ヒロくんのLIVE REPORT '96 PART 6 ASH

 ラッシュのライヴを観てから10日あまり経った9月28日、また私は新宿・歌舞伎町のド真ン中にあるリキッド・ルームに来てしまった...。ここに来たのは北アイルランドはベルファスト出身の新人バンド、アッシュの2回目の来日公演を観るためだった。今年出たアッシュのフル・デビュー・アルバムのタイトルは『1977』。このタイトルから判るように、アッシュのメンバー3人のうち2人は'77年生まれ。ということはまだ19歳! 残り1人も21歳で、殆どティーンエイジャー・バンドと言っていい彼らの観客は彼らと同世代の連中が中心で、私などは完全に浮いていた...。
 6時50分から、前座の日本のバンド、Pre-schoolが4〜5曲演奏。機材の準備が整った7時20分頃、場内のBGMが007の“ゴールドフィンガー”らしき曲に変わり、暫くするとアッシュの3人が登場。ギターを構えたティム・ウィーラーが弾き始めたフレーズはアルバム『1977』のオープニング曲の“Lose Control”のイントロ。これにはみんなすぐ反応し、会場はすぐに熱気に包まれた。3曲目ではダイヴ敢行者も登場するくらい観客のテンションは高かった。
 『1977』というアルバム・タイトルには、アッシュのメンバーの生まれた年という意味のほかに、パンクが生まれた年という意味も込められている。これから判るように、アッシュの音楽性は結構パンキッシュだったりするのだが、意外にも客は10代後半の女のコが多い。男女比率は5:5、もしくは4:6で女のコのほうが多かったかも知れない。ヴォーカル兼ギターのティムをはしめ、ベースのマーク・ハミルトンもドラムのリック・マックマーレイも幼さを残したカワイらしい顔をしているため、女のコのファンがつきやすいのだろうが、それよりも4曲目の“Oh Yeah”のサビの部分でみんなが「オ〜、イェ〜」と大合唱になったことに代表されるように、パンキッシュでありながらポップで親しみやすい楽曲に女のコたちにアピールするものがあるんだろう。
 5曲目の“Angel Interceptor”と6曲目の“Get Ready”はCDでは彼らにしては少し凝った作りになっていた曲。CDのイメージと違うので、ライヴで演られてもそれとはすぐに気づかなかった。その原因はCDで聴いてても判るヴォーカルの弱さ。ライヴでもティムのヴォーカルは弱く、ギターの轟音ノイズによって何とかごまかしているといった感じ。アッシュはパンク寄りの10代の若さを発散するようなバンドから、楽曲で勝負するバンドへ移行しつつあると私は見ているが、ティムのヴォーカルに何らかの改善がみられない限り、若さの衝動にまかせてギターノイズを撤き散らすだけのバンドで終わってしまいそうな危うさも感じた。
 アッシュの3人のなかで最も目立ってたのはやはりヴォーカル兼ギターのティム。ドラムのリックはバス・ドラムに「FUCKIN' EDDIE DINGLE」と書かれたセットで黙々とリズムを叩き、照明の具合でまるでフラック・グレープのベズのような形相になったベースのマークが、ベズと同じように激しい動きで観客を煽っていた。
 10曲目はヒット曲“Goldfinger”。これには観客、大歓声で応えた。この後“Lost In You”、“Let It Flow”、“Girl From Mars”とラヴ・ソング3連発。この3曲は確かに曲がよく出来ていて、この若干19歳のガキどもの才能を確認させ、未来を期待させる。
 ラヴ・ソング3連発で少し観客をおとなしくさせたところで、インスト・ナンバーの“Hulk Hogan Bubblebath”(すげェ〜タイトル)でギターノイズを撒き散らした後、ティムが「日本の客はスゴいよ。トウキョウはスゴいよ」ってな感じで、盛り上がり続ける観客にお礼を言い、「今夜は特別にABBAの曲を演るよ!」とABBAの曲(私には曲名までは判らない)まで披露した。この後、“Everything Is All Around”を披露して、アッシュの3人は一度ステージを去ったが、アンコールを求める手拍子および足踏みに呼び戻された。まだ『あの曲』が残ってる!!!
 普通、アンコールは『1〜2曲披露しておしまい』ってパターンが多いが、アッシュの面々は幾つも曲を演ってくれた。でもなかなか『あの曲』を演らない...ってことはライヴはまだ終わらない。ラヴ・ソング3連発のころからマークのベースの調子が悪かったのだが、ここらに来て調子の悪さが頂点に達し、ローディーのかたやティムがマークのとこに来て、いろいろ話しかけたりしていた。これを見て、女のコたちがマークのことを心配して「マーク〜」と歓声を次々にかける。これを見て女のコの嬌声をマークに全部取られてなるものか!とばかりに、ティムが自分で「ティム〜」と嬌声のマネをしていたのが笑えた。
 “Season”、“Punk Boy”と曲が披露されていった。が、まだ『あの曲』が残っている。そしてついにティムが『あの曲』を紹介した。「今夜の最後の曲、“Kung Fu”!」ブルース・リーやらジャッキー・チェンやらの名を織り込み、カン・フーヘの憧れを歌にした10代の少年らしいこの曲がやはリライヴの締めだった。曲が終わると、ティムたち3人は観客に手を振ってステージを去り、場内には映画『スター・ウォーズ』のテーマ曲が流れた。アルバム『1977』と同じように...。(註、アルバム『1977』の日本盤ボーナス・トラックを除くと最後の曲になる“Darkside Lightside”のエンディングをよく聴くと、ティムが『スター・ウォーズ』を口ずさんでるのが聴こえる)
 ライヴが大いに盛り上がったせいもあり、日本盤のみのボーナス・トラックを含めてアルバム『1977』から全曲披露するなど、全部で22曲も演ってくれた。観客の盛り上がりようといい、アッシュの演奏も及第点を軽くクリアしていたことといい、ティムのヴォーカルの不安定さを除けばケチのつけようのないライヴだったわけだが、10代後半の客中心でダイヴ敢行者続出の『おしくらまんじゅう』状態のなかでライヴを観るのは疲れる。やっぱり『1977』ってタイトルのアルバムを出すようなアーティストのライヴは私にはちょっとキツかった...。

【SET LIST】...'96.9.28 新宿リキッド・ルーム
1. Lose Control
2. Jack Named The Planet
3. I'd Give You Anything
4. Oh Yeah
5. Angel Interceptor
6. Get Ready
7. Innocent Smile
8. Uncle Pat
9. Petrol
10. Goldfinger
11. Lost In You
12. Let It Flow
13. Girl From Mars
14. Hulk Hogan Bubblebath
15. (ABBAのカヴァー)
16. Everything Is All Around

(encore)
1. Darkside Lightside
2. T. Rex
3. Gone The Dream
4. Season
5. Punk Boy
6. Kung Fu

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