一介のレディオヘッド・フォロワーから大物バンドへの軌跡

 『FUJI ROCK FESTIVAL '10』(以下、『フジ・ロック』)でミューズのライヴを観て来た。私がミューズのライヴを観るのは今年1月のジャパン・ツアー以来2回目だ。感想を一言で言うと、「トゥー・マッチぶりにますます拍車がかかった」(苦笑)。マシュー・ベラミーの光るサングラスに光るギター、ドミニク・ハワードのロボットやヒューマノイドのような丸い被りモノと潜水スーツ(またはモジモジくんスタイル...苦笑)、スタジオ・ヴァージョンには無い、インプロヴィゼーションふうのイントロやアウトロ、エンディングでのステージ上が全くみえなくなるまでの煙(パイロ)の量など、過剰な演出がてんこもりだった。このトゥー・マッチぶりがミューズというバンドを特徴づける要素かもしれない...と、『フジ・ロック』での今回のライヴをみて改めて感じた。
 私がミューズというバンドの存在を知ったのは、1stアルバム『ショウビズ』がリリースされたばかりの2000年1月のこと。当時はまだ日本盤はリリースされてなかった。渋谷BEAMの『レコファン』で推薦盤として平積みされてたのをみて、レコード・レーベルもマドンナの『Maverick』だし、ハズれってことはないだろうと思い、購入。アラニス・モリセットをはじめ、キャンドルボックス、ザ・レンタルズ、サマーキャンプなど、『Maverick』レーベル所属のアーティストには私の好みに致うアーティストは決して少なくなかったから。で、実際にこのミュースのデビュー盤『ショウビズ』を聴いてみたところ...。
 当時のロック・シーンを振り返ってみると、レディオヘッドが1997年に『O.K.コンピューター』という『爆弾』を投下してからというもの、シーンにはレディオヘッドからの影響を受けたような音楽や、ヘタするとレディオヘッドをそのままコピーしたかのようなマガイモノが登場し始めた。シーンがこーゆーふーになると、これを面白くないと思う人間は当然出て来るわけで、このようなフォロワーはアンチ・レディオヘッドの方々にとっては格好の攻撃対象となっていた。「レディオヘッドのせいで、こんなバンドばかり出てくる」ってふうに。一方、このようなアンチ・レディオヘッドの攻撃にさらされたレディオヘッドのファンは、「レディオヘッドのフォロワーがこんなに出てくるから、レディオヘッドが叩かれるんだ」などとフォロワーの出現を快くは思わない。ということで、彼らのデビュー当時には(本家レディオヘッドを別として)、レディオヘッド風のサウンドには逆風が吹いてた(と、思う)。彼らのデビュー・アルバム『ショウビズ』は、当時の私の耳にはレディオヘッドのフォロワーにしか聴こえなかった。なかには今でも耳に残ってる曲があるものの、私としては、彼らに対しては高い評価は与えられなかった。ま、ぶっちゃけ言っちゃうと、「ハズレ」だった(苦笑)。
 2001年に2nd『オリジン・オブ・シンメトリー』をリリースした時には、音楽雑誌『rockin' on』などは彼らを高く評価し、表紙にも抜擢。「UKロック・シーンの突破者」とキャッチ・コピーを付けられていたが、1stの内容に懲りてた私は、当時この2ndには手を出さなかった。今から思えば、この時に彼らの2ndを聴かなかったのは大失態といえる。今の耳で聴いても1stと2ndの内容には歴然とした差があり、2ndでは今につながるトゥー・マッチぶりを発揮し、よりドラマティックに、そして、よりダイナミックに音楽性を進化させた。
 次の『アブソリューション』では、それまで彼らの音楽に見向きもしなかったアメリカでも評価され『Billboard』の『Top Heatseekers』(要するに、注目株チャート)で1位となったことと、ピンク・フロイドやイエスなどのプログレ畑のジャケット・デザインを手掛けたヒプノシスのメンバーだったストーム・ソーガーソンによるアートワークに興味を持ち、2ndリリース時のような彼らを拒絶するような姿勢は私には無かったが、残念ながらこの時にも聴く機会がなかった。
 私がようやくミューズの音楽に『復帰』したのは、次の『ブラック・ホールズ・アンド・レヴェレーション』から。彼らは3rdですっかりワールドワイドな人気バンドになっており、この4thもリリース時には音楽雑誌で大々的に特集が組まれたりしてたため、リリースからそう遠くない時期に購入した。そして、音を聴いたところ、1stのレディオヘッド・フォロワー然としたところは無くなり、スケールの大きいサウンドを演ってるのに、ビックリ! 「あのミューズがいつの間にか、こんなに『化けた』!!!」ってのが、その時の偽らざる私の心境だ。そして、2ndと3rdをリアルタイムに聴かなかったことを後悔したが、「覆水盆に帰らず」で、これはもうどうしようも無い。
 ミューズがレディオヘッドのいちフォロワーから、世界有数のバンドになれたのは、彼ら(っつうか、マシュー?)の持つ音楽に対する貪欲さのせいだろう。自らのサウンドをスケール・アップするためには、メタルやR&B、プログレやクラシックからでもエッセンスを取り入れるその姿勢が彼らを大きくしてきたといえる。最新作『ザ・レジスタンス』では最早クィーンと肩を並べるほどの仰々しい音世界の域まで到達。今後作成されるであろう6thアルバムで、彼らがまたどこまで自らのサウンドをスケール・アップさせるのか、楽しみであり、恐ろしくもあり...(苦笑)。


