カーディガンズのベスト盤について考える

 スウェディッシュ・ポップのトップ格バンドであるカーディガンズのベスト盤が今年2月にリリースされた。
 1990年代半ばに『渋谷系』ともて囃され、絶大な人気を誇った彼女たち。ここ数年は日本のおける状況は地味だけど、時たま『SUMMER SONIC』に出演するなと根強い人気はまだ維持してる。彼女たちの音楽をこれから聴きたいと思う新しい音楽ファンも居るだろう(日本盤の解説で妹沢奈美さんが書いてるように、マニック・ストリート・プリーチャーズの『センド・アウェイ・ウィズ・タイガース』収録の“Your Love Alone Is Not Enough”にニーナが参加してることをキッカケにしてこのベスト盤を買おうと思ったひとってホントに居るの?...苦笑)。
 そこで、このベスト盤の中身を検証してみたいと思う。

The Best Of

(国内盤 : ユニバーサル UICY-1399)
1. Rise & Shine 2. Sick & Tired 3. After All... 4. Carnival
5. Daddy's Car 6. Lovefool 7. Been It 8. Losers 9. War
10. My Favourite Game 11. Erase/Rewind
12. Hanging Around 13. Higher 14. For What It's Worth
15. You're The Storm 16. Live And Learn
17. Communication 
18. I Need Some Fine Wine And You, You Need To Be Nicer
19. Don't Blame Your Daughter (Diamonds) 20. Godspell
21. Bonus Track 22. Burning Down The House

 この他に、初回限定盤としてBサイド曲やレア・トラックを収録したボーナス・ディスク<Disc 2>付の2枚組(UICY-90791/2)がリリースされている。
<Disc 2>
1. Pooh Song 2. After All... (Demo '93) 3. I Figured Out (Demo '93) 4. Laika
5. Plain Parade 6. Emmerdale 7. Carnival (Puck Version) 8. Happy Meal I
9. Nasty Sunny Beam 10. Blah Blah Blah 11. Losers (First Try) 12. Country Hell
13. Lovefool (Puck Version) 14. War (First Try) 15. Deuce 16. The Road
17. Hold Me (Mini Version) 18. Hold Me 19. If There Is A Chance 20. For The Boys
21. (If You Were) Less Like Me 22. Slowdown Town 23. Give Me Your Eyes 24. Slow

 曲順は彼らの足取りをデビュー時から順に並べたもので、初心者には彼らの歴史を知るにはとても分かりやすい編成となっている。が、1st『エマーデイル』から3曲、日本で爆発的なセールスを記録した2nd『ライフ』からはたった2曲しか選ばれていない。“Lovefool”のヒットで世界的な人気を得た3rd『ファースト・ムーン・オン・ザ・ムーン』からの3曲は妥当としても、日本での人気の陰りがみえてきた4th『グラン・トゥーリスモ』から4曲、長期のバンド休止を経てリリースされた5th『ロング・ゴーン・ビフォー・デイライト』から4曲、現時点での最新作の6th『スーパー・エクストラ・グラヴィティ』から3曲がそれぞれ収録されている(残り3曲は、トム・ジョーンズのアルバムに入ってた“Burning Down The House”と映画『普通じゃない』提供の“War”、新曲の“Bonus Track”)。つまり、日本での人気が頂点に達してた頃の曲が少なく、日本での彼女たちの存在が地味になってきた頃の曲の収録が多い...という、日本人の感覚からするとかなり「???」な内容になっている。
 ま、彼女たちにしてみれば、日本での人気が無くなってきても、ヨーロッパ方面じゃあ磐石の人気を誇ってるし、特に、地元・スウェーデンでの人気がいまだ凄いものがあるらしいので、日本だけを相手に商売してるワケじゃないんだろうけど、もし、これからカーディンガンズの音楽を聴きはじめようとするひとが居たとしたら、私はこのアルバムは薦めません。やっぱ『ライフ』と『エマーデイル』を先に聴いてナンボでしょう。このアルバムは、「昔は熱心にカーディガンズを聴いてたけど、21世紀に入ってからの彼女たちの音楽は聴いたことがない」という『かつてファンだったひとたち』向けだと、私は思っとります。
 ただ、個人的には「名曲」だと思ってた“Higher”が収録されていて、これだけはとっても嬉しかったです。彼女たちもこの曲は自信作だったのね〜♪
 なお、このベスト盤に収録されてる“Bonus Track”は、『コロンブスの卵』的な瞬間芸ですなぁ〜(笑)。「これまで誰もやらなかったから、僕たちがやるよ」みたいな(苦笑)。

