしい過去を時折思い出しては苦痛に叫ぶ日々を送るのだった…。 (音楽雑誌『BURRN!』2006年4月号p.30より)
これで前作のストーリーはお分かりになっただろうか?(笑) ここからは『〜
II』の話。
『〜
II』は、6th『プロミスド・ランド〜約束の地』以来地味な作品が続き、ギタリストのクリス・デ・ガーモが脱退したこともあり、ファンからの支持を次々と失っていった(私も、9th『トライブ』は買ってない)近年のクィーンズライクからするとズバ抜けた出来で、「やれば出来るじゃないか!」と誉めたくなる内容。前作を彷佛とさせるドラマ性や神々しさも垣間見れるため興奮したりしたけど、冷静になってみれば、多くのファンが感じてるように、前作を超えることは出来なかった...と、私も思う。
『〜
II』のストーリーについて、音楽雑誌『BURRN!』2006年5月号でクィーンズライクのジェフ・テイトがインタヴューで語っているけど、それによると、『〜
II』のテーマは「復讐と後悔」らしい。
前作から18年、ストーリーのほうでは20年の歳月が流れ去っている設定になっている。記憶を取り戻し、20年の刑期を務め出所したニッキーは、自分とメアリーを酷い目に遭わせたドクターXに復讐心に燃えていた。しかし、一方で「そんなことをしてどうするの?」と問う今は亡きメアリーの声が聞こえて来る。ニッキーはそんなメアリーの声を抑え、ドクターXと対決し、彼を射殺する。「ドクターXに復讐する」ことだけを目的に生きていたニッキーは、ドクターXを殺してから人生に意味が全く見出せなくなり、後悔の念に駆られる。結局、生きてる意味が無いことを悟ったニッキーは自殺する...というのがストーリーのアウトライン。サウンドのほうもこのストーリー内容に沿ったドラマティックなもので、ドクターX役として、ロニー・ジェイムズ・ディオが登場する“The
Chase”あたりは聴いてるだけで盛り上がってしまったが(苦笑)、「革命」、「腐敗」、「洗脳」という言葉が勇ましく踊ってた前作に比べ、『〜
II』のほうは「復讐」と「後悔」...ちょっとテーマとして弱い気がする。前作のほうは、ドクターXとの出会い〜組織加入〜作戦遂行〜メアリーとの出会い〜神父射殺〜メアリー死亡〜メアリーの殺人容疑で逮捕〜ショックのあまり精神病院に収容...というふうに場面が次々と変わり、展開がめまぐるしく、それをサウンドで忠実に表現した結果が『オペレイション:マインドクライム』という傑作となって結実したとすれば、『〜
II』のほうは、出所〜復讐〜後悔〜自殺...と前作に比べると展開が地味で、その結果前作を上廻る作品にはならなかった(なれなかった)のかもしれない。
ただ、世の中には映画にしろ小説にしろ、大評判だった作品の続編がショボいということは多々あり、なかには前作の評判すら貶めてしまうような駄作もあることを考えると、今回の『〜
II』は、前作の評判と威厳にキズを付けることもなく、前作を超えはしないものの続編として素直に楽しめるという意味では『優れた続編』といえる。今後も前作同様に『〜
II』も愛聴していきたいと思う。
ところで、1983年のミニ・アルバムでの日本デビュー以来、ワーナーに移籍する1999年まで「クィーンズライチ」という日本語表記がなされていた彼ら、最近ようやく本来の発音に近い「クィーンズライク」で日本語表記されるようになったけど、未だに「クィーンズライチ」のほうが個人的にはしっくりくる。1993年頃にTBSが昼の0時台に『クイズランチ』っていうクイズ番組をやってたせいか、はたまたロッテから出てた商品『クイッククエンチ』のせいか...(苦笑)。
(2006.5.27)