ヒロくんのLIVE REPORT '96 PART 9 HAYDEN

 ドッジーのライヴを観た後、横浜・金沢八景に住む友達の家に転がり込み一夜を明かした翌日の10月6日、私はまたもや渋谷クラブ・クアトロに戻って来た。この日はヘイデンのライヴ!!!
 今年デビューした新人のなかで異色中の異色アーティストがこのヘイデンことヘイデン・デッサー。カナダはトロント出身のこの24歳のフォーク・シンガーがシーンの話題をさらった理由は、その独自の歌詞世界にある。ヘイデンが歌う内容は、誰にでも起こり得る情けない日常模様を描いたものが殆んど。このあまりの情けなさが聴く者の共感を呼ぶのだが、この歌詞を歌う声もサンド・ペーパーのようにザラついていて、聴く者の心を大いに揺さぶる。私もヘイデンの歌声を聴いていると思わず涙が出そうになってくるクチである。
 会場に入ると、ステージ上はすでに機材のセッティングが終わっていて、そこにはアコースティック・ギター(以下、アコギ)が2本とピアノ1台のみがセットされていた。どうやらバック・ミュージシャンなどおらず、今日のライヴはヘイデンひとりの弾き語りとなるようだ。
 7時を少し廻ったころ、カバンをぶら下げてヘイデン登場! ステージの椅子に座ると、いきなりカバンの中身を出し始め、紙を何枚も拡げている。暫くモタモタしたあと、ようやくアコギを構えて演奏された曲は、恋の告白を友達に頼んだら、見事にフラれてしまう歌“Hardly”。曲が終わるとヘイデンは10月17・18日にここでライヴを演るレイ・ヘイデンのチラシを掲げ、「I'm Hayden. I'm not Ray Hayden」と喋った。これには会場のみんな大笑い。次にヘイデンは足元の紙を拾い、「日本語の練習していた」と言って「ボクハへいでんデス。ボクノこんさーとニ来テクレテ、ドモアリガト」とカンペを見ながら日本語を披露した。
 次の曲は、風の強いに日に薔薇の花束を持って彼女の家を訪ねたら、風で花びらが全部飛んでしまい、茎だけになっていたという歌“Stem”(邦題は“茎”。以下、()内は邦題)。この曲が終わると、フォーク・シンガー御用達のアダプターつきのハーモニカ...ギターを弾きながらハーモニカも吹けるようになっているヤツを装け、“Tragedy”(“悲劇”)を演った。ここでヘイデンはまたもカンペを見ながら日本語を披露。発音が悪かったので聴き取れなかったが、どうやら「自分は酒飲み野郎だ」みたいなことを喋ったみたいだ。次に新曲を披露した後、ヘイデンはアコギを脇に置き、ピアノに移った。両親の留守を見計らって、家に彼女を連れ込み一日中ベッドルームで過ごす歌“My Parent's House”とI'm To Blame”(“責められるべきはこのぼく”)の2曲をピアノの弾き語りで披露した後、再びアコギを構え、またも日本語に桃戦。「今日ノ朝ゴハンハ、4500円デシタ」あまりの金額の大きさに、会場から「エエ〜ッ」、「ヘイデン、おまえボラれてるよ」と声が上がった。さすが外タレ、いいモノ食ってますね。
 こうして会場が沸いた後、家賃を払いたくないから43歳独身でも親と同居しているだろうなと話す冴えない独身男性の歌“Bad As They Seem”を演奏。この後ヘイデンは「昔、柔道をやったことがあって、日本語で数字をカウントできる」と言い、「one two three four」ではなく「イチ、ニ、サン、シ」とカウントして次の曲“We Don't Mind”を始めた。この曲は、恋人と朝まで過ごし、会社行くのかったるいから仮病の電話入れに公衆電話ボックスに入ったら突然大雨が降りだし、2人とも電話ボックスから出られなくなるという歌。この後、また日本語に桃戦。「ミナサン、耳イイデスネ」と聴衆の耳のよさを褒めた後、午前2時に恋人から「アタシ今夜のパーティーでイイ男にナンパされちゃったあ」との電話を受ける男の歌“In September”。この曲でのヘイデンのヴォーカルはホントに鬼気迫るものがあった。
 ここまで書いてきたようにヘイデンは曲の合間に日本語MCを何度も披露したりして、観客とのコミュニケイションを図ってくれた。この後も「ボクノ足ノ裏ハ、ボクノ脚ヨリ大キイデス」と日本語で言い、みんながキョトンとしていると「My feet is longer than my leg」と解説してくれたり、「ミナサンハ、へいでんデスカ?」とみんなを笑わせたり、ヘイデンはホントにいいひとでした。だけど「ミナサンハ、わすれたデスカ」という謎の日本語MC、「ワスレタ」っていったい何だ?
 ライヴのほうは“You Were Loved”(“愛されていたきみ”)を披露した後、新曲を3曲演奏し、午前3時までTVを観て、朝遅くまで裏ているのが好きな男の歌“Lounging”という順で進んでいった。そして、再婚の邪魔になた、実際にアメリカであった事件を題材にした歌“When This Is Over”(“すべてが終わったら”)が披露され、今にも溺れ死ぬ兄弟になりきったヘイデンの悲病な叫びでライヴの本編の部分が終わり、ヘイデンは客に軽くペコリとおじぎしてステージを去った。
 観客のアンコールの手拍子に呼び戻されると、ヘイデンは次のように話し始めた。「僕の泊まっているホテルの部屋のトイレで用を足して水を流したら、便器から水がかかってきてホント、ビックリしたよ。みんなウォシュレットって知ってる?」これで先ほどの謎の日本語MC「ミナサンハわすれたデスカ」の意味が解った。あれは「ミナサンハうおしゅれっとデスカ」と言っていたのだ。つまり「みんなの家にもウォシュレットついてるか?」と訊いていた訳だ。外国のかたにはウォシュレットは珍しい物のようだ。もしかしたら次のヘイデンのアルバムには、便器から水が飛び出してきてビックリする男の歌が収録されるかも知れない。
 アンコールでは2曲新曲を披露。曲の合間に「倒レルマデ酒飲ミマス」と日本語MCをキッチリ技露。ー度ヘイデンが引っ込むと、またアンコールの手拍子が起こり、2回目のアンコール。1曲目はピアノでカヴァー曲らしき曲を演り、2曲目にアコギで新曲を抜露してこの日のライヴは終わった。ヘイデンの優しい人柄に触れ、心温まるひとときでした。

【SET LIST】...'96.10.6 渋谷クラブ・クアトロ
1. Hardly
2. Stem
3. Tragedy
4. (新曲)
5. My Parent's House
6. I'm To Blame
7. Bad As They Seem
8. We Don't Mind
9. In September
10. You Were Loved
11. (新曲)
12. (新曲)
13. (新曲)
14. Lounging
15. When This Is Over

(encore 1)
1. (新曲)
2. (新曲)

(encore 2)
1. (カヴァー曲、もしくは新曲)
2. (新曲)

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