 
3rdリリース時(1996年)のカーディガンズ
 
いま

The Cardigans Discography

Emmerdale

(国内盤 : ユニバーサル UICY-3260)
1. Sick & Tired 2. Black Letter Day 3. In The Afternoon
4. Over The Water 5. After All... 6. Cloudy Sky
7. Our Space 8. Rise & Shine
9. Celia Inside 10. Sabbath Bloody Sabbath
11. Seems Hard 12. Last Song
 1994年にインディーズの『Trampolene』からリリースされた記念すべきデビュー・アルバム。トーレ・ヨハンソンがプロデュースし、タンバリン・スタジオでレコーディングされたこの作品は、次のアルバムとともに'90年代中盤に『渋谷系』のオシャレなサウンドとしてもて囃され、多くのフォロワーを生み出した。BONNIE PINKや原田知世などの日本人アーティストがタンバリン・スタジオに押し掛け、トーレのプロデュースで作品を仕上げるなど、特に日本においては影響が大きかった。ニーナの舌足らずなロリロリ・ヴォーカル、ポップな表情をもつ音色、万華鏡のようにいろんな表情をみせるサウンド。10年以上経った今でも全然古さを感じさせない究極のオシャレなアルバム。ポップ一辺倒なワケではなく“After All...”のようなナイトクラブのBGMのような曲、ダークな“Our Space”もある。“Sabbath Bloody Sabbath”はブラック・サバスのカヴァーで、予備知識が無ければ彼女たちのオリジナルと思ってしまうほど、自己流にアレンジし、消化し切ってる。

Life

(国内盤 : ユニバーサル UICY-6590)
1. Carnival 2. Gordon's Gardenparty 3. Daddy's Car
4. Pikebubbles 5. Tomorrow 6. Beautiful One
7. Travelling With Charley 8. Fine 9. Sunday Circus Song 
10. Hey! Get Out Of My Way 11.Closing Time
12. Sick & Tired 13 Rise & Shine 14. Celia Inside
15. After All... 16. Sabbath Bloody Sabbath
 トーレ・ヨハンソン・プロデュース、タンバリン・スタジオ録音で、前作の延長線上の作風の1995年リリースの2nd。日本では彼女たちの代表作とされるであろう1枚。メジャーの『Polydor』と契約し、英米でも彼女たちの音楽が話題になり始めた。
 1stと本作のヒットのお蔭で洋楽界はスウェーディッシュ・ポップ・ブームとなり、多くのスウェーディッシュ・ギター・ポップ・バンドが日本デビューとなった。『渋谷系』のブームもこの頃がピークで、日本における彼女たちの人気もこの2ndから3rdからの頃が絶頂だった。
 1stに比べると、この2ndはよりポップであり、聴くひとによっては「甘ったる過ぎて聴けない」という批判もありそうだ。刺激は少ないけど、音楽的完成度は高い。
 大ヒットした“Carnival”を初め、“Daddy's Car”や“Fine”、“Hey! Get Out Of My Way”といった彼女たちの代表曲が聴ける。
 日本盤は『ライフ+5』という邦題で、1stの代表曲を5曲収録しており、彼女たちのグレイテスト・ヒッツともいえる内容。

First Band On The Moon

(国内盤 : ユニバーサル UICY-6591)
1. Your New Cuckoo 2. Bean It 3. Heartbreaker
4. Happy Meal II 5. Never Recover 6. Step On Me
7. Lovefool 8. Losers 9. Iron Man 10. Great Divide
11. Choke
 レオナルド・ディカプリオ主演映画『ロミオ+ジュリエット』の挿入歌にも使われ大ヒットを記録したシングル“Lovefool”を収録し、ワールドワイドでも大ヒットを記録した1996年リリースの3rd。これまたタンバリン・スタジオ・レコーディングで、トーレ・ヨハンソン・プロデュース。彼女たちの現在までのキャリアのなかでセールス的には頂点の一枚で、前作までの成功の余勢で日本でも大ヒットを記録し、翌1997年には日本武道館での公演を行っている。
 彼女たちの代表曲“Lovefool”が収録され、世界的に好セールスを記録してるものの、前2作ほどの神がかり的な完成度の高さはなく、どこかモヤモヤとした霞みがかった音像は、(今にして思えば)今後のダーク路線への布石だったのか。ま、“Bean It”と“Step On Me”は従来のポップ路線を承継した感じで私は好きですが...。1stに続いてブラック・サバスの曲(“Iron Man”)をオシャレにカヴァー。

