ヒロくんのLIVE REPORT '97 PART 12 PAVEMENT

 俺は頑張ってるぜ〜!(I'm trying!) 4枚目のアルバム『ブライトゥン・ザ・コーナーズ』を引っ提げ、ペイヴメント、4回目の来日ツアー〜!!!(ちなみに『俺は頑張ってる』はペイヴメントの昔の所属レコード会社のキング・レコードが彼らに付けたキャッチ・フレーズ)
 ペイヴメントといえば、ロー・ファイの代表的バンド。ロー・ファイの対義語といえば、ハイ・ファイ。ハイ・ファイとは『high fidelity = 原音に忠実な』と言う意味どおり、音楽理論にかなった音を目指す姿勢のことになるだろうか、「楽譜どおりに演奏しなきゃいけない」、「リズムは正確に刻まなきゃいけない」、「歌は少しでもメロディー外しちゃいけない」と世間一般のひとは殆んどハイ・ファイのメンタリティーのもと、音楽にいそしみ、少しでも『原音に忠実』であるべく練習を重ねるものであるが、そんな風潮を笑いとばすべく'90年代に入ってから現われたイチ勢力がロー・ファイ。ロー・ファイは「リズムが狂っても、メロディー外しても、いったいどこが悪い!!!」と完全に開き直っていて、ハイ・ファイのメンタリティーにドップリ浸かっていた者には、やりたくとも怖くて出来なかったことを平気でやり出した確信犯、居直り強盗だ。そんなロー・ファイと呼ばれるアーティストのなかの出世頭がペイヴメント。彼らの音楽を聴けば判るとおり、歌はヨレヨレ、ギターはヘロヘロ、ドラムは走ってるのかモタっているのかよく分からないリズムで、やたら音の数の少ないスカスカの独自の音世界を持っている。レコード・セールスは大したことはないが、'90年代の音楽に強い影響力を持つバンドだ。例えばこの1月に出たブラーの新作には、ペイヴメントそっくりな曲が見受けられる。現代ロック・シーンに影響力甚大なペイヴメントの7月6日の名古屋クラブ・クアトロでのギグを観に行ってきた。
 7時からオープニング・アクトのアッシュが登場、8曲演奏した。アッシュといってもアイルランドの悪ガキ3人組ではなく、日本の男性3人女性1人による4人組で、小山田圭吾の人脈に連なるバンドらしい。ヴォーカルが日本語で歌ってるのか英語で歌ってるのか判らんくらい音が悪かったのは残念だったものの、ヘヴィーなリフ主体のノリ重視の音楽自体には好感持てた。それにしても、体の線の細い女性が男性用のデカいベースを演奏する姿はとてもセクシーですね。(←1曲だけギターの女性がベースを弾いた)
 セット・チェンジの後、7時50分頃、いよいよペイヴメントの5人が登場。オープニング曲は新作『ブライトゥン〜』から“Date With IKEA”。この曲ではスティーヴ・マルクマスではなく、ギターのスコットがヴォーカルを取った。ペイヴメントの曲は全部スティーヴ・マルクマスがヴォーカルを取っていると信じて疑っていなかった私は、ここで初めてスコットもヴォーカルを取ることを知った。次に披露されたのは『クルーキッド・レイン』からの“Ell Ess Two”。ここからはスティーヴ・マルクマスがヴォーカルを取った。
 ステージ向かって左側にヴォーカル兼ギターのスティーヴ・マルクマス、右側にはギター兼ヴォーカルのスコットが居て、この2人の間で派手なアクションを交えながら...というよりも、踊りながらマークがベースを弾いていた。そしてステージ奥の左側では数の少ないドラム・セットで、ヒゲもじゃでアヤシい風貌のスティーヴ・ウエストがリズムを刻み、ステージ奥の右側ではフロア・タムだけのもっとシンプルなドラム・セットで2ndドラマーのボブがリズムを刻み、キーボードで雑音を出し、奇声を発していた...。
前回、ライヴ・リポートしたbisは『ドラマーがいないバンド』だったが、ペイヴメントは『ドラマーが2人いるバンド』だ。メンバーみんな普段着と変わらぬ格好をしていて、ヒゲもじゃでアヤシいスティーヴ・ウエスト以外の4人は見た目はそこらの兄ちゃんで、全然ロック・ミュージシャンらしさは感じられず、スティーヴ・マルクマスがクネクネした手ぶりを交えて“Stereo”を歌った姿なんかカッコよさのカケラも無く、情けなさすら感じられた。
 観客はみんな、ロー・ファイならではの『ズレ具合』や『壊れ具合』を聴きに来ているものと思いきや、“Shady Lane”では合唱が起こったり、“Silence Kit”などではダイヴをする奴が出たりと、フツウのロック・コンサートと違わぬ盛り上がりかただった。フツウのロック・コンサートと大きく違っていたのは、ペイヴメントの演奏。ロー・ファイの彼らにアルバムどおりの演奏をハナから期待していなかったが、どの曲を演っているのか演奏と歌メロを聴いているだけではそれと判らず、歌われている歌詞を聴き取ってようやく何の曲を演っているのか判る...そんな曲が少なからずあったのにはホント、参った...。スコットがヴォーカルを取った“Kennel District”と“Passat Dream”なんかそうだ。さらに曲の繊細さが気に入っていた“Blue Hawaiian”を繊細さのカケラもない演奏で披露されるなど、曲に対する思い入れをおもいっきし踏みにじられた私。最初からバカ騒ぎやってる“Best Friends Arm”といった曲のほうが安心して聴いていられたよ!!!
 “Type Slowly”でメンバーが一旦引っ込んだ後、アンコールで“We Are Underused”をまず披露。次に疾走感あふれる“Embassy Row”を演奏。大いに盛り上がったところでライヴ終了かと思いきや、またしてもサビの歌詞によってようやく何の曲演ってるか判った“Stop Breathin'”を披露してライヴを締めたペイヴメント、CDでさえその歌と演奏のヘナチョコぶりから『怪文書』と呼ばれる彼らは、ライヴでは『怪文書をコピーしたものをさらにFAXして解読不能にしたもの』になっていた...。演奏終了後スティーヴ・マルクマスが足元の演奏曲目表を拾い、紙飛行機にして客席へ飛ばした。が、前に重心を置き過ぎたため、紙飛行機はヘロヘロと漂った後、観客の最前列に落ちた...。紙飛行機までロー・ファイしてたヘナチョコなライヴに、会場に居る時こそ「何じゃこりゃああ〜!」と混乱したが、時が経つにつれて「笑えるものを見せて貰った」と思わず頬が緩む私である。

【SET LIST】...'97.7.6 名古屋クラブ・クアトロ
1. Date With IKEA
2. Ell Ess Two
3. Father To A Sister Of Thought
4. ?
5. Grave Architecture
6. Shady Lane
7. Silence Kit
8. Black Out
9. Stereo
10. Perfume-V
11. Transport Is Arranged
12. Kennel District
13. Starlings Of The Slipstream
14. ?
15. Blue Hawaiian
16. Best Friends Arm
17. Passat Dream
18. Cut Your Hair
19. Type Slowly

(encore)
1. We Are Underused
2. Embassy Row
3. Stop Breathin'

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