2006年、『ブラック・ホールズ・アンド・レヴェレイションズ』リリース時
左から、クリス・ウォルステンホルム(b.)、
ドミニク・ハワード(ds.)、マシュー・ベラミー(vo., g.)

Muse Discography

Showbiz

(国内盤 : ワーナー WPCR-12336)
1. Sunburn 2. Muscle Museum 3. Fillip 4. Falling Down 
5. Cave 6. Showbiz 7. Unintended 8. Uno 9. Sober
10. Escape 11. Overdue 12. Hate This & I'll Love You 
 1999年にリリースされたミューズのデビュー作。
 アメリカではマドンナの『Maverick』レーベルからのリリースであり、「期待の大型新人」と思い込んでこのアルバムをリリース直後に買って聴いたけど、2年前にリリースされて当時のシーンに大きな影響を与えてたレディオヘッドの『O.K.コンピューター』ソックリなサウンドに、幻滅。「こんなフォロワーが居るからレディオヘッドが叩かれるんだ」と大いに落胆してしまった。
 とはいうものの、このアルバムでマシュー・ベラミーのヴォーカル・スタイルも、静と動のメリハリを付けるドラマティックなサウンド志向もすでに確立されており、彼らの未来を知ってしまってる今の耳で聴くと昔ほど悪印象が無いのにも驚かされる。マシューのヴォーカルは今よりもナルシストっぽいケド...(苦笑)。
 今では殆どライヴで演られることがないこのアルバムの曲ですが、私の場合、“Unintended”だけが昔からアタマに残る1曲となってます(苦笑)。

Origin Of Symmetry

(国内盤 : ワーナー WPCR-12560)
1. New Born 2. Bliss 3. Space Dementia
4. Hyper Music 5. Plug In Baby 6. Citizen Eraced
7. Micro Cuts 8. Screenager 9. Darkshine
10. Feeling Good 11. Megalomania
 デビュー盤と比較すると大化けした2001年リリースの2nd。
 元々のドラマティック指向に、ヘヴィー・メタル的とさえいえるダイナミズムやオペラ的な仰々しさを加え、いっそう劇的に進化。オルゴールの音色のようなイントロが印象的な“New Born”、ぐるぐる廻るシンセの音色のイントロが印象的な“Bliss”、マシューの鬼気迫る(?)ファルセットが凄い“Micro Cuts”などが代表例。カヴァー曲である“Feeling Good”もすっかり彼らのレパートリィとして定着。“Plug In Baby”は、後の彼らにつながるポップさが魅力。
 全英チャートで最高3位となる大出世作となったこのアルバムも、アメリカでは長らくチャートとは無縁だった。が、5thの大ヒットを受け、2010年になってからようやく『Billboard TOP 200』にランク・インを果した(笑...最高161位)。 