Gran Turismo

(国内盤 : ユニバーサル UICO-1042)
1. Paralyzed 2. Erase/Rewind 3. Explode 4. Starter
5. Hanging Around 6. Higher 7. Marvel Hill
8. My Favourite Game 9. Do You Believe
10. Junk Of The Hearts 11. Nil.
 1998年秋にリリースされた4th。これまたトーレ・ヨハンソン・プロデュースのタンバリン・スタジオ録音作。彼女たちのキャリアで初めて2年ものブランクが空いた。
 前作からの方向性をさらに押し進め、インダストリアルっぽい味付けのサウンドの“Hanging Around”に代表されるようなダークな音像が支配する。弾けるようなポップさは皆無で、アルバム・ジャケットのデザインにみられるような夕焼け、陽暮れをイメージするようなメランコリックな楽曲が並ぶ。ギター・リフがユニークなシングル曲“My Favourite Game”、何故か松崎しげるの“愛のメモリー”を思い起こさせるバラード“Higher”など、聴かせ所はあるものの、印象が薄いアルバム。結果的には、せっかく前作でつかんだワールドワイドな成功も手放す「大失速アルバム」になってしまった。

Long Gone Before Daylight

(国内盤 : ユニバーサル UICO-1042)
1. Communication 2. You're The Storm 3. A Good Horse
4. And Then You Kissed Me 5. Couldn't Care Less
6. Please Sister 7. For What It's Worth
8. Leave Me Into The Night 9. Live And Learn
10. Feathers And Down 11. 03.45 : No Sleep
12. Hold Me (Mini Version)
13. If There Is A Chance 14. For The Boys
 ニーナがソロ・プロジェクト、A CAMPでの活動を行ったため、前作から5年ものブランクが空いた2003年リリースの5th。長きにわたる不在の間、ミュージック・シーンはすっかり彼女たちの存在を忘れてしまったようで(苦笑)、リリースされても(日本では)大きな話題にはならなかった。
 5年前の前作の作風の延長線上にあるダークな作風。全体的にテンポが緩く、デビュー時のはつらつさや清涼感は皆無で、ジャケットで彼女たちが示すように夜の就寝前のくつろぎタイムに聴くような音楽を披露している。ポップな“Please Sister”に「らしさ」を感じるけど、他にはギター・リフがロックっぽい“A Good Horse”が耳を引く。、ボーナス・トラックの“For The Boys”はポーナス・トラックゆえか、他の曲と比べポップで耳を引く。
 ちなみに、アルバムタイトルは“03.45 : No Sleep”の歌詞の一節より。

Super Extra Gravity

(国内盤 : ユニバーサル UICO-1091)
1. Losing A Friend 2. Godspell
3. Drip Drop Teardrop 4. Overload
5. I Need Some Fine Wine And You, You Need To Be Nicer
6. Don't Blame Your Daughter (Diamonds)
7. Little Black Cloud 8. In The Round
9. Holy Love 10. Good Morning Joan
11. And Then You Kissed Me II
 ベングド君がこんなにドラムを叩いたのは久しぶりなんじゃないでしょうか(苦笑)。ギターとドラムがラウドでロック然としてる“Godspell”、“ I Need Some Fine Wine And You, You Need To Be Nicer”、“Little Black Cloud”。“Holy Love”〜“Good Morning Joan”あたりは3rdの元気な頃のポップさを思わせる。

others

O.S.T.--Romeo+Juliet (import : Capitol CDP 7243 8 37715 0 9)
 レオナルド・ディカプリオ主演映画『ロミオ+ジュリエット』のサウンドトラック盤。ここにも収められた“Lovefool”が大ヒットし、彼女たちの人気は頂点に到達することになった。映画ではほんの少ししか使われてなかったケドね(苦笑)。

VARIOUS ARTISTS-- Lilith Fair : A Celebration Of Women In Music (import : Arista 07822-19007-2)
 サラ・マラクランが主宰する野外音楽フェスティヴァル『リリス・フェア』の模様を伝える2枚組ライヴ盤。カーディガンズも、NHK『紅白歌合戦』の紅組で登場したロス・インディオス&シルビアや平尾昌晃&畑中葉子、今年なら藤岡藤巻と大橋のぞみ状態で(笑)この女だらけの音楽フェスに参戦してました。1アーティスト1曲ずつ収められているこのアルバムで、彼女たちは“Bean It”のライヴ・ヴァージョンを提供してます。

註・この記事は、2007年9月の「Poetry Of The Month」に連動した特集として2007.9.27に「Discography」の大部分のみを完成させていたものの諸事情により未完成のまま放置されていた記事を、大幅加筆して2008.12.28に掲載したものである。

(2008.12.28)

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