ヒロくんのLIVE REPORT '97 PART 21 DINOSAUR JR.

 10月9日、会社を休んで名古屋クラブ・クアトロでキャストを観たことは前回お伝えしたとおりだが、その後、車中で一夜を明かした私はそのまま東京へ移動した。10月10日体育の日は渋谷クラブ・クアトロで『恐竜息子』こと、ダイナソーJR.のライヴ〜!!!
 ダイナソーJR.は今年リリースしたアルバム『ハンド・イット・オーヴァー』が7枚目のアルバムとなる程キャリアがあるバンド。と言いつつも、4枚目の『グリーン・マインド』以降は、殆どギター兼ヴォーカル(兼ドラム)のJ・マスキスのソロ・プロジェクトとして機能している。「就職したくないから音楽やってる」、「雲のようにぷかぷか浮かんでいられればそれでいい」などの数々の名言を残し、音楽メディアから『無気力大魔王』なるアダ名を戴いているJ・マスキスが大学在籍中に始めたこのバンドは、その『無気力大魔王』の名に恥じることなくどうしようもなくヘロヘロヨロヨロのギターとヴォーカルが『売り』になっている。(あ、それと『泣き』のメロディーもね) 最近、雑誌でもさほどド派手な扱いをされなくなったのでダイナソーJR.の人気も凋落か...と思っていたが、どうしてどうして会場はほぼフルハウス状態。7時10分過ぎ、ダイナソーJR.の3人が登場。ステージ上向かって左から順に、リーダーのJ、ドラムのジョージ・バーツ、ベースのマイク・ジョンソンというポジショニングで始まったオープニング曲はというと...。実はダイナソーJR.、ライヴではギターの轟音の凄まじさでも有名で、そのギターの轟音を撒き散らすJ・マスキスは『轟音大魔王』との異名も取っている。従ってライヴ開始早々の轟音の渦にJの無気力ヴォーカルは殆どかき消され、何の曲演っているか分からないィィィ〜!!!曲が半分ぐらい進んでようやく3rdアルバム『バグ』からの“Freak Scene”と解ったくらい。続いて『グリーン・マインド』から“Blowing It”。そのままアルバムどおりの流れで“I Live For That Look”へと続く。ムーミンが長髪にしたようなルックスのJ。そんな体型にもかかわらず、観客からは「ジェ〜イ!!!」と声援が何度もとんでいて、うち2回に1回は女のコからのものだった。しかし、Jが観客からの声援に、挨拶を返したり手を振って応えたりすることは「全く無かった」と言っていいほど少なく、曲の間には殆ど毎回、ギターのチューニングを直すギター・テクニシャンが待ち構えているステージ袖に行きギターを交換し、水をガブ飲みしてた。『無気力大魔王』のJ、ファンからの声援に応えるのすら億劫なようだ。そんな『無気力大魔王』の代わりに金髪...というか殆ど白髪に近いブロンドの髪を短く切り込んだベース兼バック・ヴォーカルのマイク・ジョンソンがいろいろMCしてファンとコミュニケイトし、バンド・メンバーでありながらCDでは全てのドラムをJに叩かれ(Jは元々、ドラマー)、ライヴの場でしか自己主張の場が無いジョージ・バーツは、激しいドラミングで存在をアピールしていた。
 新作『ハンド・イット・オーヴァー』からの“Loaded”の後、アルバム『ホエア・ユー・ビーン』から“Out There”を披露。イントロのギター・ソロを早弾きしたり、間延びさせたりと、CDとは一味違った演奏で聴かせてくれたJ。『Jのギターには殺傷能力がある』と書かれているのを何かで読んだ記憶があるが、Jの“Out There”のイントロでのギター・プレイを観ているとなんかミョーに納得させられた。
 トレンドとは無縁なバンドだけに会場のフロアを埋める客は筋金入りのダイナソーJR.ファンのようで、“Out There”ではモッシングの嵐。そしてその上を『人上水泳』する者が次から次から転がっていった。私はそういうアクティヴィティーの高そうな位置を最初から避けた位置で観ていたので、自分にさえ害が及ばなければライヴの盛り上がりに一役買ってくれる彼らは大歓迎である。
 新作『ハンド・イット・オーヴァー』にはそれまでのダイナソーJR.のアルバムと大きく異なる点が1つあって、それはJのヴォーカルがファルセット(裏声)主体 であること。その典型的で例である“Can't We Move This”...この曲は特に私のお気に入りなのだが、バックの大音響にJのファルセット・ヴォーカルは完全にかき消されてしまった。もともと裏声だから声量が少ないのは解るが...。歌が聴こえないので観客も何の曲を演っているか解らなかったようで、この時だけはヒイていたような気がする。私も思い入れがあった曲だけに「これならCD聴いてたほうがいい」と思ったよ、正直なところ...。
 “Can't We Move This”でヒイた客も“Get Me”や“The Wagon”といった人気ナンバーがプレイされると元の賑わいを取り戻し、“The Wagon”ではまた『人上水泳』する者がころころと転がっていった。次の曲はまたも新作からファルセット・ヴォーカルの曲“Alone”。この曲はバックの演奏がうるさくなかったので、Jのファルセット・ヴォーカルと泣きのギターが堪能できた。続いて2ndアルバム『ユー・アー・リヴィング・オール・オーヴァー・ミー』から“Raisans”、5thアルバム『ホエア・ユー・ビーン』から“Goin Home”と“What Else Is New”を演って、ダイナソーJR.の3人はステージを去った。
 この後、観客から手拍子が起こり、アンコールに入る...という流れになる訳だが、ライヴ慣れしてる『東京モン』どもは「どーせ、この後アンコールでまたすぐ戻って来るんだろ? んなの解りきってるじゃん」とばかり手拍子もお座なり。「曲をもっと聴きたぁ〜い!!!」という必死さのない客に「相手はあの『無気力大魔王』のJ・マスキスだぞ!!! 『手拍子少ないからアンコールやめよォ〜っと』と戻って来なかったらどおする!!!」と怒りすら湧いた私。あ、『無気力大魔王』のJのファンだから、観客もみんな無気力なのか? 
 こちらの心配をよそにちゃんとアンコールで戻って来たダイナソーJR.の3人。1曲目は“Feel The Pain”。この曲での観客の盛り上がりは凄まじく、また『人上水泳』する者がころころころころと転がっていった。この後、カヴァーらしい曲を1曲披露するとJは「thank you! good night!」とこの日一番大きな声(歌っている時も含む)、そして元気な声でウレシそうに挨拶してステージを去った。ライヴから解放されるのがそんなに嬉しかったの、J? 流石は『無気力大魔王』である。

【SET LIST】...'97.10.10 渋谷クラブ・クアトロ
1. Freak Scene
2. Blowing It
3. I Live For That Look
4. Loaded
5. Out There
6. Never Bought It
7. Can't We Move This
8. Get Me
9. The Wagon
10. Alone
11. Raisans
12. Goin Home
13. What Else Is New

(encore)
1. Feel The Pain
2. ( ? )

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