Absolution

(国内盤 : ワーナー WPCR-13672)
1. Intro 2. Apocalypse Please 3. Time Is Running Out
4. Sing For Absolution 5. Stockholm Syndrome
6. Falling Away With You 7. Interlude 8. Hysteria
9. Blackout 10. Butterflies & Hurricane
11. The Small Print 12. Endlessly
13. Thoughts Of A Dying Atheist 14. Ruled By Secrecy
 2003年にリリースされ、これまた大出世作となった3rd。全英No.1に輝くのは勿論として、いち早くアメリカのレーベルと契約していながら商業的成功に結びつかなかったアメリカでもヒットし、ゴールド・ディスクを獲得(全米最高107位)。今日のワールドワイドなビッグ・ネームへの足掛かりとなった重要作で、彼らの最高傑作に推す声も多い。
 シングル・ヒットしたポップな“Time Is Running Out”、前作に通ずるヘヴィーさを持つ“Stockholm Syndrome”、“Hysteria”といった曲が収録されてる一方、氷雨がしとしと降るかのような冷感を受ける“Sing For Absolution”、じわりじわりと歌が盛り上がってく“Falling Away With You”、ストリングスを導入し荘厳な仕上がりになった“Blackout”、ヘヴィーとみせかけて、ストリングスやピアノが入る展開となるなど、曲構成にヒネリが窺える“Butterflies & Hurricane”など、これまでのどのアルバムよりもプログレっぽい印象を受ける(苦笑)。もしかしたら、これは、ピンク・フロイドやイエスのジャケットを手掛けたヒプノシスのメンバーだったストーム・ソーガーソンを起用したアートワークからみた先入観かもしれない...(苦笑)。

Black Holes And Revelations

 

(国内盤 : ワーナー WPCR-12306)
1. Take A Bow 2. Starlight 3. Supermassive Black Hole
4. Map Of The Problematique 5. Soldier's Poem
6. Invincible 7. Assassin 8. Exo-Politics
9. City Of Delusion 10. Hoodoo 11. Knights Of Cydonia
 2006年にリリースされた4thで、アートワークにストーム・ソーガーソンを再び起用。全英チャートでNo.1を獲得し、全米チャートでも最高9位を記録し、この作品で全米でも人気を確立。
 ぐるぐる廻るイントロにブライアン・メイばりのギターがからむ“Take A Bow”で「いったい何がこれから始まるのか?」と聴く者を不安に陥れると、続くポップでキャッチーな“Starlight”ではドリーミィーな世界に誘う。続く“Supermassive Black Hole”はマシューのファルセット・ヴォイスが冴えるファンキーな曲で、次の“Map Of The Problematique”ではキーボードの音色が印象的...といった具合に、楽曲ごとに表情が目まぐるしく変わる。揺り籠に揺られるような“Soldier's Poem”、ヘヴィーな“Assassin”、西部劇の一場面のような情景が目に浮かぶ“Knights Of Cydonia”なども面白い。

The Resistance

(国内盤 : ワーナー WPCR-13629)
1. Uprising 2. Resistance 3. Undisclosed Desires
4. United States Of Eurasia (+ Collateral Damage)
5. Guiding Light 6. Unnatural Selection 7. MK Ultra
8. I Belong To You (+ Mon Coeur O'vour A Ta Voix)
9. Exogenesis : Symmphony Part 1 (Overture)
10. Exogenesis : Symmphony Part 2 (Cross-Pollination)
11. Exogenesis : Symmphony Part 3 (Redemption)
 ジョージ・オーウェルの小説『1984』にインスパイアされたという2009年秋リリースの最新作。
 これまでの延長線上にありながらも、スケール感がアップ。コンセプト・アルバムらしく、終盤に“Exogenesis”組曲があり、ショパンの夜想曲第1番やカミーユ・サン=サーンスのオペラ『サンソムとデリラ』からの曲をさりげなく楽曲間のつなぎで使ってるせいか、これまでになくゴージャスな感じもある(苦笑)。クィーン風のヴォーカル・コーラスが聴ける“United States Of Eurasia”のせいか、彼らの音楽の仰々しさは遂にクィーンの域まで到達したような印象まで持ってしまう。この後、いったいどこまで彼らの音世界は膨張し続けるのだろうか?

others

The Twilight Saga : Eclipse (import : Summit Ent/Chop Shop/Atlantic 524662-2)
 新曲“Neutron Star Collision (Love Is Forever)”を収録。ピアノをバックに始まり、バンドが加わってどんどんサウンドが盛り上がってく...という、いかにも彼ららしい曲です(苦笑)。

(2010.7.31)

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